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17-7


熊ヶ峰side


「『結界』」


りん、と鈴が鳴ったように澄んだ能力の波動と声が広がる。

覚えのあるそれに目が落ちるんじゃないかと思うくらいに目蓋を開いて、怪異の腕がことごとく弾かれていくのをはっきりと見た。


お姉さん達を守ったのはほんのり青みがかった透明な壁。

これって、やっぱり…


「つ…綴戯さんに怪異ごときが触れるなん、て。ゆ…許さ、ない」

「あはぁ、五月雨先輩ガチギレですねぇ。おーこわぁ」


ガサッと茂みの向こうから現れた二人組に、安堵と瞳色反転を切った反動でへたりこんだ。

駆け寄ってこようとした弌菜に手のひらを向けて止める。

いつの間にか私まですっぽりと飲み込んだ"コレ"があるなら…力がすっからかんで無防備な状態でも、万に一つの心配はないもん。


「い、祈ちゃん…?」


名前を呼ばれたその人…五月雨先輩は、怪異を睨んでいたのとはまるっきり別人みたいに蕩けるような笑みを浮かべ、お姉さんだけをそのチェリー色の瞳に映した。


「は…はい!つ…綴戯さんの祈、です」

「ェ」

「ちょ、待って弌菜ちゃん…誤解、だから…そんな顔、しないで…!」


あーあー、まぁたやってるよ先輩。

本気ではあるけれどからかい目的の言い回し。二年生相手にもやってたっけ。


それにしても、ポカンと先輩を見つめるお姉さんにあれ?と違和感を覚える。

てっきりお姉さんが応援として呼んだのかと思ったのに…どうも違うらしい。


「え、と…祈ちゃん、どうして…ここに?」

「はぁい、僕が連れてきましたぁ」

「ぅわ、また変なキャラが増えたんですけど…」

「あはぁ!熊ちゃん先輩の姉妹ですよねぇ?失礼な人ぉ」


門倉…あ、そっか。羨ましいことにお姉さんの専属になったって聞いたな。羨ましい。

元気なのは知ってたけど、外でちゃんと活動してるのを見ると…改めてホッとした。

自分で思っていたよりも私はこの後輩を気に入ってたみたい。


「怪異が異常発生してるって情報をもらった丁度その時に綴戯さんから『転移』のお願いがあったのでぇ、あーこの人何か無茶しそうだなぁって思ったんでぇす。だから五月雨先輩を巻き込んでみましたぁ」

「え…じゃあ、私を送ってくれた後すぐ、用事があるからっていなくなったのは…」

「はぁい!ご想像通りでぇす」

「「門倉グッジョブ!!」」


五月雨先輩と揃ってサムズアップした。

よく分かってんじゃん!ばっちり予想通り、英断だよ!


「何だろう…この、複雑な信頼…」


お姉さんはすっごく物言いたげな顔だけど、無茶してる自覚はあるのか言葉を飲み込んでいた。素直でよろしい!まぁ、この状況なら誰が見ても門倉が正しいもんね。


ともあれ、この気遣いのおかげでお姉さんだけじゃなく弌菜の安全も確保されたようなものだし…私がぐっと動きやすくなった。


「とにかく、二人とも…来てくれてありがとう。助かったよ」

「あの、ウチからも、その…ありがとう、ございます」

「い…いえ、このくらいはお安いご用です、から」

「そうですよぉ。あ、そうだぁ!綴戯さん宛てにお薬を預かってきてますので…こちらをどぉぞー」

「うげ…」


取り出されたのは学園のマークが入った薬袋。ならばあれはきっと四恩先生特製の薬だ。

お姉さんは顔をしかめたけれど、私はその見慣れたデザインに心底安心した。

勿論後でちゃんとした治療は必要だろうけど、お姉さんの怪我は一先ずこれでなんとかなりそう。

だってだって、四恩先生印の薬は効き目抜群だもん!…すっごく不味いけど。


「でも…祈ちゃん、ごめんね…家族旅行中、だったよね」

「き…気にしないで下さ、い。て…『転移』が自由に使えるなら、コンビニに行くのと変わりありません、から。そ…それに、お父様もお母様も綴戯さんの為なら是非行っておいでと快く送り出してくれました、し」

「わぁ、家族公認ってやつですかぁ。綴戯さんやるぅ」

「門倉くん、さてはからかってるね??」

「あはぁ!まぁそれはいいのでぇ、早く薬を飲んでくださいねぇ」

「ぅう"…イタダキマス」


まるでお姉さんの図書室にいるみたいに、焦りも不安も全部溶かされていく。あぁ、暖かいなぁ。

思わず笑みがこぼれた私を弌菜が控えめにつついてきた。


「…どうしたの?あ、もしかしてどこか怪我とかしちゃってる!?大丈夫!?」

「いやそれは大丈夫だけど…アレ、どうにかしなくて平気なの?皆のんびりしてるけどさ」


アレと示された指の先では、五月雨先輩の『結界』にへばり付きながら透明な壁をバシンバシンと叩く怪異の群れがいる。

あ、どおりで五月蝿いし日当たり悪くなったと思ったよ!


