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16-5


いっそ肌が痛いと感じる程の暑さの中、ギラつく日差しの眩しさに手で影を作りながら目を細める。


強烈な日光に照らされた白浜が太陽の真似でもしているように白んだ黄金色を発して広がり、その上ではビーチパラソルやチェア,子供が置き去りにしたのだろう砂遊びのセットがカラフルに色を添えている。


砂浜に残された足跡を辿ってみれば、良くできた砂の城まで道が続いていた。

城は波にさらわれて少しずつ崩れ行き、城壁を持ち去った波の先には目も眩むほど美しい青が揺らめいている。


海面はスパンコールをちりばめたような煌めきを見せ、白い飛沫は繊細に編まれたレースのよう。それはまるで、地球の為に誂えられた壮大にして優美な一枚のドレスみたいだ。

ついつい感嘆の息がこぼれ落ちた。


サーファーには少々物足りないだろうその穏やかな海には浮き輪が揺蕩い、クラゲの群れのようにぷかぷかと遊んでいる。


年齢関係なくきゃらきゃら弾む声がどこからでも聞こえてきて、波音、鳥の冷やかし、蝉の歌…全部をごちゃ混ぜにしたテーマパークを思わせる騒がしさは、どこまでも生々しい生命の音楽だった。


…それにしても、帽子を持ってくるべきだったな。失敗した。思っていたよりずっと日差しが強いや。

こうして海を観察している間にもぶっ倒れそうだ。


くらりと視界が揺らぐ。これはいよいよ日陰に入らないとマズイと思い、ビーチサンダルに入り込んだ砂の熱さに指先を丸めながら辺りを見渡していると、人混みの中で季節外れの桜が跳ねた。


「はわわわ!!おね、お姉さん…っ!かっわいいですぅぅぅぅぅ!!!」


しゅばばっと砂を蹴り上げ、ついでに砂に埋められていた誰かを蹴飛ばしながらあっという間に目の前までやって来た二菜ちゃんにぎこちなく笑みを返す。

気絶したっぽい見知らぬ海水浴客さん、すみません。


「お姉さん!よくお似合いですよぅ!最高です!!」

「ふふっ、ありがとう二菜ちゃん」


太陽に負けないくらいキラキラとした眼差しと共に真っ直ぐ差し出された賛辞。

それが嬉しくも恥ずかしく、意味もなく水着のストラップを弄った。

一回試着して見せたと思うんだけどなぁ…


よくあるビキニタイプを着る自信のなかった私は、体型を誤魔化すべくタンキニに近い形の水着を選んだ。

すみれ色を基調としたそれはシンプルでスッキリしたデザインではあるが、二菜ちゃんがどうしてもと譲らなかった胸元のフレアが少し可愛すぎやしないかと不安である。


まぁ、胸のサイズを誤魔化せるのは助かるんだけど…

なんて悲しくなることを考えながら、白地に花柄があしらわれたパレオを腰で結び直した。


「むむむ…!これは、五月雨先輩がいたら間違いなく襲われてましたね!!」

「え??いや、襲うって…祈ちゃんにも選ぶ権利はあるから…」

「何言ってるんですか!そんな無防備じゃダメですよぅ!!」

「うーん…私より二菜ちゃんの方がよっぽど可愛いと思うけどなぁ。凄く良く似合ってるよ!」

「ぅえ!?…ふへ、ふへへへへ!そ、そうですか?お姉さんに言われるとその、照れちゃいますよぅ…っ」


へにゃっと顔を蕩けさせた彼女の水着は、黄色が鮮やかに弾けるホルタータイプのビキニだ。

発育の良い胸のセンターで揺れるオレンジのリボンと、キュロットにあしらわれたレースが二菜ちゃんの愛らしさを一際引き立てている。グッジョブ!!


さて、初々しく可憐な文句無しの美少女である二菜ちゃんにチラチラとよろしくない視線を送ってる野郎共。要注意人物としてバッチリ"記録"してるからな?変な気起こすなよ?

私が辺りに目を光らせていると、二菜ちゃんはこちらから視線を外してキョロキョロとし始めた。


「メイリーさんは…まだ、でしょうか?」

「うん、まだ見かけてないかな。すぐ追いかけるって言ってたからだいじょ『キャーーーーーッ!!!』っ!?」


私が言いきる前に色めき立った悲鳴がそこかしこから上がり、驚きで台詞を飲み込んで口を閉じる。

何事かとざわめく周囲の視線を追って…私も二菜ちゃんも目玉が落ちるんじゃないかと思うほどに眼をかっ開いた。


白い浜でひどく目立つ黒一色の水着。

クロスホルダーのマイクロビキニからはみ出したたわわな果実は性別問わずに人々の目を釘付けにし、剥き出しになっているすらりと細い腰のくびれと腹筋の浮き出る程よく引き締まった腹、そしてきゅっと形の良い臀部のラインに皆ごくりと喉をならす。


控えめに言って、どえれぇ美人がそこにいたのである。

おかしいな。ここはランウェイか何かだった??

