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序章 黒鴉の爪痕 その11 厨房の三女神

夜、劉備を中心に、ささやかな宴がひらかれた。

出席しているのは、劉備、関羽、張飛の三兄弟と、孔明だけである。

芸人がいるわけでなし、芸妓がはべるわけでもなし、むさくるしい大男だけの宴で、しかも劉備だけが元気がよく、関羽と張飛は、あいかわらず孔明の前では、むすっとしていた。

いい加減、慣れてくれないかなと孔明は思うが、関羽と張飛は、問いかけても生返事、目を合わせようともしない。

おかげで、劉備の声だけが部屋に妙に響き、それに控えめに孔明が相槌を打つだけの、なんだか葬式のような雰囲気である。


困ったな、なにか話の()()はないか、と孔明は頭をはたらかせ、関羽のこれまで知っている武勇伝を持ち出して、袁紹軍の勇将・顔良(がんりょう)文醜(ぶんしゅう)を討ち果たした功績はすばらしいとほめたたえた。

すると、それまでちびちび酒を口にするだけの関羽が、ちょっとだけ照れたように微笑んだ。

一方で、張飛については、曹操の陣営では、関羽と張飛とならべば、まさに無敵と言われているとほめると、かれは大きな目玉をきょろっとさせて、

「そんなの当り前だろう」

と、唸る。

どうやら、張飛のほうは、まだまだこちらを認めるつもりがないらしい。


気まずい沈黙が場を支配しかねなかったので、孔明はすぐに、目の前の膳に乗せられた料理を褒めることにした。

「それにしても、この城の食事はいつでも美味ですね。

これほどうまい食事を毎日食べられるというのは、幸せなことです」

すると、劉備がなぜだか胸を張って、鼻高々というふうに言った。

「それはそうだよ、わが城の厨房には、三女神がいるからな」

「三女神とは」

孔明が興味をしめすと、劉備はつづけた。

「そなたにはまだ紹介していなかったか。厨房には三人の料理上手な娘たちがいてな。

年の順から、周慶(しゅうけい)蘇果(そか)宋白妙(そうはくみょう)というのだ。

料理の味付けや配膳をしてくれているのだが、ともかくうまい料理の仕上げを完璧にする。

器量もいい、気立てもいいというので、城の独り身の男たちは、この三人にぞっこんなのだよ」

「兄者、周慶が娘ってことはないだろう」

酒で赤ら顔の張飛のことばに、劉備はうなずかない。

「周慶はたしかに子持ちの寡婦だが、年は若い。わしからすれば、娘のようなものだ」

「兄者から見りゃ、そうかもしれないけれど」

「周慶はしっかり者、蘇果は気風(きっぷ)が良い、宋白妙はおっちょこちょいだが一番の器量よし。

機会があったら、会ってみるといい」

と、これは意外にも、関羽が孔明に言った。

だが、やはり目は合わせてはくれない。


「蘇果といえば、城下にある行神亭(こうじんてい)の看板娘だったのを、孫乾(そんけん)の弟の孫直(そんちょく)が引き抜いて城に連れてきたのだよな」

と、張飛が杯に酒をなみなみと継ぎながら言った。

「子龍も気の毒に」

「なぜそこで、子龍どのが出てくるのですか?」

ふしぎに思って孔明がたずねると、張飛は、うっかりしゃべっちまった、と言う顔をしつつも答えてくれた。

「子龍はこのところ、ほとんど毎日、行神亭に通っているのさ。

本人は料理がうまいからだと言っているが、そうじゃないともっぱらの噂だ。

将を射んとする者はまず馬を射よ、というだろう? 

行神亭の亭主は蘇果の兄貴なんだ。

兄貴とまず仲良くなって、それから妹の蘇果に近づこうという計画なのだ。

悠長だよなあ、そんなまどろっこしいことをしていないで、さっさと押し倒してしまえばいいものを」

最後の発言に対し、関羽がぽかりと張飛の頭を叩く。

「これ、普通のおなごは、そんなことをされたら男を嫌うものなのだ」

「おれの女房は、おれがあいつを(さら)っても、文句を言わなかったぜ」

「おまえの場合が特殊なのだ」


関羽と張飛のやり取りに、そうだった、張飛の妻は夏侯氏の出身だったなと、孔明は思い出していた。

たまたま家事で郊外に出ていた令嬢を張飛が見初め、乱暴にも攫って妻にしてしまったのである。

孔明は自身も酒をちびちびあおりつつ、そのあとでも女房どのが離れていっていないところをみると、この虎髯の乱暴者は、もう少し若いときには、もしかしたら美丈夫で通っていたのかな、ということも考えた。


つづく

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