「こ…このくらいの怪異程度になら、壊されたりしない、よ」

「んー、でも五月蝿いですよねぇ。二人は避難させますからぁ、熊ちゃん先輩ちゃちゃーっと終わらせちゃってくださぁい」

「簡単に言ってくれるじゃん!門倉のクセに生意気だぞぅ!」


でも、確かに二人がここから避難してくれた方が動きやすくはなる。

…なる、んだけど…頭ではちゃんと分かってるんだけど…少しだけ、残念というか…寂しい、かも…

こんな状況で思うべきじゃないんだろうけど…弌菜と一緒に戦えるってことが、震えそうになるくらい嬉しかったから。


声だけでも、あの子は確かに隣にいたんだ。

心が並んでそこにいてくれた。

ずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずっと望んでた、取り戻したかったその感覚。


〈ウチは二菜の"トリトウさん"だ!ウチが、一緒にいる!!〉


あの言葉が、その場に崩れ落ちて泣いてしまいそうなほど嬉しかったんだよ。


弌菜を守りたい一心で居場所も名字も捨てて、距離だって置こうとしたくせに…いざ歩み寄られたら、私の決意なんて紙切れみたいにペラペラなものだったって痛感した。

揺らぐどころか、潮風で飛んでいっちゃったもん。


つまり…もうほんの少しでも離れたくなくなっちゃったんだ。ダメだなぁ、私。


「…ウチ、逃げない。ここにいる」

「弌菜…」

「…へぇ?」


あぁ、弌菜の言葉に喜んじゃうなんて…やっぱりダメダメだ。


「危ないのに、それでも残りたいんですかぁ?物好きですねぇ」

「何よ、この中ならのんびりお喋りしていられるくらい安全なんでしょ。なら…ウチはここでいい。ううん、ここがいい」


弌菜は一度口をつぐみ、お姉さんに目を向けた。

あの子がどんな目をしていたのかは見えなかったけれど…たぶん、お姉さんに背中を押してもらいたかったんだと思う。


だって、包み込むような笑顔を浮かべて頷いたお姉さんは…大丈夫だよって言っているみたいだったから。


「…ウチ、二菜を一人にしないって決めたの。もう目を背けたりしないって、そう決めた。だからお願い…お願いします!ここで、見届けさせてください!」


はっきりした、それはそれはストレートな声が私の胸をうつ。

私を一人にしないと…その言葉に細胞の一つ一つが歓喜に震え、失くしたと思っていた居場所が確かな形をもって蘇ってくる期待に心臓が暴れていた。


けど…分かってる。

決意を無下にするようだけど、やっぱりこんなところに残ってもらうべきじゃない。


怪異なんて知らなくて良かった筈の弌菜に、これ以上怖い思いをさせたくないもん。

それに、先輩の手を煩わせる事にもなるし…


「弌菜、気持ちはすっっっっっっごく嬉しいけど、その…」

「い…いい、よ」

「…え??せん、ぱい?」


私がダメだと伝えるより先に、意外にも五月雨先輩本人が弌菜の我が儘を認めてくれた。


「ま…守ってあげるから、二菜を…貴女の"家族"を支えてあ、げて」

「…っ!はい!!」


どうして…?先輩はてっきりお姉さんにしか興味ないと思ってたのに…

真意が掴めずについ探るような目を向けると、五月雨先輩はどこか暖かみのある瞳を緩めて笑う。


「い…一般人は、"家族"は…私達が思うより弱くない、よ。だ…だからその子の好きなようにさせてあげれば、いい。わ…私が手伝ってあげる、から」


一般人は弱くない、か…

どうしてかな。文字にしたら大したことない言葉なのに、先輩の口から出たそれは凄く重いや。


まるで光を見るような顔で言い切った五月雨先輩は、少し前の一騒動でどんな"家族"の姿を見たのだろう。

でも、先輩の言葉を信じて良いのなら…

先輩が協力してくれるというのなら…


「弌菜、あの…最後まで二菜を、支えて…くれないかな?」


緊張で鈍る口をなんとか動かして願いを告げてみれば、弌菜はきょとんと目を瞬かせた後…久しぶりに私の大好きな顔で笑ってくれたんだ。


「そのつもりだって言ってるじゃん。大体、誰に聞いてんの?ウチは…二菜の"半身"でしょ。支えるのなんて当たり前だし。だからさ…ちゃんと寄りかかってよ。前ばかり見てないで、置いてかないで、隣でさ…昔みたいにウチにも二菜を分けてよね」

