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序章 黒鴉の爪痕 その21 行神亭の顛末

行神亭(こうじんてい)は、新野(しんや)の市場のすぐそばに展開する商店街の一角にあった。

二階建ての建物が連なるなかでも、なかなか立派な構えをしており、看板には、ほかの店よりひときわ大きな文字で『行神亭』と書かれていた。

無関係らしい町人たちが、遠巻きに野次馬になっている。


孔明たちが到着したころには、すでに大立ち回りは始まっていて、入口には壊れた瓶子や皿、椅子に机などが散乱していた。

赤い提灯が連ねられているなかでも、一部が引きちぎられて落ちていて、そのせいで、なかのあかりが地面のうえでちろちろ燃えている。


「派手にやりましたなあ」

と、陳到(ちんとう)が緊張感のない声で言った。

中をもっとよく覗くと、すでに殴り倒された男たちが床にいくつも転がっている。

陳到はそれを見ると、連れてきた兵士たちに命令した。

「おまえたち、ここに倒れている者たちをふん縛って、城の牢に入れてしまえ。

気絶しているからと言って油断するなよ、こいつらは、曹操の手の者だからな」

孔明は思わず陳到の、のっぺりとした顔を見返した。

「そこまでわかっていて、子龍どのは行神亭に通っていたのか?」

「話すと長くなるので省きますが、子龍どのは、直感で、蘇果とその兄を疑っておったのです。

そこで、自分が誤解されるのもいとわず、この行神亭の常連になって、出入りする者たちを見張っていたのですよ」

「さすがだな」

思わず感心していると、上のほうで、どたんばたんと音がする。

何事かとおもって首をあげて、おどろいた。

屋根の上で、趙雲と男が刃を向け合っているのが見えたのだ。

それは野次馬たちにも見えたようで、かれらは無責任に歓声を上げている。


と、視界のすみの暗がりに、孔明は光るものを見た。

「軍師どのっ、あぶない!」

叫びつつ、陳到が孔明と、孔明に突進してきた者のあいだに、恐ろしい速さで滑り込む。

目にも止まらぬ早さで陳到は刀を抜くと、小刀を持つ襲撃者の小手を斬りつける。

ぱっと血の花が咲いた。

相手が怯んだすきを逃さず、陳到はあっという間に相手の間合いに飛び込み、その腕を背中にねじりあげ、武器をとりあげた。


「畜生ッ、放せっ」

悪態をつくのは、蘇果(そか)であった。

結った髪も派手に曲がり、衣ははだけ、形相もまるで夜叉のようになっている。

じたばた暴れる蘇果に、しかし陳到は平然としていた。

腰縄を取り出すと、手際よく、蘇果をぐるぐるに縛り上げてしまう。


「たいしたものだ。さすが、わが君がそなたを武芸に関しては一番だとほめあげるだけある」

孔明が感嘆すると、陳到は照れもせず、

「それがしは武芸しか能がないのですよ」

と、言ってのけた。


一方で、にらみ合う趙雲と男のほうは、しばらく動きがなかった。

そうこうしているあいだに、行神亭に踏み込んだ兵たちが、叫び声をあげる。

「叔至さま、物置に周慶(しゅうけい)さんたちがいましたっ」

「生きておるか!」

「はい、無事です!」

間に合ったなと孔明はホッとしつつ、趙雲の勝負の行方を見守る。


屋根の上という足場の悪さもものともせず、趙雲は全く動じていない。

かれの全身から放たれる殺気に、おそらく行神亭の亭主であろう相手が、気おされているのが、遠目でもわかった。

風がびゅうと吹き、互いの衣の袖をなぶる。


とうとう間に耐え兼ねて、動いたのは亭主のほうだった。

うおお、と奇声をあげて、上段から趙雲の脳天めがけて刀を振り下ろす。

趙雲は振り下ろされた刃をがんっ、と剣で受け止めると、そのまま力いっぱい、男を弾き返した。

亭主が、屋根のうえで均衡を崩す。

その機を逃さず、趙雲は亭主の胴体を袈裟懸(けさが)けにして切り伏せた。

甲高い悲鳴が上がり、つづいて亭主は屋根から転げ落ちると、悲惨な音をたてて、さらに地面に落ちた。


「あんたっ! あんたあっ!」

それを見て、蘇果が絶叫する。

孔明は思わず、陳到と顔を見合わせた。

どうやら、蘇果と兄、というのはあくまで自称で、二人は夫婦だったようだ。

畜生、畜生ッ、と繰り返す蘇果を横に、孔明は屋根の上の趙雲に手を振った。

趙雲は眼下に友の姿を見て、満足したように微笑んだ。



城に引っ立てられた蘇果とその一味は、すぐさま牢に入れられた。

その途上、劉封(りゅうほう)が飛んできて、

「おまえが『黒鴉』だったのか!」

と蘇果に詰問したが、蘇果のほうは小ばかにしたように唇をゆがめ、

「わかってないね、甘ちゃんの坊ちゃん!」

とせせら笑って、そのまま劉封が何を言っても無視して行ってしまった。


つづく

次回、謎解き編です。おたのしみにー♪

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