いっそここが三次元かどうかすら疑うんだけど。


語彙力が追い付かないレベルの美人はしかし、ぐっさぐさに突き刺さっているだろう周囲の視線など歯牙にもかけずに銀糸を揺らして一直線…私達の前まで颯爽とやってきた。


「やぁ、お待たせ」

「「ミ゜」」


たゆんと間近で揺れた凶器に二人して変な声が上がる。

これはけしからん。軽率に人を殺せるぞ。


「む…参ったな。また育ってしまったか?少しばかり…んっ…キツい、な…ふぅ…」

「「ひょえぇぇぇぇぇぇ!!?」」

「…はて?二人ともどうかしたのかい?」


耳に心地よいアルトがようやく目の前の美人とメイリーをイコールで結びつけた。

嘘でしょメイリー…キミ、好青年はどこにおいてきたの…??


ぱちんと水着のヒモを弾きながら首をかしげる彼女の動きに合わせて、その体を銀の髪が滑る。

うっすら浮かんだ汗に僅かに引っかかる感じがまた何とも言えない。


必要最小限の布で構成された水着をまとう体からは匂い立つような色香が醸し出され、それにあてられてくらりと眩暈が酷くなった気がした。


「はわっ…!め、メメメメ、メイリーさん!?スタイル違くないですかぁ!?」

「ん?あぁ、ボクは常日頃から動きやすさを重視しているからね。普段は『縮小』が付与された特別製の下着で潰しているんだ。それにボクのいる部署、内でも外でも女性だとナメられやすくてね…体の線も服でカバーしているよ」

「むね…『縮小』…潰して……??は??」

「お、お姉さん…落ち着きましょう。ね?」


メイリーの言い分は理解できたが、私にとっては非常にショックな言葉を聞いたぞ…

心がアイスクリームディッシャーでぐりっとえぐられた気分である。

とりあえず二菜ちゃん、そんな痛ましいものを見るような目で見ないで…

ねぇ、知ってる?私とメイリーってほぼ同じ年れ…げふんげふん。止めよう。世の不条理を呪いそうだ。


「シオリ?どうしたんだい?」

「ちょっと…埋まりたいなって」

「「埋まりたい!?」」


ぎょっとする二人を余所にメイリーの胸を親の敵のように睨むと、察しの良い彼女は私の嫉妬に気付いてしまったらしい。

そして、メイリーは小さく笑って私の手をすくい取った。


「シオリ、大丈夫だよ。ボクは今の貴女をとても可愛いと思ってる……チュ」

「なっ!?か、からかわないで!」


指先に唇が落とされ、慌てて手を引っ込める。油断も隙もない…!

耳にドクドク響く鼓動は全力疾走でもしたように速く、頬も熱い…別方向の熱中症でぶっ倒れそうである。


まぁ、その分刺すような嫉妬の視線で冷やされてるからウィンウィンかな…

お望みなら代わってあげるよ外野諸君。救急車は呼んどくから。


「ふふっ、どうしても気になるなら…ボクが育ててあげるのもいいね」

「それは八丸くんと同じ次元」

「おっと失言だったか」


クスクスと悪戯っぽく笑う姿さえも色っぽくて、私は半目になりながら嘆息した。

遊ぶ前から疲れたよ…


さて、周囲の目とフリーズした二菜ちゃんをどうしようかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うひゃーーー!!」

