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15-4


そのまま直帰するという一ノ世と研究所で別れ、私は平和的に『転移』で帰ることが出来た。

今はみにばう君を肩に乗せながら図書室を目指して学園内を歩いている。

某黄色い国民的アイドルのような位置が気に入ったみたいだけれど…地味に重い。

いくら超軽量素材だという特殊な金属を使っていても金属は金属ということか。


ちなみに、最初こそ普通に腕に抱えていたんだよ?

でも、疲れて一度床に下ろそうとしたらこうなったんだよね。

下ろしたい私VS絶対に離れたくないみにばうくんによる仁義なき戦い…という程大袈裟ではなかったけれど、ちょっとした攻防の末に私の肩が勝ち取られた。

どやっと満足そうなみにばうくんに全て許したよ。百点。可愛いは正義。


「もうすぐお家につくよ、みにばうくん」

「ばうばう!」

「道は覚えた?」

「ばう!」


ふんすと鼻から蒸気を出して一鳴きしたみにばうくんに頬がゆるむ。

言葉があるのなら勿論と聞こえてきそうだ。

可愛いなと何度目かも分からない感想と共につぶらな瞳を覗き込めば、そこにはしまりない私の顔が映り込んでいて恥ずかしくなる。


三階まで階段を上りきり、見慣れた廊下を歩けば目的地はもうすぐそこ。

そう思うと一気に溜め込んだ疲れが睡魔となって襲ってきて欠伸が出そうになった。


「…よし、到着!みにばうくん、今日からここがキミのお家だよ」

「ばう!…"ホーム、トウロクカンリョウ"」

「まって喋るのキミ??」


ピロン、という電子音に続いて聞こえた片言な少年っぽい声に思わず首を回し、まじまじとみにばうくんを見つめる。

しかし何事もなかったかのように首をかしげられ、何とも言えない気持ちのままによしよしと撫でておいた。

あわよくば会話が出来るのかもと期待したけれど、残念ながらそういう雰囲気ではなさそうである。ちぇー。


やや肩を落としながらもじわっとにじり寄る眠気が堪えきれず欠伸となって溢れ、さっさと部屋に入って休もうとドアノブに手を伸ばした。


「…グルルルルル!!」

「え?」


…瞬間、みにばうくんの空気がガラリと変わる。

明らかな警戒。

低いうなり声はいかにも猛獣を連想させ、体毛があったなら全て逆立てていただろう。そのくらいにピリッとした気配が滲んでいる。


何事だろうか。どうして扉に威嚇なんて…

それをみにばうくんへ問うより先に扉の向こうでガタンと物音が聞こえ、私は体を固くした。


誰か、いる…?


そりゃ、私の私室云々の前にここは図書室なのだし…利用は自由だ。

けれど主な利用者は当然学生であり、その彼ら彼女らは今ここに来られる状態ではない。

そもそも職員も皆帰ったであろうこんな時間に来る人なんていないと思うんだよね。

なら可能性として…泥棒とか、幽霊??


え、どうしよう。

後者だったら本気で嫌なんだけど。

こんなところで夏の代名詞(怖い話)とか求めてない。まだ泥棒のほうが実体あるだけマシだわ。

緊張と不安で震えそうな唇をきゅっと結ぶ。

しかし、どうすべきかと迷う私などお構いなしに中から軽い、しかし確かな物音が近付いてきて…ついにガチャリとドアノブが回った。


「綴戯さ…」

「ばう!!!!」

「っわぁ!?え、ちょ!?いたたたたた!!!」

「え?…え!?」


開いた扉の隙間からひょこりと顔を覗かせた人物にも驚いたけど、猛犬の如くその人物に襲いかかったみにばうくんにも驚いて目を見開く。

あらまぁみにばうくんってば、立派な番犬になって…じゃなくて!!


