03話 デート?
日曜日の朝。
また、約束の海辺へ行った。
その日はまだ春だというのに、とても暑い日だった。男女2人で出かけるのは、僕の人生上これが初めてである。バケットリストが一つ減った。
と言っても相手はまぁまぁなおばさんだけどね。
「あ、かおるくーーーん!!!」
いつもの場所に、彼女はいた。
相変わらず足は無かった。
最後に会った時から何も変わらない姿で、そこに立って(?)いた。
「ごめんね〜。こんな朝早く、しかも日曜日に、。」
「いえ、いいんですよ。僕が手伝うって決めたことなので」
「本当に優しいのね。」
「べ、別に普通ですよ」
「なに?照れてるの?可愛いとこあるじゃないのこの〜」
「ちょ、やめ、やめろー!手伝わないぞ!」
不意にからかわれ、つい口調が砕けてしまう。
「はいはい、ごめんなさいね。ふふっ。」
絶対反省してないよな、この感じ。まぁ、楽しそうだからいっか。
「それで、まずはどこに行きたいんですか?」
「まずは映画かな!なんと!私が生前見ていた「星の戦争」シリーズの続きが始まったそうなのよ〜!早く見たいわ!」
あぁ、それなら俺も知ってる。光る剣が出るやつだ。
「わかりましたよ。それじゃあ、行きましょうか。」
「ええ!」
こうして、僕たちは海を背にして、街の方へと歩き出した。
凪と他愛もない話をしながら歩いていると、ふと気になった事があった。
「そういえば、凪って他の人からは見えないんですよね。だから、今僕が凪と話しながら歩いてるって、はたから見れば、僕が1人でブツブツ独り言を呟きながら歩いてるってことになりますよね。それってキモすぎません?」
「確かにそうね、ふふふっ。」
やっぱり、人前ではあまり話さないようにしよう。
それにしても、口元を抑えながら笑う仕草が上品である。
映画館の道すがら、商店街を通ると、美味しいと評判が高い団子屋の「とらや」の前を通ると、凪が興味を持ったらしい。
「あそこ、人だかりができてるわね。何かあるの?」
「あぁ、あそこですか?団子屋のとらやですよ。言っておきますけど、葛飾の柴又にあるのとはまた別物ですよ。」
「あらあら、若いのに随分古いネタね?まぁそれはそれとして、お団子久々に食べたいわね!ちょっと買ってきてちょうだいよ!」
幽霊ってご飯食べれるの!?
「幽霊なのに食べれるんですか?」
「ええ、もちろん。でも、食べなくても死なないし、食べる必要もないわね。もっとも、もう死んでるんだけどね!」
てへって感じで、舌を出す。いや、可愛くないよ?おばさんがそれをやっても少し痛いだけだよ?
