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花の章 その7 劉琦をめぐる話

思い切り(にら)みつけていると、程子文(ていしぶん)が、まいった、まいった、というふうに両手をあげた。

「悪かったよ、先生、あんたを巻き込むつもりはなかった」

「どういうつもりにせよ、嘘つきは許さぬ。

早くあの女人を追いかけて、いま言ったのはうそだと言いに行ってくれ。

断袖(だんしゅう)の仲だなんて勘違いされたら、わたしも困るが、あなただって困るだろう。

この城にいられなくなるぞ!」


「そんなに怒るかねえ。大丈夫だよ、あとでちゃんと謝りに行くから。

あの娘、ちょっと思い込みがはげしくてな。

いつもの遊びのつもりですこしからかっていたら、すっかり女房気取りになってしまった。

嫌気がさして、口論になっていたところへ、うまい具合にあんたがやってきたというわけさ」

「ひどいではないか。わたしに対してだけではなく、あの娘に対してもひどい。

あの娘、あなたと付き合いがあったなどと知れたら、嫁に行けなくなるぞ。

あなたにしがみつこうとしたのも当然だ」

「しがみつく相手を見極める目を持たなくちゃな。いい勉強になったろうよ」

「ひどいひとだ」

「そうかね。おれはおれを優秀な人材だと思っているが。

で、何の用だ、先生、わざわざおれなんかのところにお出ましとは」


しれっとして悪びれない程子文に、孔明は心底あきれてしまった。

これでは、あるじの劉琦の評判も地に落ちるというもの。

また腹をたてた孔明は、率直に注意した。

いいかげん、よい年なのだから、ひとりの女に決めたらどうだ、そんなだらしない生活をしているから、世間になめられるのだ、と。


すると、程子文は笑って答えた。

「美女も美少年もおれにとっての最高の薬さ。

癒しをくれる女たちがいなければ、おれはとっくにこの世から消えている。

まあ、あんたは年が行き過ぎているが、おれに癒しをくれるやつの一人に数えてもいいだろう」

「ふざけないでくれ。劉公子(りゅうこうし)劉琦(りゅうき))の学友たる者の品行が乱れているのは、どうかと言っているのだ。

あなたの評判の悪さが、劉公子の評判にも傷をつけている。それを考えたことはあるか」


程子文は、ふむ、と考え込むそぶりをみせてから、言った。

「おまえさんはずいぶん正直でおせっかいな奴だな。

正直なのはわかっていたが、おせっかいなのは知らなかった。

なぜ、そこまで公子に肩入れする」

「まぜっかえさないでくれ。劉公子のお立場は日に日に悪くなっている。

ご長男でありながら、ご次男の劉琮(りゅうそう)どのらを推す一派に押さえつけられているさまは、はたから見ていてもお気の毒でならぬ」

長幼(ちょうよう)(じょ)は守ったほうがいいと思うかね」

「もちろん。そう思うからこそ、あなたにも品行をおさめて、劉公子の支えになるようになってほしいと思っているのだ。

人は犬が死んだくらいで泣くのはおかしいというが、そちらほうがおかしい。

かの孔子も、愛犬の死は悲しんでいた。

(いと)しいものがいなくなったら、泣くのがまっとうなのだ。

それを許せないという風潮のほうがおかしいに決まっている。

そして、そのおかしな風潮から公子を守るのがあなたがたの役目だろう」


「ならば、なぜ自分で劉公子を支えようとしない。

劉公子が(あるじ)と仰ぐには器が小さい男だからかい」

それは、と孔明はことばを詰まらせた。


劉公子こと劉琦は、優しいことだけが取り柄の平凡な青年だ。

戦場に立てば、目の前の惨状にひっくり返ってしまうだろうというほどに軟弱。

(そう)襄公(じょうこう)以上に、敵に情けをかけすぎて失敗する危険すら考えられた。

思いやりがあるといえば聞こえがいいが、うらをかえせば、狡知(こうち)に乏しい世間知らず。

その欠点を補えるかというと、資質の問題で、どうもよい方向には変えられそうもない、というのが世間の一致した見解であった。


しかし、だからといって軽んじてよいという問題ではない。


つづく

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