「みにばうくんストップ!ストップストーーップ!!大丈夫だから戻っておいで!」

「ばう?…くぅーん」


声をかけるやいなや跳ね返ったボールのようにぴょーんと戻ってきたみにばうくんを辛うじて受け止め、噛まれたのだろう腕を今一つサイズの合っていない病衣の上からさする人物へ声をかける。


「大丈夫?門倉くん」

「はぁい、大丈夫ですよぉ」


のんびりと私に顔を向け、へにゃりと笑って見せたその人は…間違いなく門倉くんであった。


図書室に入った私はすぐに彼を近くの椅子に座らせ、プライベートスペースから救急箱(四恩さんセレクション)を持ち出す。

腕を見せてもらうと、どうやら傷になるほど深くは噛まれていないようだった。

アザにはなってしまっていたので湿布薬だけは貼ったけれど…これより合宿の傷痕の方が余程目立っているくらいだ。

門倉くん本人もこのくらいなら気にしないと笑いながら、ショボくれたみにばうくんを撫でて許してくれた。


大事にならなくて良かったと胸を撫で下ろしつつ冷蔵庫から麦茶を取り出し、氷と共にグラスへ注いだそれを彼の前にコトリと置く。


「本当にごめんね。たぶん、私が不安がっちゃったから…」

「いえいえぇ。無断で来てた僕も悪いですからぁ。こんな時間の来客なんて警戒して当たり前ですよぅ。むしろ綴戯さんに人並みの警戒心があったことに安心しましたぁ」

「そ、そっか…はは…」


相変わらず言うなぁ、この子。


「それにしても、この小さいバウワウくんって確かぁ…」

「うん、合宿で怪異に捕まってたところをキミ達に助けてもらった子だよ」

「へぇ、ちょぉっと前まで一ツ星ごときに遊ばれてたのに…逞しくなったねぇ、みにくん」

「ばばう!」


得意気に鳴いたみにばうくんは、このこのーと門倉くんにつつかれてくすぐったそうに身をよじった。


二人が戯れる様子に笑みをこぼしつつ、机の向かい側に腰を落ち着けた私は彼を観察する。

顔などの見えるところからはすっかり傷痕が消え、切られた片腕もしっかりとくっついたようで元通りに動いている。腕がそのまま綺麗に現場に残っていて良かったよ。


それにしたって能力者の技術力って凄い。いくら綺麗な状態とはいえ、体から離れて時間がたったものを機能も損なわずに元通りくっつけるなんて…並大抵の事じゃない。

いや、この場合凄いのは四葉さんの能力かな。

切断面の生命力、再生力を活性化させることが出来る彼の能力があったからこそ門倉くんは五体満足の体に戻れたのだから。


とまれかくまれ、彼が元気そうで安心した。

麦茶に浮かんだ自分のホッとしたような顔を誤魔化すように喉を潤し、気持ちを切り替える。


「それで、門倉くん。どうしてここに?病衣を見た感じ、まだ四恩さんから軟き…っこほん、安静にって言われてるんだよね?」


二菜ちゃんや至くんでさえ外出禁止らしいのだから、腕一本失くした上に絶賛入院中な門倉くんが病室を出るなんて許されているはずがない。

黒い笑顔でNOのプラカードを掲げる四恩さんが見えるぞ。

そもそも、外出が許可されていてもこの時間の出歩きは駄目でしょ。


「大丈夫ですよぉ。バレる前にこっそり『転移』で帰りまぁす」


抜かりないとにんまり笑う彼に頬がひくついた。ず、ズルい…しかも能力の無駄遣い。

まぁ、本人が大丈夫なら良いけど。


「僕、早く挨拶をしておきたかったんですよぅ」

「挨拶…?」

「あれぇ?一ノ世さんから聞いてないですかぁ?」


一ノ世と聞いてすんっと表情を消し、首を横に振る。

アイツが報・連・相をちゃんとしてきたことがあるか?いや、ない。おそらく今後も期待できない。

つまるところ、門倉くんが私に何の挨拶をするのかもその理由も見当がつかなかった。


「ではぁ、改めまして…」


私の表情で察してくれたらしい彼は苦笑を湛えながらも椅子から立ち上がり、常変わらぬ猫背のままのそりとすぐ隣まで歩み寄る。


そして…唐突にその場で跪いたではないか。

片膝を立てる形のそれはまるで、舞台の一幕のように。物語の一片のように。


「…"元"学園高等部二年門倉合歓。本日付けで正式に綴戯栞里様専属の『転移』として配属させていただくことを、ここに誓言致します」