「なるほど、じゃあ買ってきますね。何味が食べたいですか?」
「そうね〜。じゃあ、みたらし団子!薫くんもそれでしょう?」
「なんで俺の好物を知ってるんですか!」
「いいじゃない、そんなこと。それよりほら、早く買ってきてよー」
いまいち掴みどころがないな、この人は。
しばらくして。
「買ってきましたよ」
「やったー!それじゃあ、いっただっきまーす!」
団子を頬張る。よほど美味しかったのか、ニコニコしながら、うっとりしながら食べている。ここまで喜んでもらえたなら、買ってきた甲斐があるってもんだ。
「それじゃ、行きましょうか。」
そんなこんなで、映画館に着いた。
機械で席の予約をする。
「へー、今時は機械なのねぇ。」
そんなことを1人で呟いている。
昔は受付の人でもいたのだろうか。
ふと、凪が何かに気づいたように、僕の操作していた機械を指す。
「あれ?なんで2人分席を予約するの?もしかして……私の分?」
「当たり前でしょう。じゃ凪さん、どうやって見るんですか?」
「いいわよ私の分は!立って見るから!」
「それじゃ僕の申し訳が立たないんですよ!まぁまぁ、1000円なんて安いですよ。」
「この子、なんて優しいの!?」
驚いたようにのけぞっていた。
「そんなこといいですから、行きますよ!団子のせいで上映時間に間に合わないかもなんですよ!」
「わかったわよー。」
そんな感じで、上映するギリギリまで感謝された。
―――――――――――
上映後。
「面白かったわー!もう未練はない!」
「じゃあ、もう成仏するんですか?」
「い、いいえ、実はまだやり残した事が、、」
どんだけこの世に未練抱えてるんだよ。というか、未練ってもっと大きなものというか、重大なものっていう印象があったが。こんなしょうもないことでも、未練になるのだろうか。
「わかりましたよ。それで、次はどこですか?」
「動物園!」
おい、こいつ行きたいだけだろ、絶対。
「でも、ここから遠いですよ?」
「電車使えばいいじゃない!ほら、行くわよー!」
そうして俺は、凪に1日振り回され、映画、動物園、水族館に至るまで、全てを回った。
―――――――――――
もう日が傾きかけていた頃。
「はー!面白かった!水族館!クラゲが可愛かったわ〜」
クラゲて、、どんなセンスしてるんだよ
ふと、凪がこっちを振り返り、
「ねぇ、この街でさ、1番見晴らしがいい場所って知ってる?」
と聞いてくる。
見晴らしがいい場所?この街には、山の上に展望台があったな。綺麗な景色でも見たいのだろうか。浮いていけばいくらでも見れるでしょうに。ロマンチストか?
「展望台がありますよ、山の上に。」
「それじゃ、最後にそこに行きたい。」
「えー、最後?んーまぁ、最後なら付き合ってあげなくもない。」
「やったー!」
両手をパチパチさせて喜んでいる。こうして、俺たちの成仏を巡るデートは、終わりを迎えようとしていた。いや、デートじゃないけどね?
「でも、これが最後ですからね?約束ですよ?」
「わかってるってー!展望台〜♪」
楽しそうだなぁ。
――――――――
到着。
「ここが展望台です。」
「へー、思ってたより高いかも。でもすっごく綺麗な景色ね。」
確かに、ここからは僕の住んでいる街が一望できる。夕焼けに染まる空と、オレンジ色に染まる街。その太陽は、水平線へと沈もうとしていた。
うん、この時間帯はやはり綺麗だな。
「改めて見て見ると、やっぱり綺麗な景色ですよ。」
「でもあなた、高いところ苦手じゃないの?」
「確かにそうだけど、景色がそれに勝ると言うか……」
ってあれ?そんなこと彼女に教えただろうか。いや、教えていない。
さっきもそのような口振りをしていた。
一体こいつは何者なんだ?
「………ねぇ、凪。」
「ん?どうしたの?もー、そんなシリアスな雰囲気出されたら、私少し身構えちゃうじゃな〜い。」
「凪、いや、凪さん。あなたは一体何者なんですか?なんで僕のことを知ってるんですか?今日だって、未練を断つ手伝いって言いながら、実際はデートのような内容。あなたは僕に何がしたいんですか?」
彼女に向かって聞く。
少し緊張している。核心をつく質問をしたからだ。さぁ、彼女はどう出る!?そう考えていた時。
彼女は、微笑んだ。
まるで、愛おしいものを見るような、
何かを慈しむような。
「……わかったわ。全てを話すから。だから、どうか怒らないでちょうだい。」
その声は、いつもの明るさを抑えた、どこか懐かしい響きを帯びていた。
風が、海の方から吹き抜けた。
僕たちの間を、ほんの一瞬だけ、時間が止まったかのような静寂が包む。
凪は、オレンジ色の夕焼けに照らされながら、ふわりと笑った。
まるで、それが最後の優しさのように――
「じゃあ、話すわね。全部。」
長くなってしまいました、すみません!
でも、ここは大事なシーンですので、
もう少しお付き合いください!