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序章 黒鴉の爪痕 その23 春宵の宴

行神亭(こうじんてい)は、とうぜんのことながら潰れた。

行く先がなくなった趙雲は、いまこうして、孔明と差し向かいになって部屋で飲んでいる。

窓の外にはおぼろ月。

風に乗って、咲き始めた花の香りも漂ってくるような、そんな夜だった。


蘇果(そか)が怪しいと思ったのはなぜだ?」

孔明がずばり問うと、趙雲は表情を変えずに言ってのける。

「あの女は顔相が悪かった」

「それだけ?」

「目つきもな。わが君や元直どのを見る目つきも鋭すぎた。

隠そうとはしていたらしいが、おれの目はごまかせぬ」

「ふむ、それで誤解されるのもいとわず、かの女を見張っていたわけか。

すぐに捕えてしまえばよかったものを」

「証拠がなかったからな。むやみやたらに城の女を捕えるわけにはいかぬ。

それに、孫直(そんちょく)が『黒鴉』だとは思っていなかった」

「つまり?」

「おれには、あいつらのしっぽは掴みきれなかった。

今回の騒動の功労者は軍師と周慶(しゅうけい)だな。

周慶が動いたので、蘇果も動かざるを得なくなった。

さらに、軍師が真相を推理したことで、牢につないでいた蘇果も、すべて白状したよ。

軍師の言う通りで、まちがいはなかった」

「それが周慶に聞こえたのかな。うれしいことに、無視されなくなったよ。

ほら、今夜はこんなにつまみもたくさん」


孔明は炙った鶏肉をはじめとして、かぶの漬物、貝の干物、甘いものではきんかんの砂糖漬けまで酒のつまみにつけてくれた周慶に感謝した。


「それにしても、あなたには礼を言わねばならぬ。

正直、あなたがいろいろかばってくれなかったなら、この城でうまくやっていく手立てがなかったかもしれない。

感謝している、ありがとう」

素直に頭を下げると、なぜだか趙雲は難しい顔をした。

「あらためて礼を言われることでもない。おれは当然のことをしたまでだ」

「あなたは、最初からわたしを認めてくれていたな、なぜだ?」

「それはもちろん、おまえはわが君が見込んだ軍師だからだ」

「それだけ?」

「それ以外になにが? わが君の人を見る目は確かだぞ。

あの人が良しというのなら、まちがいはない」

「そうか。あなた自身もわたしを気に入ってくれたとかではないのかな」

孔明が言うと、趙雲は呆れたように、

「おまえは本当にわが君並みの人たらしだな」

と言いつつも、答えた。

「まあ、面白そうなやつが来たなと思ったよ」

「そうか、あなたの勘も当たっているよ。わたしは面白いのだ」

「自分で言うか」

「言うとも。あなたも面白い人だがね」

「初めて言われたな」

「さあ、今宵はとことん飲もう、子龍。まだまだ夜明けは遠いのだから」

そういって、酌をする孔明に、趙雲は楽し気に杯を受け取り、機嫌よく、ぐいっとあおる。

「あなたとは、長い付き合いになると思うよ」

そう添えると、趙雲は、

「人たらしめ」

といって、またさらに笑った。




「序章 黒鴉の爪痕」おわり

「臥龍的陣 夢の章」へつづく

ここまで読んでくださったみなさま、どうもありがとうございました。

このお話は、次の章である「臥龍的陣」につづきます。

引き続き、読んでいただけると嬉しいです♪

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