表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/475

花の章 その11 劉琦と劉琮

劉琮(りゅうそう)花安英(かあんえい)よりさらに年下のはずだが、この落ち着きぶりはどうだろう。

うしろにお付きの侍女や取り巻きを引き連れているとはいえ落ち着いており、変にはしゃぐこともなければ、尊大すぎるというふうでもない。

なにより、劉琮は闊達(かったつ)な叔父の蔡瑁(さいぼう)によく似ていた。

曹操と同年に孝廉(こうれん)として推挙された蔡瑁は、華々しい経歴を持つにふさわしい堂々とした美丈夫でもあった。

劉琮は、そんな蔡瑁をちいさくしたような感じだ。

才気煥発なところ愛されて、劉表は自分によく似ていると公言していると聞いていたが、外貌だけ見ると、温和でおとなしい劉琦のほうが劉表に似ている。


「話を途中から聞いてしまったのだけれど、叔父上が取り調べをしている囚人を自分で尋問したいのですって?」

「琮よ、どこから聞いていた」

うろたえている劉琦がたずねると、劉琮は平然と答えた。

「花安英が『囚人に会わせる権限は兄上にはない』と言ったところから。

花安英の声は響きますからね」


伊籍(いせき)が花安英を振り返って、にらみつける。

花安英がどんな顔をしているのかは、孔明のほうからは、はっきり見えなかった。

反省しているといいのだが。


「囚人に会いたいのなら、わたしが叔父上に口をきいてあげましょうか」

あっさりと言ってのける劉琮に、孔明は内心おどろいたが、表情には出さず、軽く微笑するだけにとどめた。

「ありがとうございます、そうしてくださるなら、手間が省けます」

「お役に立てて何よりですよ。わたしは、あなたとは仲良くしたいんだ。

でも、ただというのは、こちらが面白くありません。

孔明どの、よろしければ、新野(しんや)の様子をわたしに教えてくださいませんか。

わたしは新野に行ったことがないので、興味があるのです」

「そのようなことでしたら、お安い御用です」

「では、決まりだ。今宵、歓迎の宴をひらきます。そこでお話ししましょう。

なに、宴といっても、ごく身内だけのささやかなものですから、気を(つか)わずにいらしてくださいね」


ああ、楽しみだな、などと言いながら、劉琮は言うだけ言うと、さっさと取り巻きの一団を引き連れて、(きびす)を返していった。


「おかしなことになったな」

趙雲に声をかけられるまで、孔明は劉琮のうしろ姿を目で追っていた。

劉琮は香木でたきしめた衣を着ていたらしく、残り香がまだそこいらに漂っている。

取り巻きたちの衣装も派手であったし、なにより若々しい生気にあふれていた。

振りかえると、雨に濡れた犬のような顔をした劉琦が、苦労で老け込んだ顔をしている一団とともに孔明を見ている。

元気そうなのは花安英だけであった。


劉琦と目が合うと、弱弱しく、にこりと微笑む。

「話が早く進んだようで、ようございました」

「あまりにトントンと話が進んだので、罠かもしれぬとさえ思っておりますよ」

「弟は、単純に新野のようすを知りたいのでしょう。

父と義母がいつくしむあまり、あれを襄陽(じょうよう)から出さぬようにしておりますから」


劉琮がほとんど襄陽から出ないというのは、父母の愛情のあかしだと思われているらしい。

息が詰まってしまうだろうにと孔明は思ったが、口には出さない。


「子龍、聞いた通りだから、今宵はわたしは劉琮どのの宴に出る。

あなたは公子(劉琦(りゅうき))のもとに残って、公子をお守りしてくれないか」

趙雲は眉をあげて抗議してきた。

「それでは、おまえの守りはだれがする」

「だれがそばにいなくても問題ないよ。

むしろ、この城の中では、劉琮どののそばにいるほうがいちばん安全だろう。

徳珪(とくけい)(蔡瑁)どのも、かわいい甥の客人には手をつけまい」

「しかし、何かあったら?」

「何かある可能性があるのは、いまは公子のほうだ。

頼むよ、子龍。仮にこれが罠だとしても、虎穴に入らずんば虎児を得ず、だよ。

なにかしら収穫を得て帰ってくるさ」

「そこまで言うなら」

趙雲はしぶしぶというふうに、引き下がった。


「さて、そのまえに、どうしても見ておきたいものがある」

孔明はふたたび劉琦のほうを向く。

「公子、程子文(ていしぶん)が死んだ場所へ案内していただけませぬか。

そして、かれの最期がほんとうはどうであったのか、教えてください」


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