「わっ、冷たー!」


初撃で大ダメージを食らったものの、一歩海に足を浸してみればそんなものは吹き飛んだ。


「「気持ちいいー!!」」


二菜ちゃんと声を揃え、顔も見合わせてきゃらきゃら笑う。


ちなみに、海に入るにあたって私達は皆いつもの眼鏡をしていない。

一応は機械が内蔵されているのでさすがに海水はNGなのだ。

メイリー曰く、どうせ周囲の目は海か水着に行くだろうからそこまで神経質にならなくても良いだろうとの事。確かにそうだろうね。

なので、目の前の二菜ちゃんも私も特異な色彩を宿す瞳をそのまま輝かせている次第である。


私達に当たっては白く泡を弾けさせる波に擽られながら比較的浅い場所を陣取ると、言葉がなくとも同じ事を考えたらしく二人して海水を手にすくい取った。


「お姉さん、覚悟ー!」

「わっ!?…やったな、そーれ!」

「きゃははははは!!冷たいですー!」


年甲斐もなくはしゃいで海辺を満たす人々の喧騒に自分の声を混ぜながら、お返しだとかけられた海水に小さく悲鳴をもらす。

日光に暖められているとは言え、やはり冷たいものだ。

けれど火照った体にはそれが心地よく、決して身を震わせる事はない。


ばしゃん、と私の放った海水をモロに被った二菜ちゃんが子犬のようにぷるぷる頭をふり、チラリと浜に目を向けた。


「むむむ…メイリーさんも来ればいいのに…」

「そうだね。でも、疲れてるときに海に入るのは危ないから…仕方ないよ」


借り物のビーチパラソルの下を陣取っているメイリーは、サングラスをかけたまま優雅にビーチチェアへ体を預けている。

見た目が完全にセレブの休暇だ。

いつの間にか簡易テーブルにはお洒落なドリンクまで置いてあるではないか。うん、なんかもう…完璧です。


なんでも、ここ最近仕事詰めで忙しい毎日を送っていたらしく、いい機会だから今のうちにのんびり体を休めたいのだそう。お疲れ様です…


「分かってますけど、やっぱりメイリーさんともわちゃわちゃしたいですよぅ!それと…あわよくばあの果実ををこう、もにっと…」

「二菜ちゃん…変態オヤジみたいだよ…」

「はぅっ!?」


手をわきわきさせるのは止めようね。気持ちは分からなくもないけど…だってあれは、ねぇ…?反則だよ。


ぶくぶくと海中に顔半分沈めてしまった二菜ちゃんに苦笑しつつ、えいやと海水をかける。

すると彼女は植物の成長を早回ししたようににょきっと伸び、何か思い付いたように目を光らせた。

おっと、これは嫌な予感がするぞ…?


「ふっふっふ…お姉さん、よくもやりましたね!こうなったら、二菜の必殺技をお見せします!!」

「ひ、必殺技…???」


ちょ、何で鉄球出してるのかな…!?


「さぁ、いっきますよー!!」

「まっ…!」

「どりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


バッシャアァァァァァァァン!!!


凄まじい勢いで海面に叩きつけられた鉄球は、いっそガラスでも割ったようにけたたましい音を響かせながら周囲の水を一気にその場から押しやり、一瞬だが海底を日光のもとに晒した。