「…え?」


いつもののんびりしな口調を廃したテノールが他人行儀に音を連ねていく。

目の前にいる人物を一瞬にして見失ったような恐ろしさを飲み込んで、下げられた頭の旋毛を非難を込めて睨み付けた。


「…どういうこと?」


不機嫌をありありと表した声を拾った門倉くんはクスクスと笑いながら姿勢を戻す。


「いきなりすみませぇん。ちゃんと説明しますよぉ」


あの一瞬部屋に満ちた神聖さはすぐに本達の隙間に消え、困ったような顔で頬をかく門倉くんはすっかりいつもの彼に戻っていた。

それを感じ取った私は、そっと緊張を息に溶かして吐き出す。初めて見た彼の様子に本気で驚いたのだ。


「実はぁ…僕、学園を辞めることになりましてぇ」

「ちょっ、ちょっとまって!?え、やめ…辞めるって…」

「はぁい。中退ってやつでぇす」


てへへと笑う彼は何とも緊張感が無いが、こちとら突然のとんでもないカミングアウトに大混乱である。

中退…ってそんな軽い調子で言うものじゃないよね??


でも、私がわぁわぁ騒いでいては話が進まない。

色々と飛び出してしまいそうな言葉達をぐっと押し込めて、一つだけを尋ねるに留めた。


「…大丈夫、なの?」

「んふふっ、はぁい。元々『転移』は訓練とか重視されませんしぃ、基礎教養は自習で補えますからぁ。だから、僕に不都合はありませんよぉ」

「…そっか。なら、良かった」


私のあの質問で何が聞きたいのかを正確に拾って答えてくれた彼に、知らず入っていた力を抜く。

能力者にとって中退がどう将来に影響するのか分からないけれど、門倉くんが生きにくくならないのなら…私は何も言わず彼の選んだ道を肯定しよう。びっくりはしたけどね。


「…心配、してくれたんですよねぇ。ありがとうございまぁす」

「そりゃ、ね。当然。…えっと、理由は…聞いてもいいのかな」

「…"ここ"には思い出が多すぎまぁす。それが苦しくて…ダメだなぁ、と」


酷く寂しそうに呟かれた言葉に、そりゃそうだろうと軽率な質問をした自分を恥じた。


二菜ちゃん達に聞いた話だけど、マオちゃん・瀬切くん・門倉くんの三人は入学してすぐの頃からずっと一緒…所謂スリーマンセルだったらしい。

それがあの日、いきなり壊されたのだ。

大切な二人を目の前で失って、突然一人になってしまった彼が…辛くないはずがない。


まだ門倉くんの心は思い出を懐かしめるような状態ではなく、むしろ今の彼にとって思い出は…失ったものを突きつけられる痛みしか生まないのだろう。


「でも、門倉くん。学園を辞める理由は分かったけど…私の専属って?」

「えっとぉ『楽園(ここ)』で暮らす以上どこかへの所属は必須なんですよぉ。働かざる者住むべからずってやつでぇす」

「え、そうなの?私何もしてないけど…」

「司書は立派な仕事ですよぅ」


確かに管理はしてるかもだけど、こんなぬくぬくしたものを仕事だと言ったら全国津々浦々のサラリーマンに袋叩きにされそう…


「それで、学園を辞めるつもりなら本部で働くよう言われたんですけどぉ…絶対忙しいじゃないですかぁ。そんなの嫌なんでぇす」


にぱっと笑ってそう言った彼に、思わずつられてこちらも笑みを溢してしまった。

だって、理由が門倉くんらしいというか何というか。

…まぁ、何となくそれだけじゃない気もするけどね。


「だからお断りしたんですけどぉ、そうしたら後は誰かの専属になるしかないって言われたんですよぉ。その時僕…」


門倉くんはそこで一度口を閉じ、まっすぐに私を見つめながら眩しそうに目を細めた。


「綴戯さんが、浮かんだんです」


渇望の色と、冀求の声。


「私…?」

「はぁい」


ただの一文に込められた強烈な感情は、心から彼に求められたのだと自惚れではなく理解させられた。


「だから綴戯さんの専属にってお願いしたらぁ、なんとなんとオッケーしてもらえたんですよぉ!」


そうして門倉くんは私の専属になりました。めでたしめでたし…じゃないんだよなぁ。

私本人の意志が完全に置き去りにされてるんだけど…


そりゃ、嫌とは言わないよ。言わないけどね?

