第一話 腐敗と精製
「まもなく1番線に普通 源田坂行きが6両編成で参ります」
「黄色いブロックの後ろまでお下がりください」
嫌っていうほど聞き馴染んだアナウンスだ。
なぜか無性にこれを聞くだけで吐き気がしてくる。
(まぁ、それを塗り替えるためにここに来たから)
気分が重く憂鬱な月曜日の朝
ホームには衣替えをしたばかりの学生やスマホをじっと見る社会人、椅子でうたた寝をしているお年寄 りなど様々だ。
その中に1人灰色のパーカーで黒いズボン、青のキャップを被りマスクをつけた一人の青年がいた。
「シュゥゥゥ」
「ドアが開きます、ご注意ください」
ドアが開くと人が流れ出るように電車から降りてきた。
今いる駅は乗り換えが多く便利な駅のため、ここからの車内は空くことが多い。
青年は車内に乗り込むと顔を俯き、中央に立った。
どこか異様な光景に視線が集まる。
(自分は悪くないと白を切るお前ら)
(僕はお前らが嫌いだ。)
青年は心でそう吐き捨てたように言うと、全身を脱力させ天を仰ぎこう言った。
「回転」
音もなく座ってスマホを見ている人、立って外を眺めている人、音楽を聴いている人、
青年の近くにいた人の首が吹き飛び、血が飛び散った。
窓ガラスや手すり、座席などが一瞬で赤く染まった。
「おい!」
「何が起こってんの!」
同じ車両の少し離れた乗客の悲鳴や怒号、中には恐怖で倒れこむ人もいた。
青年に掴みかかろうと足音を立てながら近づいてくる男や一刻も早く逃げようとする乗客たちを
青年は冷酷な目で見つめる。
そしてうんざりした様に右手を逃げる乗客の背に向けた瞬間。
「ドゴォォン!」
手すりや座席、窓ガラスをまきこみ落雷のような音を立て逃げる者たちの体は抉り狩られた。
その様はまるで竜巻が荒らした後のようだった。
左手を見ると恐怖で座り込む乗客が化け物を見るかのような目で震えながらこちらを見つめている。
ただ一人、同い年くらいの高校生がその視線を青年の後ろに向けていた。
青年はそれを見ると少し目じりを下げ、高校生にゆっくりと近づき尋ねた。
「君には何が見えている?」
高校生は震えた様子でこう答えた。
「血が付いた大きな鎌… 樹みたいな怪物… そいつがやったんでしょ?…」
すると青年は満足した様にこう答えた。
「君はかろうじてこっち側に近づけたね」
高校生は青年の優しい口調に戸惑いながら、少し安心して口を開く。
「あの、」
「ドゴォォン!」
再び竜巻が車内を襲った。
「でも、怪物って言い方はよくないね」
「【精霊】」
「覚えとけ」
静まり返った車内に青年はそう吐き捨てた。