「…ぁ……」


霧が晴れたみたいだと思った。

忘れていた光が、ようやく私のガラクタ小屋みたいな頭の中を照らしてくる。

そうだ、そうだったね、そうだったんだ…私は、ずっとずっとこの顔が見たかった。この顔を守りたかったんじゃないか。


だからこそ走り続けてきたのに…すっかり見失ってしまっていたんだって、今更ながらに気付かされる。

それもこれも全部、バカな私が独りよがりで先走ってたからだ。

いつの間にか弌菜を置いていって、その顔が右を見ても左を見ても…どこを見ても見えなくなっていた。


一般人は弱っちくて、私達が仕方なく怪異から守らなくちゃいけなくて…

だから、いつしか弌菜も同じ(弱い一般人)に見ちゃってた。バカだなぁ、本当に。


弌菜は守られるだけの存在じゃない。

だって彼女は…ずっと私を守ってくれる存在だったじゃんか。


周りにおかしい奴って指差された時も、怒られる時も、不安定で眠れなかった夜も、酷い嵐に震えたあの日だって…私の側にはいつも弌菜がいて、手を握ってくれていたじゃないか。


その手の心強さを、暖かさを…私は、どうして忘れていたんだろう。忘れていられたんだろう。


「…きゃは、さすが弌菜は…頼りに、なるなぁ」

「気付くの遅いよ、バカ二菜」


私達、きっと今同じ顔してるね。くしゃっとした…泣く手前の顔。


「…っし、切替えるよ、二菜」

「うん、よろしく、弌菜」


話は済んだかと呆れた顔をしつつ、こちらを見守ってくれていた先輩に感謝とよろしくという思いを込めて小さく頭を下げる。

そうして怪異に向き直り、あれ?と首を傾げた。


「どうかしましたかぁ、先輩」

「えっと、今…何かキラキラしたものを付けた怪異がいたような…」

「キラキラ…?それだ!!!」


眉を寄せた弌菜だったけど、すぐにはっとしたように私に詰め寄った。


「たぶん腕輪だよ、ソレ」

「え、腕輪…?」

「…化け物になっちゃった二人さ、揃いのブレスレット付けてたの。きっとソレだと思う」


化け物に"なった"…?言い回しがよく分からなかったけど弌菜が言うなら絶対正しい。

でも…うーん…腕輪かぁ。


「目印小さい…こんなうじゃっとした中で探す自信ないかも…」

「あー、二菜は昔から探し物とか苦手だもんね」

「うん。間違い探しとかも弌菜に勝ったことないもん…だから」


瞳色反転の反動が抜けたのを感じとり、ぐるぐると肩を回して鉄球を再び手に取る。

もっと弌菜とお話ししてたいけど…五月蝿い虫さんを始末してからの方がずっといい。


「邪魔な虫さんは二菜がまとめて潰すから、腕輪の奴を見つけたら教えて!頼りにしてるからね!弌菜!」

「…ん、任せてよ!」


五月雨先輩に目配せをして『結界』を開けてもらう。そして、そのまま視線をお姉さんへとスライドさせた。


お姉さんは、やっぱりすごいや。

私の知らない間に弌菜と仲良しさんになっていたあの人は、きっと弌菜の事を知ろうと寄り添ってくれたんだろう。

だから弌菜の背中を押してあげられたんだと思う。

お姉さんは能力者(私達)には難しい、"心を繋ぐ"ってことが出来る人だから。


…いいなぁ、弌菜。

私もお姉さんに背中を押してもらいたい!

私も、同じものが欲しいよ!


念を送ったからか、こちらに気付いたお姉さんと視線が絡まる。

ぱちりと瞬いた綺麗な藤色は、この混沌とした戦場においても少しの影もなく…ただただ凛と咲いていた。


血を失ったせいで顔色こそ悪いけど、さっき涙目になりながら薬を飲んだおかげか気分はずいぶん良さそう。

さすがは四恩先生印!効き目は抜群だね!


ホッとしながら手を振ってみれば、お姉さんは優しい笑顔をいつもと変わりなく注いでくれた。


「いってらっしゃい、二菜ちゃん」

「はい!すぐに片付けますね!」


あぁ、考えてみたら私…今、弌菜と一緒だしお姉さんに見守られてるしで…最強じゃん!!

やる気はMAX!疲れなんてサヨナラホームランだよ!!

今なら何だって出来そう!!


