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13-3


一ノ世side


「ほーん?じゃあさ、メイリーのとこが皆捕まえたワケね。あー…ハイハイ、書類、書類ねぇ…それさ、俺がやる必要ある?…はー…面倒くさ。気が向いたらね」


わぁわぁと何か叫んでる部下との会話に興味を無くし、プツッと通話を切て息を吐く。

うーん、メイリーのアジト制圧と残党狩りが終わったって聞いて、ようやく俺も一安心ってとこかな。

まぁ別に心配してなかったけどさ。だってメイリーだし。


それにしても…まったく、今日はひっどい一日だったよね。

ただ慌ただしいってだけなら退屈しなくていいんだけどさ…面倒ではあるけど。


でもまさか、こっちがアジト襲撃を企てたのと同時に向こうもアクションを起こす…つまり、合宿の襲撃をしてくるなんて思わないでしょ。どんなタイミングだよ。


アジトへの乗り込み準備でバタバタしていたおかげでさ、合宿の方の異変に気付くのが遅れたんだよね。ホント最悪。

まぁ、元はと云えば中等部の日課報告を担当してたバカが三年共の朝報告が来てないって一大事を見逃しやがったせいなんだけど。


アジト制圧のサポートを追加で頼まれたからって、元の仕事の方を手ぇ抜きやがったんだわ。はー…うっざ。やってくれたよね、本当。

ま、お仕置きがてら潰しといたけどさ。


あーあ、何で最近こうも予想外な事ばっかなんだろ。

俺、持ってる?いや、何か憑いてんのか?

はー…面倒くさ。仕事が増える一方なんだけど。


つーかさ、アジト制圧でメイリーが暴れた分の処理まで回ってくるとか意味分かんないでしょ。本土側のってか、丸々メイリーんとこの仕事だろ。


一度手を出したなら最後まで手伝えってのがあっちの言い分らしく、合宿で…俺の管轄でトップ(ハロなんとか)を捕まえたから巻き添え食らったってわけ。

絶対進言したのメイリーだろ。


憂さ晴らししようにも、捕まえた能力者はみーんなメイリーんとこと"秩序の番人(カルケル)"共がそそくさと持って行っちゃってさ。ひっどいよね。


とにかく疲れた。疲れた…けど。


何故か俺の足は目を閉じてても辿り着けるくらいに通い慣れた本部の自室じゃなくて、誘われるように学園の方へ向いていた。


用なんて無い。ひじりんも七尾センパイももう帰ってるだろうし、四恩サンと四葉サンも病院の方で怪我人を看てるだろう。

ただホントにさ、何となくってやつ。


そんな軽い気持ちで高等部の校舎に足を踏み入れて、でも校内に入った瞬間にやっぱ来なきゃ良かったと後悔した。


人気の無いだだっ広い昇降口。そこに並んだ下駄箱には、もうたったの二足しか上履きがない。

あー何て言うかさ、夏のクセしてここは…風通しが良くなりすぎて、寒いわ。


この寒々しい光景を俺はよく知っている。

夜だから、が理由じゃない閑散とした校舎ってヤツをさ…俺達はよぅく覚えてんの。

いや、忘れらんないって言った方が良いのかな。


俺らの学年ってのはまぁ問題児ってことで当時から有名ではあったんだけどさ、俺らと周りの学年ひっくるめたひっどい呼ばれ方があるんだわ。"最悪の世代"ってね。


はー…うっざ。よくもまぁ失礼な文字をストレートにはめてくれたものだよね。俺らの問題児ってのもそのままズバリだけどさ。

言い方のせいで誤解されがちだけど、この"最悪"ってのは中身…つまり俺ら学生の素行だとか性質の事じゃなかった。


それが示すのは、一番酷い…"最悪の扱いを受けた"世代って意味なんだわ。

『楽園』の杜撰なシステムの皺寄せを一番に食らい、とにかく死亡者の数が多いのが俺らの世代さ。

言ってしまえば被害者ってやつだったワケ。


元々昔は今程索敵とかもちゃんとしてなくてさ、予定よりも強い怪異、弱い怪異、多い怪異、少ない怪異、むしろ怪異ですらなく敵対組織…とまぁバリエーション豊かに誤差ってるのが当たり前だった。


それでも運良くって言っていいのか、目に余る程の被害ってのは無かったらしいよ?