浅瀬とはいえ胸まで浸かるくらいの海水が一度に追いやられたのだ。その結果どうなるかと言えば…当然相応の大波が生まれる。


「…!…がぼっ……っ!?」


がっつりそれに飲み込まれた私は瞬く間に音も視界も体の自由も失って水流に押し流され…そのまま沈んだ。


しゅわしゅわ、コポコポ。

体を包む白い泡が我先にと海面へ逃げていく。

それをぼうっと見送れば、昇る泡の向こうでは太陽が揺らめいていた。


近いような遠いようなその光りに向かって水がまとわりつく手を緩慢な動きで伸ばしてみる。

当然その手が届く筈もない。ただ意味もなく水草のように揺れるだけだ。


やがて水に持ち上げられた私の黒い髪がカーテンの如く視界を狭め、世界が一段階暗くなった気がした。


コポリ、と泡を吐く。


賑やかだった音は遠のき、海水も少しづつ温度を失ってヒヤリと肌を撫でる。思いの外沖に流されたらしい。

衝撃に驚いて逃げてしまったのか魚一匹見当たらず、まるで世界に一人放り出されてしまったみたいだ。


それでも…ここから見える青は、ただ美しい。

私の知る一人きりの風景よりずっと、ずっと…


それは空を見上げた青とはまた違う、深く優しく…畏ろしい青。

"海"をそのまま表しているかのような色彩に酔いながら、私はまた一つ気泡を昇らせる。


潮の揺りかごに身を任せ、ともすればこのまま溶けて消えてしまうのではないか、なんて…そんなことを考えた刹那。

ざばんと水を揺さぶる音と共に頭上で群れをなした泡の隙間から見えた桜と銀に、ついゆるりと頬が緩んだ。


そのままそっと視線を海底に落とし、そこに見えるおびただしい白骨の山とゆらゆらひしめく黒い手の幻影に別れを告げる。


私が"あちら"の海で見送ってきた…否、見捨ててきた数多の命から寄せられた怨嗟なのか、ただの私の妄想なのか。

…どちらにせよ、ごめんね。まだ私は、"そこ"にいけない。やることがあるんだ。


だから、らしくなく慌てたように伸ばされたメイリーの手を迷わず掴み…私は海上(現実)へと引き上げられたのだった。


「ぷはっ!!げほっ、げほっ…!!」

「お"姉"さ"ぁ"ん"!!ごめ"ん"な"ざい"!!死"な"な"い"でぐだざい"!!」

「だ…大丈夫、だから…落ち着い、て…二菜ちゃん」

「貴女は落ち着き過ぎだけれどね。まったく…久方ぶりにヒヤヒヤしたよ。全然上がってこないものだから」

「あはは…ごめん。うっかり海に見とれちゃって…」


ふやけたようなしわくちゃの顔で謝り倒す二菜ちゃんを宥めつつメイリーにそう返すと、呆れと安堵の混ざった顔でコツンと小突かれる。

どうやら随分と心配をかけてしまったらしい。


「まったく、お転婆なお嬢さんだ。気をつけておくれ。ボクは貴女を海にくれてやるつもりなど微塵もないのだから」


形のいい眉を下げながら、仕方ないなぁと言葉が透けて見えそうな苦笑を浮かべたメイリーが私の頬に張り付いていた髪を長い指でそっと払う。


…今更だけど、濡れたメイリーの色気ヤバイな?

濡れた肌にまとわりつく銀糸とそれをかきあげる仕草。つぅと谷間を滑る水滴。濡れたせいでより密着した水着…

大丈夫これ?存在だけでR指定されない?


ちょっと腹がムズムズするような…なんとも言えない心地になり、失礼じゃない程度にそっと視線をそらす。代わりにその先で不安そうな顔をしている二菜ちゃんと視線が絡み、私は安心させるように微笑んだ。


「そんな顔しないで。私、いいものが見れてむしろラッキーだったんだよ?」

「いいもの…珍しいお魚さん、とかですか?」

「ううん、違う。すごく久しぶりに…"海"を見れたんだよ」

「はて?海なら『楽園』の周りにいくらでもあるだろう?」

「ふふっ、そうだけど…そうじゃないんだ」

「んん???」


不思議そうなメイリーと違い、私の言いたい事をなんとなく察したらしい二菜ちゃんが曇り空のように曖昧な表情で水平線を見つめている。


私はそっと目を閉じ、目蓋の裏に過去を映し出す。


"あちら"の海。それは大量の油やゴミだけでなく、様々な有害物質が溶けて混ざった毒そのものだった。

どどめ色をして酷い臭いを発するそこは少し潜っただけでも真っ暗で、波打ち際から沖までどこも身を刺すような冷たさだったのを幾度も放り込まれた体が覚えている。


何よりあそこは…墓場よりも悲惨な場所だった。

腐乱死体と白骨死体が魚の数より多いくらいに沈む海底は、地上とはまた別の地獄を作り上げていたのである。


私も何度仲間入り仕掛けたことか。

溺死は海面に辿り着くまでリピートする羽目になるのでキライである。

で、やっとの思いで陸に上がってもラストに一回有害な海水を飲んだ事による死が待っていたり…あれは本当に苦しかった。


そんな最低最悪な"海"の記憶。

しかし、先程のハプニングがそれを新しく塗りつぶしたのだ。

濁り変色した海水は、本来の美しいマリンブルーに。

暗い海中は、日光が水を貫いてキラキラと煌めく世界に。


「…お姉さん」


言葉を慎重に選ぶように、二菜ちゃんが恐る恐るといった様子で喉を震わせる。

水平線から私に移り変わった視線が、その桜色が、何かを願うようにゆっくりと瞬いた。


「"こっち"の海は…綺麗、でしたか?」

「…うん、とっても!」


彼女は私の答えに、それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべたのである。



さて、保護者(メイリー)に海に入るのは危険だからダメ!と禁止令をくだされてしまった私達は、気を取り直して砂浜でビーチボールを追いかけることにした。


「…よっ!」


腰を少し落とした状態で腕を前に伸ばして軽く手を組み、肘より手前でポーンとボールを打つ。


「はわわ!?お姉さん、めっちゃ上手…ですっ!」


次いで、二菜ちゃんから返って来たボールを顔の前で三角形を作るように広げた手で押し返す。

お、ちょっと強かったかな…?


