02話 凪のお願い
「成仏?」
僕は彼女の言ったことを反芻した。
「ええ。まぁ、詳しいことは明日説明するわ。今日は帰って寝なさい。」
そう言って凪は立ち去ろうとする。え?これ、俺が手伝う流れになってない?
「ち、ちょっと待って!なんで僕が手伝う前提になってんだよ!僕は手伝うなんて一言も、」
そう言いかけた時、凪がこっちを振り返る。
「手伝ってくれなきゃ、呪うわよ?」
そんな!あんまりだ!
「そ、それが人に物を頼む態度か!それに呪うってなんだよ!怖い!」
少しビビりながら反発する。その様子を見て、凪はふふっと笑う。
「冗談よ、冗談。でも、あなたは手伝ってくれる。私にはわかる。だって、あなたは優しいもの。」
「お前が俺の何を知ってるんだよ……。」
「まぁまぁ、いいじゃないの。とにかく、明日学校が終わったら、またここに来なさい。私はここにいるから。」
「ちょっと、まだ話は、、」
話はまだ終わってない。そう言い終わる前に、凪は俺の前からフッと姿を消した。
突然姿が消えるなんて、やっぱり幽霊なんだろうな。
「………とりあえず帰るか。」
詳しいことは帰ってから考えることにした。
もうクタクタである。
その日はすぐに布団に入って、今日の出来事を振り返りながら、眠りにつく。
――――――――――――
放課後。昨日の海辺へ会いに行く。
もしかして夢だったんじゃないか。そんなことを考えたが、やはり、彼女はいた。
彼女は相変わらず浮いていた。彼女はこの世のものではないのだと、改めて認識する。一体、何者なのだろうか。
と、凪がこちらに気付く。俺だと気づいた途端、にっこり笑って手を振ってきた。
「おーーい!かおるくーーん!」
遠くから俺の名前を叫んでいる。海辺なので、聞こえづらいな。
波の音が、彼女の声をさらっていく。
まるでこの世のものではない存在の声のように、儚く。
彼女のもとへ小走りで駆け寄る。
「ずっとここにいたんですか?」
「もちろん。私は暇なのよ。ずっとここにいたわ。」
他にやることがないのだろうか。
「それじゃあ、詳しい話を聞かせてもらいましょうか。」
「やっぱ手伝ってくれるのね!」
「ま、まぁ、暇ですし。困ってる人がいたら見過ごせませんよ。」
「ほら、やっぱり優しい。」
からかってるのか?こいつ。
「わかりましたから、早く話してください。」
「わかったわ。、でも、少し歩きながら話したいかも。砂浜を歩きながら話さない?」
「足がないのに歩くんですか?」
「ちょっと!人が気にしていることを!」
そんなこんなで話を始めることにした。
―――――――――
成仏の手伝いをするにあたって、わからないことが多い。そもそも、成仏ってどうやってするんだ?そこからだな。
「成仏って、どうやったらできるんですか?」
「そうねぇ、そもそも、幽霊が何か分かってる?」
「全然わかりません」
「じゃあまず、そこからね。幽霊っていうのはね、大きく分けて二つに分類できるの。未練がある霊と、ない霊よ。未練っていうのはつまり、この世に思い残したこと。それがあると、幽霊は霊界には行けないの。それで、幽霊が未練を断ち切って霊界に行くことを、成仏と呼ぶのよ。」
「霊界?」
初めて聞く単語である。
「あぁ、霊界っていうのはね、幽霊が集う場所よ。本来、幽霊はそこにいかなきゃ行けないのだけれど、私はほら、未練があるから。ちなみに、私たちが今いるここは、現界と呼ばれてるわ。」
尸○界みたいなものだろうか?いや、あれは死神か。
「なるほど。でも、現界も悪くないのでは?ずっと現界で過ごすのは嫌なんですか?」
「嫌じゃないわ。むしろずっとここにいたいくらい。でもね、幽霊が現界に長居しすぎると、いずれ悪霊になってしまうの。だから、幽霊は霊界に行かなきゃ行けないの。ちなみに幽霊が霊界に行くと、霊界に住むか、新しい命として生まれ変わるか選べるわ。」
なるほど。
「つまり、僕に未練を断ち切って、成仏する手伝いをして欲しいと?」
「その通り!大正解!話が早くて助かるわ!」
どこからか某クイズ番組の正解した時の音が再生される。
「はぁ、、。にしても、詳しいですね、凪。」
「まぁね。師匠に教えてもらったのよ。」
えっへんと言わんばかりに、大きな胸を前に突き出す。師匠って誰だよ。死者の師匠か?まぁ、いいや。
「じゃあ、具体的に何をすればいいんですか?凪の未練を断つためには。というか、未練が何なのかわかってるんですか?」
「ええ。それだけははっきりしているわ。」
なるほど。それじゃあ話は早いわけだ。
「それで、未練って何ですか?」
「それは内緒。乙女のプライバシーよ!」
ここまで来て何言ってるんだこの人!
「でも、僕が未練がなんなのかわかってないと、手伝いようがないですよ!」
「大丈夫よ〜。あなたは私のお願いを聞いてくれるだけでいいから。とりあえず、今度の日曜日、またここに来て?」
「ちなみに、何するんですか?日曜日。」
「うーん、買い物とか、動物園行ったり映画見たり、、あ!水族館も行きたい!」
「遊びたいだけなんじゃないんですか!?」
てか日曜日に、男女2人でするって、デートじゃねーか!
「違うわよー!ちゃんと未練を断ち切ろうとしてるの!まぁ詳しいことは聞かないで、付き合って欲しいな?♡」
「もう、、。わかりましたよ。」
「ごめんね〜?ありがとう!かおるくん!♡」
「ち、ちょっと、抱き付かないでくださいよ!」
そんなこんなで、俺は凪の成仏を手伝うことになった。