第五話 万全
「やるぞ」
足を踏ん張り、体を支える体制をとる。
そして、廻斗は叫ぶ。
「暴風!」
魂悪食が鎌を大きく構え、ものすごい速さで回転し進む。
「シュゥゥゥ!」
「ガンッッ!!」
男の精霊が腕を組み、守りの体制に入り魂悪食の攻撃を耐えている。
「こいつの名前は狂乱爪」
「さっきの攻撃で衝撃を受けていた君には悪いけど、狂乱爪の最大の強みは防御で生かされるんだ」
男は誇らしげに言った後、手を振りかざしこう言った。
「背反」
次の瞬間、魂悪食の回転が止まった。
「は?!」
思わず口から言葉が漏れてしまった。
そして、
「ドンッッ!!!」
勢いよく魂悪食が吹き飛ばされ、廻斗も巻き沿いを食らい膝をついた。
(ありえねぇ、今までとは比べ物にならない威力…)
廻斗が今の出来事に混乱していると、男が口を開いた。
「今のはね、君の精霊の回転を利用させてもらったんだよ」
「利用?」
「そう、訳も分からないまま死ぬのは可哀そうだから教えてあげるよ」
男は廻斗が動けないことを理解したかの様に、一歩一歩ゆっくりと近づき淡々と説明を始める。
「狂乱爪には鱗があってね」
「さっきの背反を使うことで、相手の攻撃の威力をこちら側にため込むことができるんだよ」
「そして、溜めた威力はこちらの最大出力の攻撃となって放出されるんだよ」
「つまりはね、強い攻撃であるほどそちら側のダメージが大きくなるんだよ」
男は廻斗の前に立ち、見下したように睨む。
「まぁ、結局詰みってことだよ」
男の話が薄っすらと聞こえるが喋りかけて時間を稼ごうにも、呼吸を整えるので精いっぱいだ。
動悸が早くなるのがわかる。
「あぁ、みたいだな」
目の前にある、天井から落ちてきた棒状の蛍光灯を支えにして立ち上がる。
「へぇ、すごい根性だね」
男があざ笑い、じっとこちらを睨み続けている。
「もう終わりに…」
男が喋ろうとしたその時、間髪入れず廻斗は言った。
「真空」
「ズゥゥン!!!」
魂悪食の鎌が狂乱爪の体を貫く、それと同時に廻斗は男の心臓に蛍光灯を刺していた。
「ぶはっ」
「はは、やるじゃないか…」
男は血を吐きながら、膝をつき地を眺める。
「そんなべらべら喋るからだ」
廻斗は見向きもしない男に続けてしゃべりかける。
「思ったんだよ、お前は威力を利用して攻撃するって言っただろ」
「なら、威力を集中させて溜める暇なくダメージを与えるだけだだって」
男は顔を上げ、こちらに向かって口を開く。
「御託はいい、何しろお前の信念に比べて俺の信念はしょうもなかっただけだ」
「大事にしろよ、その信念…」
そう言うと男は下を向き、それ以降話すことはなかった。
男に過去、何があったのか知らないが結局それを果たすことなく死んでしまったことだけははわかった。