「さあさあ、虫さん達!駆除のお時間ですよぅ!!」


大きく振り抜いた鉄球は、心なしかいつもより軽い気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


NOside


【【Aaaaaaaaaaa!!!】】

【【Oooooooooo!!!】】


ガツン、ゴツン、ドスン…と、工事でもしているかの如く凄まじい打撃音の合間に、重機の駆動音に代わって怪異の絶叫が幾重にも重なって響く。


鈍く重い音の発生源は言うまでもなく、熊ヶ峰二菜の愛用する凶器(鉄球)であった。

彼女の『怪力』でもって振り回され,叩き付けられ,投げられるそれは、境内の石畳を割り、まだ若い杉の木をへし折り、そして容赦なく五月雨祈の『結界』を叩きながら怪異を消滅させている。


「きゃははは!!そぉーれ、もういっちょー!!」


余計な手加減(セーブ)が必要なくなった解放感故か、二菜はそれはそれはご機嫌だった。

ケラケラ笑いながら気色悪い怪異を更にグッチャグチャにして屠っている姿は、狂戦士(バーサーカー)と称してもこの場では誰一人として否定しないだろう。少なくとも、ヒーローとは言い難い。


本人からしたらストレス発散にサンドバッグを殴ってるくらいの気持ちだが、破裂した怪異(サンドバッグ)からは砂ではなく黒い体液が飛び散るものだからすこぶる絵面がよろしくない。赤くないだけマシと言われればそれまでだが。


