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敗北魔王は勇者に逆らえない

作者: 青空爽

 わらわは魔王じゃ。

 知性と美しさを兼ね備えた最強の魔王。それがわらわじゃった。

 なぜ過去形なのかと言うと……。

 認めたくない……、認めたくないがわらわは負けたからじゃ。

 誰に負けたかと言うと……。

 くぅ〜! はらわたが煮え繰り返ると言うのはこのことじゃな! くやしい! くやしいが、わらわは勇者に負けたのじゃ。

 勇者めぇ……。思い返すだけで腹立たしい!

 奴はある朝突然わらわの住む魔王城にやってきたのじゃ。それで、お前は悪い奴だから倒しに来たと言いおった!

 何が悪い奴じゃ! わらわが一体なにをした!?

 イケメンが大好きじゃから人間界の男を数百人(さら)っただけじゃ! それで悪い奴などと言われる筋合いないわ!

 じゃが、勇者はわらわを悪い奴と決めつけて戦いを挑んできた。それで……あぁ、情け無い。わらわは負けてしまったのじゃ。

 わらわの集めた数百人のイケメンたちはそのあと解放された。

 わらわは半泣きで男たちに別れを告げたのじゃ。

 イケメンたちのいなくなった魔王城は、平日の図書館のように静まり返ってしまった。

 わらわについていた配下たちもわらわが負けた途端蜘蛛の子を散らすようにどこかへ去っていってしまった。

 だからわらわは今、一人ぼっちじゃ。

 あぁ……イケメンや配下たちに囲まれていた日々が懐かしい。

 あの輝かしい日々はもう戻って来ないのじゃろうか……。

 そんなことを思いながら一人寂しく魔王城で時を過ごしていたわらわの前に、もう一度あの男が現れたのじゃった。


 ※※※※


「よぉ、魔王。今日もぼっちだな」

「!!」


 こ、この憎たらしい声は……!

 わらわは背後から聞こえた声の主に向かって、振り返ると同時に襲いかかった。


「黙れ〜! にっくき勇者めがぁ〜!」


 勇者はひょいとわらわを避けると、わらわの腕を掴み、床に押さえつけた。そのままドスンと上に載る。


「よえ〜なぁ、魔王。よくそれで魔王になれたな」

「わ、わらわは腕力で魔王になったのではない! 有り余る知性と、この、誰もが見惚れる美貌で魔王になったのじゃ!」

「ふ〜ん。まぁ、頭は悪そうだけど、美しさだけは認めてやるよ」

「!!」


 そう言って勇者はわらわの頭をよしよしと撫でた。


「お前は綺麗だよ、魔王……」


 わらわの肌にゾワーっと鳥肌が立った。

 き、気持ち悪いぞ! この勇者! こんな男に綺麗と言われても嬉しくないわ!

 わらわは勇者から逃げようとがむしゃらに暴れた。

 じゃが、勇者はわらわの上にどっかりと座り込み、全く抵抗出来なかった。


「こら、勇者! わらわの美しい体の上に載るな! 今すぐ退くのじゃ! さもなければ体を真っ二つにするぞ!?」


 勇者は楽しそうにはははと笑った。


「やってみろよ。仲間もいないお前に何が出来る? 今のお前に出来ることと言ったら、俺のケツの下でギャーギャー喚いていることだけだろう?」


 く、くそ!! 悔しいがその通りじゃ!

 配下のいないわらわに出来ることなど何もない。

 わらわは無力じゃ……。

 勇者め。なぜこんな情け無いわらわの元に再び現れたのじゃろう?

 わらわは悔しさのあまりギリギリ歯を噛みながら絞り出すような声を上げた。


「勇者よ……。なぜ、再びわらわの前に現れたのじゃ? わらわを揶揄いに来たのか? 今のわらわに出来ることなど、なにもないのに……」


 わらわの言葉に、勇者が頭上で、ふ……と笑ったような気がした。

 そして、もう一度わらわの頭を優しく撫でた。


「俺はお前が欲しくてここに来た……。お前は美しいからな。俺がお前を貰ってやるよ」

「!?」

「良かったなぁ、魔王。これでお前はもう一人じゃないぞ」

「……」


 あぁ……。美しさとは罪じゃなぁ……。

 わらわの美しさに、勇者すら魅了されてしまったのか……。

 まぁ、ここで抵抗しても無駄じゃろう。

 何故ならこの男はとても強い。抵抗しても力で押さえつけられるのは目に見えている。それに、わらわには一人も味方がいないからの。

 ここは大人しく勇者の言うことに従った方が身のためじゃろう。

 わらわは沈んだ声でポソポソと口を開いた。


「分かった……。お前の言う通りにしよう」

「よし!」


 そんな声と共に勇者がわらわの上から退いた。

 そのまま喉を撫でられる。絶対反応したくなかったのに、気持ちが良くてゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。


「いやー! 本当、お前みたいな綺麗な雪豹は初めて見たぜ。デカくて威風堂々としていて気高い。こういうペットが欲しかったんだよなぁ!」

「……」


 褒められて悪い気がしないわらわは更にゴロゴロと喉を鳴らした。


「雪豹のくせに人間の男が大好きなのも面白い。俺のことは好きか? 俺も人間だぞ?」


 まぁ、憎たらしいけど、コイツ結構イケメンじゃからな。


「お前も一応わらわの許容範囲じゃ。わらわを大事にしてくれるなら好きになってやっても良いぞ?」

「おぉ、そうか! 嬉しいねぇ」


 そう言ってガシガシわらわの頭を撫でてくれた。

 うーー。なんじゃこの心地良さは。勇者に触れられると喉が鳴ってしまう。さっきまで腹立たしくてたまらなかったのに。


 わらわはごろんと横になり、お腹を見せながらゴロゴロと喉を鳴らし続けたのじゃった。

読んでくださりありがとうございました。

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