「うおおおお…!…っわ!?」

「あっ」


我ながら綺麗に飛ばせたボールが描くアーチを手で(ひさし)を作りながら眺めていると、それを追いかけていた二菜ちゃんが砂に足をとられたのか…べしゃりと盛大に転けた。


「二菜ちゃん?だ、大丈夫…?」

「きゃはは、へーきですよぅ!それにしてもこれは足腰のトレーニングになりそうで…っあいた!?」

「…ぷっ!あははははは!!!!」


むくりと起き上がったところにボールが脳天に落ちてくるというお決まりの追撃が決まり、コントでも見ているかのようなテンポの良さに思わず声を出して笑ってしまう。


「もー!!お姉さん!笑いすぎです!」

「ごめんごめん!だって…ふふっ!綺麗に決まってたから…ふは!」

「あー!!また笑いましたね!!酷いですよぅ!忘れてください!」


恥ずかしそうに顔に朱を注いで地団駄を踏んだ二菜ちゃんはもう一回!と叫び、足元の砂を蹴り上げながら転がったボールを取りに駆けた。

すぐにボールを抱えていそいそと持ち帰ってくる様子がボール遊びをするワンコを連想させ、一度は引きかけた笑いがまたぶり返す。

ある筈のない耳と尾が見える…


そうして持ち場に戻った彼女は、ボールを片手に乗せながら手を振った。


「お姉さーん!次は二菜からいきますよぅ!」

「はーい!」

「ではでは!そー…」

「あ…!二菜ちゃんそんなに力んだら…!」


気合いの入った姿に慌てて声を上げて止めようとするも、時既に遅し。


「れ!!!」


その言葉尻一文字と同時に彼女の手が高く放ったビーチボールを捉えた瞬間…


パァン!!!

「「っ!?」 」


盛大な破裂音が鳴り響く。

音源など言わずもがな。探す必要もなく、派手な音の元…ビーチボールの残骸がハラリと砂の上に舞い落ちる。


「あちゃー…これまた無惨に…」

「はわわわわわ!?すみません!!()()やってしまいました!!」


そう、()()である。


このビーチバレーが始まってから三十分も経っていないのだが、既に片手を越えるビーチボールが御臨終済みだった。

すべて彼女の一撃によるものだ。

一体どんな勢いで打てばビーチボールをシャボン玉同然に割ることが出来ると言うのか…


まぁ幸いだったのは、二菜ちゃん自身自分がボールを破裂させるのは想定内だったらしいという事か。

彼女はこれを見越して空気の入っていないぺしゃんこ状態のスペアをバック一杯に詰め込んできていたのである。

どうりで彼女のビニールバックがやたらパンパンだったわけだ。いやでも、どんだけ潰す予定なの…?


本人はこんなこともあろうかと!って得意気な顔だったけれど、努力すべきはたぶんきっとそこじゃないよ二菜ちゃん。

力加減ってご存知…?


とは言え、ボールが潰れる度に顔を赤くしながら新しいものに息を吹き込む彼女はすこぶる微笑ましいので、私としては中々に眼福だったりするんだよね。

ただ、さすがに疲れが見えるから…いい加減空気入れを借りてくるべきかな。


なんて迷っている間に、ぷは!と空気の注入口から口を離した二菜ちゃんがこちらに手を振った。

どうやらn代目のビーチボールが誕生したらしい。おめでとう。

ボールの出来に本人は満足そうだ。


「お姉さん!すみませんお待たせしました!」

「ううん、気にしないで。ボール、膨らませてくれてありがとう二菜ちゃん。…休まなくて平気?」

「全っ然へっちゃらですよぅ!ささ、今度こそ二菜の華麗な一撃をお見せします!!」

「え、あ…!?ちょ!!」


次は私がサーブを打つからと止めるより先にボールを空高く放ってしまった彼女は…


「そぉーー、れ!!」

パァァン!!!


「わぁ…」

「あぁぁぁ!!?」


またしてもビーチボールを盛大に破裂させたのだった。確かに華麗な一撃ではあったね。

分かりきっていたと言うかなんと言うか…うん。

さらばn代目。キミ、歴代最短の就任期間だったよ。


「あ、あんなに頑張って膨らませたのにぃぃぃ!!!」


がくりと膝から崩れ落ち、哀愁と痛恨の念を背負って砂を叩く二菜ちゃんに周囲からも哀れみと…ドン引きの目が向けられる。

ちなみに、メイリーは腹を抱えて笑っていた。


さて…空気入れ、借りてこようか。







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