そうしてまた、横薙ぎに振り回された鉄球が怪異ごと『結界』を強く叩いた。

臓腑に響くような重たい衝撃音と投げられたトマトよろしく潰れた怪異が『結界』の壁にへばりつく様子に、役二名程が小さな悲鳴をあげる。


言わずもがな、この場唯一の一般人と心は一般人の彼女達である。


「ちょっと二菜!!!いい加減にしろこの馬鹿!!」

「ありゃ!?またやっちゃった…ごめーん!」


うち片方…一般人たる鳥羽添弌菜が目尻をつり上げると二菜はへしょりと情けなく眉を下げ、おざなりな謝罪をしながら鉄球を別の方へぶん投げた。


この短時間で片手分越えるくらいには同様のやり取りを繰り返しているため無意味とは悟りつつ、それでも弌菜は小鳥のように口を尖らせて不満を露にする。


「少しは気を付けろってば!海外のスプラッタ映画も真っ青なんだけど!!…って、こっち見なくていいから!左!左!」

「わわっ、危なかったぁ…弌菜!ありがとー!」

「前見る!!」


状況と会話の差が酷いが、それを可能にするくらいには祈の『結界』は強固であった。

お家騒動を経て一皮剥けた彼女は、一般の大学に変わらず通いながらもその実力をめきめきと伸ばしている。


まぁ、鉄球がぶち当てられる度にこの馬鹿力がと不機嫌そうに目を座らせているのだが。

如何せん、能力を維持している祈には二菜によって削られる耐久値が感じ取れるので。


怪異の『増殖』は未だとどまることを知らず、減らしたそばから空いた隙間が新しい怪異で埋まっていく。いたちごっことはまさにこのことだ。

とはいえ縦横無尽に暴れ回る二菜の殲滅速度が増殖速度を上回りつつあるのか、少しづつながら隙間が広がっている。

これなら境内の奥…怪異に埋められた社の方まで目が届くようになるのも時間の問題だろう。


「二菜ちゃん、生き生きしてるなぁ…」


いっそ怖いくらいにという呟きを飲み込んだ綴戯栞里は、チラチラと"あちら"の彼女と重なりそうな程の暴れっぷりを見せる二菜に苦笑をこぼす。


四方八方から十本近く伸ばされた腕を上空へ身を投げてかわし、そのまま二菜は体を捻るようにして鉄球で大きく円を描いた。

そうすれば怪異は面白いくらいに潰れ、吹き飛んでいく。


飛ばされた怪異のうち何体かが再び『結界』に強く叩き付けられ、再度弌菜から小さな悲鳴が、祈からは盛大な舌打ちが響いたのはもはやお約束である。


たったの一撃でミステリーサークルじみた空間を作り上げながら、二菜はたまたま目があった栞里に弾ける笑みを見せた。

ボールをキャッチしたワンコよろしく実に得意気であるが、彼女はバッチリ弌菜からの苦情を忘れている。


それに仕方ないなと笑い返す栞里とは違い、彼女の元後輩である門倉合歓は呆れを少しも隠す事なく顔をしかめた。


「うへぇ…いくら五月雨先輩の『結界』があるっていってもぉ、容赦無さすぎですよぉ」

「ほ…ホント大雑把だよ、ね」


合歓に同調し、祈もまたこれ見よがしにため息をつく。


「普段からコレを制御してる九ちゃん先輩ってぇ、凄いですねぇ」

「せ…制御というか、九重は立ち回りが上手いっていうのが正しい、よ。それに…」


祈は二菜に小言や指示を飛ばす弌菜を見つめ、柔らかく目を細めた。


「せ…制御室には初めから、椅子は一つだけだったみたいだ、から」

「あはぁ!確かにぃ。まぁ、まだまだ新米みたいですけどねぇ」

「ふふ、そうだね。それでも…その椅子が冷たいままにならなくて、本当によかった」


栞里もまた祈と同じように…否、それよりももっと優しさを溶かし込んだ瞳を眩しそうに瞬かせる。


まだぎこちなさを残しながらも軽快なやり取りを続ける彼女達の表情は、栞里がこの凪祇市に来てから一番良いものだった。

怪異というきっかけは最悪ながら…いやむしろ、最悪故の吊り橋効果とでも言うべきなのだろうか。やや強引ではあれど二人の溝は少しずつ埋まりつつあるように見えた。

とはいえ実際の心など分かりようもないので、栞里は未だ気を緩めるつもりは毛頭無かったが。


「それにしても、『増殖』の怪異って…随分厄介なんだね」

「あ…あの怪異は少し変、です。い…いくらなんでも、『増殖』が早すぎま、す」

「え…?」

「ですよねぇ。僕は『増殖』持ちに当たるの初めてですけどぉ、このスピードでこれだけ能力を使っててもガス欠しないとがありえませぇん。普通じゃないですよぉ」


能力者たる二人から見ても異質と言われた怪異を睨み、栞里はぐっと眉を寄せた。


(もしかして…アレの成り立ちが普通じゃないせい…?)


おそらく彼女と弌菜だけが知る真実…あの怪異が"元人間"である事が関係しているのではないかと疑念が首をもたげる。しかし、それを皆に伝えるべきなのか否か…彼女は迷っていた。


「んー?綴戯さぁん、どうかしましたぁ?」

「…ううん。何でもないよ」

「ふぅん…?そう、ですかぁ」


人間が無理矢理怪異化させられる…なんて、それがとてつもなく重大な問題であることくらい栞里でも理解できる。

だからこそ、彼女は口を閉ざすことを選んだ。


余計な混乱を招くべきではない。そう判断したのである。


ここにいるのは頼れる能力者といえど、皆年若い子供。そんな少年少女達に伝えるには…あまりに事が重すぎた。

この情報を伝えるべくはおそらく、ここにいないもう一人の同行者が最適だろう。


それに何より栞里は弌菜に気付かせたくなかった。その怪異は元人間なのだと明確な言葉にしてしまったら、おそらく今は目を背けているのだろう彼女が自覚してしまう。


この戦いが、ある意味では()()()であるその事実を。

それはどうにか避けたかった。仕方ないで割り切るには…弌菜は"普通過ぎる"のだ。


「何ともないなら言いですけどぉ、薬で落ち着いたとはいえ無理しないでくださいねぇ。僕が多方面から殺されちゃいますからぁ」

「そんな物騒な…」


尚、冗談だろうと栞里は思っているが、合歓は本気で言っているし祈も彼に全力で同意している。

何せ、彼女の背後には保健医(モンペ)×2と魔王がいるので。


と、不意に轟いた一際大きな破壊音に、栞里のみならず祈や合歓も思わず体をすくめた。


「あ"ーーー!!!!」


後に続く弌菜の絶叫に何事かと土煙へ目を凝らし…一人は顔色を悪くし、二人はあーあと呆れながら元凶を半目で見やる。

各々の反応はもっともだ。

なにせ、境内の奥…この場を神社たらしめている社の一角が盛大に破壊されていたのだから。

押し潰された木材の上でつるりと光る鉄球が、何が起きたのかを雄弁に物語っていた。


「と…とうとうやった、ね」

「っんの、馬鹿二菜ぁ!!!」


ぎゃん!と反響した一喝に、二菜が悪戯のバレた子供と同じような顔で振り返る。

やってしまったという感情がモロに出ている表情はすこぶる正直だ。


「お馬鹿!罰当たり!!どーすんのよこれ!!?」

「ご、ごめん…つい。なんかそっちに怪異が固まってたから…」

「だからって、もー!コレ、後で神主のじーちゃんにウチら頭かち割られるやつじゃん…!じーちゃんまだ現役なんだからね!?」

「げっ」


さっと顔色を悪くした二菜と頭を抱えた弌菜は昔それはそれはやんちゃで、神社(ここ)で何かやらかす度に管理人である神主から拳骨をお見舞されていたものである。

道場で師範もしている彼の、両手では回らない程の筋肉に覆われた腕からくり出される拳骨は…言わずもがな、トラウマレベルのものであった。


「だ、大丈夫だよ弌菜ちゃん!『修復』って能力で元通りにしてもらえる…筈!」

「…え、マジ?能力者って凄っ」


弌菜の目が希望で輝く。


「まぁ、熊ちゃん先輩だけに限らずぅ、能力者ってほとんどが回りの被害とかこれっぽっちも気にせずにドンパチしますからねぇ」

「そ…そうだ、よ。こ…このくらいならよくあることだし、むしろ可愛い方だ、から」

「一ノ世ならこの場所更地にしそうだしね…」

「「違いない」」

「…え、能力者ってヤバッ」


ドン引きした弌菜の目が死んだ。


とはいえ、元に戻るという言葉で平常心を取り戻したらしく、彼女は慌てるのをやめて怪異の間を視線で縫っていく。

そしてある一点を見て目を丸くした後、迫る腕を屈んで避け,前方の怪異を肘打ちでぶっ飛ばし,次いで右のを裏拳で沈め,そのままの流れで左の回し蹴り,とどめに鉄球で一掃…と絶好調にコンボを重ねる片割れによく通る声を放った。


