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三年目の灯  作者: 禿鷲
始まりの幽影編
2/10

01話 海辺で出会ったその人は。

 さて、そろそろ再開しようかな。

 机の前の椅子に腰を下ろして、机の上に置いてあるノートを開く。

 そのノートの表紙には、「三年目の灯」と書いてあった。自己紹介の次は何を書こう。そうだな。なぜこのノートを書くことになった直接的なきっかけ、かな。よし、それでいこう。

 そう思った僕は、ペンを走らせ、綴っていく。

 僕の記録を。命の灯を。



 余命宣告を受けて1週間、僕は余生で何をしようか、家の近くの海辺で考えていた。学校が終わっても特にやることのなかった僕は、いつも暗くなるまで海辺で波の音を聞きながら、ぼーっとしていた。

 確かに日常を続けようかなとは言ったが、それだけじゃ面白くない。

 いっそこの街を出て、色々なところを旅するのも面白いかもなぁ。。いや、ダメだ。じいじとばあばを心配させるわけにはいかない。うーん、、。

 

 波の音を聞きながら、ぼんやり考えていると、


「1人で何をしているの?」


 突然話しかけられた。


「え!?」


 慌てて振り返るとそこには、綺麗な着物を着た女の人が立っていた。その人は端正な顔立ちをしていて、優しくて柔らかい雰囲気をもつ人だった。茶色い髪を下げていて、風でサラサラと揺れている。普通の、ただの綺麗な女性だった。ただ一つの点を除いては。

 足がない。というか、、。


 僕の心臓がドクンと跳ねた。


 「う、浮いてる、?」


 そう、浮いていたのだ。


 「ゆ、幽霊!?」

 

 咄嗟に身構える。


 「こんな時間に1人でいると、危ないわよ?」


 幽霊?にお叱りを受けた。というか、ここからは家も近いし、危ないことなんてそうそうない。でもまあ、心配してくれているっぽいので、一応お礼は言っておく。僕は仁義を大事にするんだ。


「あ、ありがとうございます…」


「あら、私のこと、怖くないの?」


「いや、怖いですよ?めちゃくちゃ。でもまぁ、親切にしてもらったんだから、礼くらいは言おうかな、なんて。」


「なにそれ、ふふふ」


 その人は笑った。

 笑った時に出る、頬のえくぼが印象的だった。

 僕と同じだ。


「私は凪。あなたは?」


「いやいや、普通に自己紹介始めないでくださいよ。あなた何者ですか。」


「私?私は幽霊よ。見ればわかるでしょ?」


 何言ってんのこの子という目で見られた。俺が悪いの?これ。


「それで、あなたの名前は?」


少々納得がいかないが。


「……僕は磯野薫といいます。」


「かおる………。そっか。」


 彼女は、名前を口にしたあと、ほんの少しだけ、微笑んだ。

 その目は、まるで昔を思い出すような――

 懐かしさと、愛しさが混じった色をしていた。


「どうしたんですか?」


「い、いいえ、なんでもないのよ。ふふ。」


なんだろう、俺の顔になにかついているのだろうか。


「そうですか、それはそれとして、普通に話すんですね。人間の僕と。」


「ええ、人間と話せることなんて、滅多にないですもの。」


 そう言いつつ、警戒しながら握手を交わす。冷たいかと思われた彼女の手は、不思議と温かかった。


「さっきの危ないって、どういうことだったんですか?」


「あぁ。この辺りは夜になると、悪い霊がそこら中で飛び回っているのよ。だから、こんなところにこんな時間に1人でいると、危ないわよってことよ。」


 そうだったのか。というか、初耳である。

 そんな場所だったのか、ここは。だがしかし、学校終わりは毎日のようにここに通っているが、そんな霊は見たことがない。


「でも悪霊なんて、見たことないですよ?」


「まぁ、普通の人は見えないでしょうね。でも、何か暗い雰囲気があったり、心に隙間があったりすると、悪霊を呼ぶものなのよ。見た感じ、あなた、何か悩み事がある感じね。お姉さんに話してみなさい!なんでも相談に乗ってあげるんだから!」


 そう言って幽霊のおば、、お姉さん。もとい凪さんは、大きな胸をドンと叩いた。この人は信頼できるのだろうか。まぁ、どうせ短い人生だ。幽霊なんて滅多に会えやしないだろう。この際、いろいろ話してみるか。


「実は僕、余命が3年なんです。もし余命通りに僕が死んでしまえば、僕は大人にすらなれない。なので、残りの人生をどう過ごそうか、ここで考えてたんですよ。それで……、凪さん?」


 ふと凪さんの方を見たら、泣いていた。

 こっちを見ながら、涙を流していた。


「可哀想に、、まだ若いのに、、まだまだやりたいこと、あったでしょうに、、。」


 そう言いなが、彼女は泣いた。

 おいおいと泣いていた。

 こんな僕のために。


「な、泣かないでくださいよ、凪さん」


「ごめんなさい、私、、年甲斐もなく、、でも、、、。」


 そう言いつつも、彼女が泣き止むまで、少しかかった。その間僕は、背中をポンポンと叩いてあげた。

 泣いてても綺麗な人だな。そんな呑気なことを考えながら、彼女の顔を眺める。なぜだろう、不思議なことに、彼女の顔は、どこか懐かしい。どこかで会ったことあるっけ?うーん。

 

 しばらくして。


「それであなた、今、自分のやりたいことを探しているのなね?」


「まぁ、そんなところです。」


「だったら、私のお願い、聞いてくれない?」


 お願い?なんだろう。まさか、魂を頂戴!なんて言わないよな。臨戦体制に入る。


「ち、ちょっと、そんな身構えなくてもいいのよ!別にたいしたお願いじゃないんだから。」


「じゃあ、なんですか?」


「私が成仏するのを、手伝って欲しいの。」


 彼女はそう言った。風になびく髪を押さえながら。


 それが彼女、凪との出会いだった。

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