引く手あまただろう『転移』の能力者をこんな引きこもりな私に付けるだなんて…おかしいじゃないか。

豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏、犬に論語、兎に祭文…いや、別に価値が分かってない訳じゃないけれど、つまるところ私に『転移()』を与えるのは無駄であるのは分かりきっている。

なのに、許された。その理由が分からない。


猜疑が顔に出たのかはたまた感じ取ったのか、門倉くんはまた困ったように眉を下げる。


「…ねぇ、綴戯さん。これは…僕の為なんですよ」

「門倉くんの為…?」

「はい。僕の…我が儘なんです」


不安を滲ませたピーコックグリーンの瞳の中に乞うような…すがるような光を宿して、彼は一歩距離を詰めた。


「あなたを選ぶにあたって、一ノ世さんから色々聞きましたぁ。あなたのいた世界のことも、熊ちゃん先輩達に怯えを見せる理由も、その身に背負った…体質異常のことも」

「…あ…そっ、そう、なんだ…」


唐突な告白に目が泳ぐ。知られてしまった恐怖と隠し事をしていたという後ろめたさが喉を締めた。


一ノ世を恨みたいが、当然といえば当然の流れだったのだろう。

私の専属と言うからには必然的に近いところに彼を置くことになる。

特に外出に関わる能力であることを考えると…私の体質、不老不死を知っておいてもらわないと混乱を招くのだ。

如何せん私はトラブルに巻き込まれがちだからね…嬉しくないけど。


想定したくはないが、たとえば外出先で私の腹に風穴が開いたり首が飛んだり…とりあえず死に至るような事態に陥ったとする。

さて、ここでクエスチョン。運悪くそれを目撃したり、そうでなくても迎えに来た彼が死からケロッと復活した私を見たらどう思うか。

…うん。そういうことだよ。


おそらく他の事情あれこれそれは話のついでとして伝えられたのだろう。

信じる信じないの問答など私が"記録者"であるという前提の時点で無意味であり、つまり彼は正しく私という異物を知ってしまったということ。


どう、思われたんだろう。


不安になって握った手を、一回り以上大きな手が優しく包み込む。

驚いた拍子に下げていた視線を上げれば、何故か嬉しそうな顔をした門倉くんと目が合った。


「それを聞いてぇ、僕は凄ぅく安心したんでぇす。やっぱり専属になるなら綴戯さんしかいないって思いましたぁ」

「…はい?」


怪訝な顔をした自覚がある。

だって、異質な私に安心を覚えるって…どういうこと?


私の様子に構うことなく、彼は私の手を閉じ込めた手を更に大切そうに…逃がさないようにと握って己の胸元へ持っていった。

そして、瞳に影を落とした彼はその思いの答えを転がしたのだ。


「あなたは、僕を置いていかない」

「…っ!」


その一言で、門倉くんの負った傷の深さを再度思い知る。

"世界"でこそなかったのだろうけれど、彼にとってマオちゃんと瀬切くんは心の大半を占める存在だったに違いない。


それが失われた今、失う経験をしてしまった今…彼は残った心を守る為に私という"失われる事がない存在(不老不死)"を選んだんだ。

喪失の痛みをこれ以上味わわなくて済むように。


そういう理由なら…

彼が彼の為に私の不死にすがったというのなら…


「いいよ」

「…え?」

「門倉くんの傷が癒えるまで、キミに本物の"世界"が出来るまで…私を理由にしていい」

「…あはぁ。僕、結構最低なこと言ってるんですよぉ?そんなあっさりで良いんですかぁ?」


最低、ね。

私がこちらの世界で生きるための理由に比べたら、よっぽど綺麗で可愛いと思うけどな。


言葉にはせず乾いた笑みだけに留め、求めたくせに心苦しそうな顔をする門倉くんを抱き締めた。

悪夢から抜け出せない迷子の大きな体は抵抗もなく収まり、私は指先を伸ばしてアッシュグレーの髪をそっと鋤く。

子供達とふれあった感覚が残っているからか、手つきが幼子にするようなものになってしまうのは許してほしい。


門倉くんはされるがまま。

私の首元に体を折って顔を埋め、離さないでくれとすがるように私の服をしわくちゃにする勢いで握りしめた。

私もされるがまま。

その意味を彼は正しく理解しただろう。


「…良いんですかぁ?許して、くれるんですかぁ?」

「そう言ってる。私の"死ねない"が役に立てるなんて、むしろ光栄なことだよ」


彼はゆっくり体を起こすと一度眩しそうに目を細め、もう一度床に膝をつく。

しかし今度は頭を垂れることなく、私の顔を見上げたままに真面目な声を出した。


「僕はあなたの望むまま、どこへだってお連れしてみせます。善も悪もなく、ただあなたの味方であり続けます。だから…僕に、利用されて下さい」

「あ、はは…重いなぁ」


相互利益が成り立つにしてもあちらからのベクトル、重量おかしくない??