「二菜!見つけた!!」

「え!本当!?」

「社壊したのはアレだけど、おかげで見えたよ!あそこ!!」


ピッとネイルの剥げた指先が示す方へ二菜だけでなく皆が視線を向けると、壊れた社のその奥…寄り添い合うように身を寄せる二体の怪異が、他の有象無象の隙間から何かをを光らせているではないか。


見えたのは一瞬で、すぐにその姿は『増殖』によって隠されるように埋められたが、ただ一人栞里の目だけは誤魔化せない。


「…うん。間違いない。腕輪をした怪異が二体、あそこにいた」


"記録者"の断定に能力者達の気配がピリッと変わる。

特に二菜は漸く目障りな怪異を潰せると口端を吊り上げ、凶暴さを滲ませて嗤った。


「きゃは!きゃはははは!!さっすがは弌菜!やっぱ探し物の天才だね!さぁ虫さん達…かくれんぼはおしまいです、よ!!」


どうせ直るからと開き直ったのか、はたまたテンションがぶち上がって怪異以外目に入らなくなったのか。

二菜はもはや一切の遠慮もなく、いっそ清々しい勢いでもって社ごと周辺の怪異を薙ぎ払っていく。


「よし!ナイス二菜!視界良好!!」

「嘘でしょ弌菜ちゃん…」


いよいよ本当に罰が当たりそうだと冷や汗を流した栞里は、突然の常識枠の裏切りに目を剥いた。

尚、弌菜はもう完全に開き直っている。どうにでもなーれ状態だ。


「つ…綴戯さん、どうしました、か?か…顔色がさっきより悪くなってます、けど」

「やっぱり綴戯さんだけでも帰った方が良くないですかぁ?」

「大丈夫…何でもないから」


能力者たる二人が気にしていないのは想定内だったので、彼女は諦めにも近い気持ちで小さく息を吐いた。

まぁ、罰だなんだと気にしながらも、その実神様なんてクソくらえと思っている栞里も大概なのだが。


「はいはーい、場所を開けてくださーい!きゃはははは!」


二度、三度と鉄球が地面と平行に滑り、その都度怪異を巻き込んで消し去っていく。

そして、程なくして…道が空いた。


「み・い・つ・け・た♪」

【Aaaaaa!!?】

【Ooooo!!?】


にんまりと笑う二菜の前方…無理矢理開けた空間の先で、腕輪を光らせた二体の怪異が耳障りな声を上げる。

うち一体がじゃらりと鳴らされる鎖の音に誘われるように前へ出た。


「きゃは!自分からって?いいよ、あーそびーましょー!」


たん、と地を蹴って二菜が距離を一気に詰める。

握りしめた鎖を右上から左下へと振り下ろせば、遅れてついてきた鉄球が袈裟懸けの軌道を描いて怪異のもとへと吸い込まれ…


「…っ!?」


外側へ、()()()()


予想外の事態に一瞬緩んだ体が鉄球の勢いに持っていかれ、バランスを崩す。

しかしそこはさすがと言うべきか、二菜は引っ張られる力をも利用して後ろ回し蹴りを放った。


【A、Aaaaa!!】

「げ、嘘っ…ぅぐ!?…かはっ」

「「二菜 (ちゃん)!?」」


しかしそれすらも受け流され、そのままの勢いで投げられた彼女は強かに木へ体を打ちつける。


一連の動きは出来の悪いスライムじみた見た目からは想像つかないほどに鮮やかで美しく、祈と合歓も信じられない気持ちで口をあんぐりと開けていた。


「げほっ…!ぐぬぬ、怪異のクセに…!」


すぐに体勢を整えた二菜は、ペッと血を吐き捨てながら追撃をかわす。

切れた口内と打ちつけた背がじくじくと痛みを訴え、それが己の甘さを嘲笑うようで腹立たしかった。

こんな、怪異が無駄のない動きをするなど想像の外側である。少なくない動揺が二菜の心をざわつかせた。


「次は、当てる…!!」


それを振り払うように己を奮い立たせ、今度は鉄球そのものを砲丸よろしくぶん投げる。

『怪力』にもの言わせたそれは風を置き去りにするほどの速さであったが、驚くことに怪異は避けるでもなく腕を構え…トン、と軽く見える動作だけで再び受け流して見せたではないか。


