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 あたしが言葉を知らなければあんな悲しみも知らなくて済んだのかと思う反面、あたしが言葉を知っていたからあの愛を知ることが出来たと思うと、結局のところどちらが正解だったのかは今のあたしには判断しかねる状態だった。


 ただし、ご先祖様が言葉を作り出して、あたしが彼らの子孫である以上、あたしが言語を習得するのは必然だったわけで、つまり、あたしが経験した"あの愛"も"あの悲しみ"もどちらも運命だったと言わざるを得ないのかもしれない。


 などと冒頭から哲学めいたことを述べているが、これには深い訳がある。


 まあ、人によっては大したことではないと思うかもしれないけれど、あたしにとっては一大事の大惨事だった。


 すなわち、失恋したのである。


 それも一方的に振られて婚約破棄になる始末。


 婚約してから毎日といっていいほど新婚生活に思いを馳せていたあたしは地獄に突き落とされた気分だった。


 あたしを振ったルドルフ伯爵の動機は次の通りだ。


「君は僕に相応しい女性ではなかった。僕の運命の人はアリーシア王女だとわかった。だから、僕と別れてくれ」


(彼にとっては)幸運なことにルドルフは王室の第3王女から縁談を持ちかけられた。


 婚約成立に至れば、ルドルフは下級貴族から王室への大出世である。


 男は自分の体裁や地位、名誉にしがみつきたくなる生き物らしい。


 王女との縁談を進めるためにルドルフは躊躇なくあたしと別れる決断をした。


 あたしと過ごした2年半の月日を名残惜しむことなく、心残りに思う素振(そぶ)りもなく、淡々と事務的に婚約破棄をあたしに申し出た。


 あたしはそれを受け入れる他なかった。


 だって、そうだろう?


 もう自分を愛していない相手に対して「自分は好きだから考え直してくれ」だなんて惨めでしかない。


 しかも、相手が既に自分に興味を失くしていて他の異性に気が向いているのなら尚のこと。


 愛は脆いのだ。


 片方が冷めてしまえば、いとも簡単に壊れてしまう。


 真に運命の相手でない限りはヨリを戻すのは至難の業だろう。


 まあ、赤い糸で結ばれた者同士ならそもそも別れ話なんかしないか。


 そういうわけであたしは最愛の男性を失った。


 呆気ない恋の幕切れにあたしの悲しみは募るばかりだった。


 そして、悲しみは西から太陽が登る度に心の中で濃縮し、やがて怒りに変質してしまった。


 怒りは無惨だ。何も良いことを生まない。


 人間から怒りの感情を取り除けば、この世から戦争を無くせるのではないかというのがあたしの持論だけど、今は置いておこう。


 あたしのルドルフへの怒りは彼への復讐をあたしに命じる。


 婚約破棄されたのと同等の痛みを彼に与えなさい、と。


 何か良い意趣返しはないかしら?と思案していると、脳味噌がぽかんと閃いた。


 良いことを思い付いた。


 そうだ、復讐のために悪魔と契約してみよう。

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