メンヘラやら病みやら友人から履修した物騒な言葉が過るのを振り払い、私は門倉くんへ手をさしのべる。

彼が抱く感情の重さは置いとくとして、『転移』というチート級の移動手段()が手札に加わるというのは絶対に今後の助けになるだろう。

何かあった時足踏みをしなくて済む、自分で動けるというのは間違いなくメリットだ。

だから…


「契約成立。…なんてね」


利用されてあげるから、利用させて。


差し出した手を見る門倉くんは喜びと安堵で表情を溶かし、頬を紅潮させた。

これで彼の心も守れるのなら私にとっては良いことずくめである。


誓いはいらない。忠義もいらない。

だから私は差し出した手をすくい取ろうとした彼の手を逆に掴んで立ち上がらせ、握手の形に無理やり変えてやった。

目を丸くして繋がれた手と私を交互に見つめる門倉くんにしてやったりとにんまりすれば、彼はたまらないといった様子で吹き出してケラケラ笑う。


「あはははは!綴戯さんはぁ、やっぱり最っ高ですねぇ」

「あいにく年下を侍らす趣味はないからね」


あぁ、良かった。ようやくちゃんと笑ってくれたね。


「ばうばう!」


場が和んだのを見越してか、空気を読んで大人しくソファーに転がっていたみにばうくんがぴょんとテーブルに飛び乗った。

そわそわと私と門倉くんを交互に見る健気な姿をヒラリと手で示す。


「じゃあ改めてご紹介!こちら私の専属第一号で癒し担当のみにばうくんです!」

「ばーう!」


みにばうくんは短い手足をピンと伸ばし傲然と構えた。


「うわぁ、威張ってるぅ…じゃあ、みに先輩?よろしくぅ」

「ばばうば!」


先輩と呼ばれたのが気に入ったのだろう。

それはそれは嬉しそうに跳ね、門倉くんに飛び付く様はまるで子供のようだった。


私達は揃って笑い転げ、賑やかになった図書室はいつかの明るさを取り戻したみたいだ。

きゃっきゃと戯れる門倉くんとみにばうくんを視界に収めながら、私は溢れ出す感情を噛み締める。


失ったものは沢山あった。

けれどここに、取り戻せたものがある。

そして、孤児院で失いたくないものを新しく見つけた。


だからもう、立ち止まるのはやめにしよう。

大切なものを抱き締めて、もう溢すことがないようにこの先を進んでいこう。

そのための力を、今日という日だけで沢山もらったから。


私は綴戯栞里。誰かの『ソノヒ』を打ち砕き、"アイツら"を嘲笑うためにここで生きると決めた"復讐者"だ。


「…よし!明日…いや、もう今日?とにかく、頑張るぞー!」

「ばうー!」

「わぁ、急にどうしたんですかぁ」

「ちょっと気合い入れたくなった」

「成る程ぉ。便乗したいところですけどぉ、僕はまだ安静にしてなきゃなのでぇ…東雲両先生からオッケーもらってから頑張りまぁす」


汗をかいたグラスのなかで、まるで私達を応援するようにカランと氷が涼やかな音をたてた。



余談だが、翌朝どこから情報が漏れたのか"広域記録"を使ったことが四恩さんにバレ、しこたま怒られることとなる。


「僕達の目があるところで、という約束だったよね? どうして破ったのかな?」

「いや、あの…子供達の為で…み、三神もいましたし…ですね」

「三神くん?彼からは君が一人で勝手にと聞いたんだけど…」

「あ、あいつーーーー!!!!」


一緒に怒られてくれと頼んだのに、あっさり裏切りやがった!!


後に抗議したらしれっとした顔で"だってyesなんて言ってませんし"と言われた私の心境を述べよ。


やっぱ、アイツもキライ!!!!



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