「まだまだぁ!!」


続けて肉薄した二菜が拳を振りかぶるも、受け止められるどころか勢いを利用して投げられる始末。


その場の誰もが理解した。これはまぐれでもなんでもなく、まごうことなき"技"である、と。

二菜は己の体術の師である七尾晴樹とでも対峙しているような心地になり、ギリッと奥歯を噛み締めた。


「えぇ…何ですかぁ、あれぇ」

「に…二菜が遊ばれて、る」

「今の動きって、まさか…」

「弌菜ちゃん…?」


皆が驚きに目を白黒させる中、弌菜はパチリとパズルのピースが嵌まったかのように一つ瞬く。

その様子に首をかしげた栞里が尋ねるより早く、彼女は手でメガホンを作って大きく息を吸い込んだ。


「二菜!!その()()、昔は空手の全国大会…それも、上位の常連だったの!」

「えっ!?なに、空手!?しかも大会!?怪異って空手の大会出れるの!? 」


深刻なすれ違いが発生した。

息を飲むような戦場だというのに、やり取りがまるでコントのようになってしまっている。


祈と合歓が宇宙人を見るかのような目を弌菜へ向ける一方で、言葉の意味を理解している栞里は苦虫を噛み潰したかの如く顔をしかめた。表情の温度差が凄まじい。


「…もぅ!空手だか何だか知らないけど…これ以上弌菜との貴重な時間を邪魔しないで!!」


何度も何度も攻撃をいなされ、防がれ…とうとう二菜の額に青筋が浮かんだ。

簡潔に言えば、彼女はキレたのである。


鋭く突き出された腕を鎖で受け止めた二菜はその腕を足場にして高く飛び上がり、縦回転でもするように黒光りする凶器を垂直に振り下ろす。

瞬間、くるりと二菜の瞳は色彩を反転させた。


「『前借り(ブースト)』!!」


ギシリ、と特殊素材でできている筈の鎖をも握りつぶし、数秒先の己がもつ『怪力』の力を上乗せした全力を越える一撃。

鉄球は重力の力も相まって、星のごとく怪異に迫る。


栞里と弌菜の目ではほぼ捉えることの出来ない速さで落とされた一撃は、今までの攻撃とは比べようもない重さだったのだろう。

何せ、またも受け流そうとした怪異の腕がその圧に負け、僅かな動きすらも許されずに弾け飛んだのだから。


【A"a"a"a"a"a"!?!?】


鉄球が地を割る轟音と怪異のつんざくような悲鳴が混ざりあって空気を揺らした。

立ち込めた土煙の奥では、腕のみならず体の半分が吹き飛ばされた怪異がふらりふらりと後退る。


滝のように黒い体液を流すそれにとどめを刺すべく、二菜は足に力を込めた…のだが、彼女が一歩踏み出すより先に『増殖』で増えた分身達が雪崩れ込んで道を塞いでしまう。

瞬きの間に見失った獲物に、二菜は悔しそうに舌を打った。


「あーもう!!あと少しだったのにぃ!!」

「先輩どんまぁい。まぁ、あの傷ならそのうち力尽きますよぉ」

「ぐぬぬ…とりあえず五月雨先輩!クールダウンさせてください!反動、が…っ」


ガクン、とその場に座り込んだ二菜にやれやれと息を吐き、祈は『結界』の範囲を少し広げる。


「二菜、大丈夫?」

「平気だけど…すっごくモヤッとする!」

「も…問題はもう一体の方だ、ね。ま…また隠れちゃったみ、たい」


また探すところからか、と双子がそっくりな顔で肩を落とした。


しかしすぐに気を取り直し、皆が鋭く辺りを見渡す。

そんな彼女達に倣って栞里も怪異の群れに目を凝らした。

と、波打つ軍勢にタイムセール中のデパートを埋める人だかりを重ねていた彼女の耳へ微かな音が届く。

どこからかと視線を動かせば、丁度目を向けた先で視覚がソレを拾った。


「…あ」

「お姉さん?どうし……ぁ」


空から落ちてきたそれは二度,三度と石畳を跳ねて境内に甲高い音を響かせてから転がってくる。

やがて『結界』の壁に当たって止まったのは…くすんだ銀の腕輪だった。


おそらく二菜の攻撃で吹き飛んだものだろう。

不恰好に変形してはいるが、あの攻撃を受けた事を考えれば奇跡的なくらいに綺麗な状態と言える。


デザインはドクロとクロスの組み合わせで、いかにもヤンチャそうなものだ。

その、向かい合うドクロの真ん中…他のよりデザインの凝った十字架には一ヶ所不自然な窪みがあり、年相応のガラス玉かイミテーションジュエリーが嵌まっていたのだろうと予想できた。


いつかそれが本物の宝石に変わり、腕ではなく指を彩る未来があったかもしれない。

そんな想像をして、栞里はやるせなさに唇を噛んだ。


そのまま弌菜を気遣うように見やれば、真っ青な酷い顔色で口元を震えるてで覆う少女が映る。きっとソレに見覚えがあったのだろう事は想像に容易かった。


あぁ、とうとう彼女ははっきりと認識してしまったのだ。

怪異と己の友人が本当にイコールである、と。


「弌菜ちゃん、辛いなら…」

「っ、…ダメ。ちゃんと、見届けたい。じゃなきゃウチは…絶対後悔すると、思うから」


口ではそう言っても、頭では何となく分かっていたことであっても…突き付けられた現実はあまりにも残酷だった。

受けたショックの大きさに、弌菜はすがるようにして栞里の服をつかむ。


カタカタと震える真っ白な手。

あと一歩で決壊してしまいそうな顔。


栞里は何も言わず、ただ冷たくなった手を包み込むようにして強く握りしめた。

それはまるで、己の体温を分け与えるかのように。


「ず…ずる、い。わ…私も綴戯さんに手を握ってほし、い」

「五月雨先輩、今は我慢ですよぉ」

「わ…わかって、る」

「いやいやぁ、分かってる顔じゃ……あ」


小さく声を漏らした合歓につられて皆の視線が外へ向くと、いつの間にか復活していた二菜が鉄球ではなく大木を振り回しているところだった。

バットのように振り回されるそれによって、怪異があの世へホームランされていく。


二菜によってへし折られ、転がされていた木が有効活用されているのは何よりだが…それによってまた新たな木材がバッキバキと生まれているので負の連鎖だ。


ともあれ、道は再び開いた。


元より怪異による『増殖』の速度も格段に落ちてきていたので、一度目に比べればあっさりしたものである。

おそらくだが片方が負傷したのが響いているのだろう。


身を寄せ合う怪異は、社からそう離れていない老木の下で見つかった。


「きゃは!また会えたね、虫さん!…もう観念してよ」

【A"a…a……A"a"…】

【Oooooo…!Oooo!!】

「し…勝負あり、かな」

「ですねぇ。うへぇ、熊ちゃん先輩の殺気やばぁ。グリズリーか何かですかぁ」


相も変わらず空気を読まない合歓の爪先を祈は無言で踏みつける。

元々非番である彼女の靴はピンでこそ無いものの、程々の高さのヒールがついたものであり…まぁ、息を詰まらせるくらのはダメージは与えた。

良い子は真似してはいけない。


「終わりにしよっか、虫さん」

【…A"a"…】

【Oooo!?Oooo!!】

【A"aa…A"a"…a】


まるで会話でもしているかの如く交互に不協和音を吐き出す怪異達が、もぞりもぞりと身動ぐ。


怪異にも言葉があるのだろうか。

怪異にも思考があるのだろうか。

栞里はノートの端に書き留めるメモくらいひっそりと、けれど確かにその疑問を頭に書き留めた。何故だか、とても重要な事な気がして。

彼女がそんな事をした理由は…簡単に言ってしまえば"驚き"故だ。


何せ、二菜が鎖を鳴らしながら凶器を振りかぶったその瞬間…怪異は予想だにしない動きを見せたのである。


【O"ooooo!!O"o"o"!!】

【A"…!?Aaa!?】

「「「は…!?」」」


栞里だけじゃない。

鉄球を放った二菜も、それを見ていた弌菜や祈、合歓も皆息を飲んだ。


だって、庇ったのだ。

ずっと後ろに控えていたもう一体の怪異が、ここで潰されて終わる筈だと誰もが思ったボロボロの怪異を。


鉄球の軌道に無理矢理体をねじ込んだその怪異は、虫の息な怪異を守るように抱き込んで…もろとも吹き飛ばされる。

戦場であるにも関わらず、誰もが呆けた顔でそれを目で追っていた。


「な…何今、の。か…怪異が怪異を庇うなんて、初めて見た、よ」

「…人間の真似事ですかねぇ」


人間の真似事。

合歓がぽそっと落とした呟きに弌菜の顔が歪み、その瞳に影が差す。


真似事などではないと彼女だけは理解していた。

二体のその姿は、かつての友人達の在り方そのままだったのだから。


喧嘩の度に彼は彼女を守っていた。

しかし、いざ彼のピンチとなると彼女は黙ってなどいられず飛び出してしまう。

そんな二人だった。


「…カナ、テツ」


ごめんね、と音にならない謝罪。空気に溶かしたそれは、弌菜なりの決別の言葉である。

飲み込んでしまった現実から逃げるように栞里の胸に飛び込んだその瞬間、その場の全員がたまらず耳を覆う程の絶叫が響き渡ったのだった。



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