とはいえ能力者は今よりじゃぶじゃぶ血ぃ流してたワケだけど。

マジで昔の死亡リスト見たら引くから。


けど、その危うい幸運は俺らが高等二年から三年に上がるまでの約一年で完全に崩れ去った。

能力者が後生に伝えなければと思うレベルのヤバさって言ったら伝わるだろうか。


思い出したくもないから仔細は省くけど、そうだな…例えば…


校外学習、死亡者八名。

ただの街散策の筈が事前の調査不足で四ツ星が三体出現。担任もろとも一学年壊滅。


二ツ星討伐任務、死亡者三名。

索敵が怪異しか見ておらず、待ち伏せしていた敵対組織の能力者を見落とした結果三名死亡。


三ツ星討伐任務、死亡者十名と廃人一名。

索敵の判断ミスにより五ツ星が出現。周辺一帯が壊滅し、退避しきれなかった六名と近くで別任務に当たっていた四名が死亡。一名は緊急帰還したものの、壊滅した地域に"世界"があった為『廃人』化。


こんなのはほんの一部。他にも色々あってさ、最後は死んでく仲間に耐えきれなくて『楽園』に反旗を翻した同期がクーデターを起こした。そいつは…世ノ守に殺されたよ。


とにかく、語り切れないくらいの悲劇が重なりに重なって…俺らが高等三年に上がる頃には後輩は十三束以外中等部含めて全滅。

俺らも九人残ってたのが四人まで減った。

まぁ、俺らの卒業後暫くしてから中等部にそこそこ編入があったらしいけどさ。

たぶん、あまりにも人が減りすぎて焦ったお上が必死に本土中探し回ったんだろうね。

それでも、高等部は閑散としたままだったよ。


だからさ、今こうして広がってる光景はそんな俺らの在校時代を思い出させてくんの。

はー…うっざ。気分悪くなってきた。


もうこんな光景作りたくなくて管理者(ココ)に籍おいたクセにさ、俺ってば情けない。

あー…ヤダヤダ。何で疲れてんのに気分まで下げてんだか。早く休も。


~…♪~♪…

「…ん?」


そう思って踵を返した俺の耳に、ふと聞きなれた旋律が聞こえてきた。

何?こんな真夜中の学校で歌とかさ…オバケとか?


あ、あれかな…本土の学校には常設されてるらしい七不思議ってやつ。

俺、在学中にそーゆうの探してひじりん達と真夜中探索とかしたけどさ、結局は勘づいて見回りに来た担任くらいしか出てこなかったんだよね…


歌に耳を澄ませているうちにふと忘れていた事に気付く。

そういやここ、今はがらんどうじゃないんだった。


「…アイツか」


幽霊や七不思議じゃない落胆はあったけどさ、何故かそれを上回るくらい気分が良くなったわ。

沈んでた気持ち?んなもんどっかに捨てたし。

俺は声を辿るようにして再び校舎へ足を向けた。


階段を上がっていく。耳に届く歌声を邪魔したくなくて、極力足音は消しながら。

シンとした校舎の中には優しい声が溶け込むように漂っていた。

いっつも俺にはきゃんきゃん怒鳴ってくるクセにさ、一人だとこんなにキレイな声出すとか生意気だよね。


階段からカツンと目的の部屋に続く廊下に足を踏み入れれば、そいつは室内ではなく図書室前の廊下にいた。

窓を開け、そのヘリに組んだ腕を乗せながら小さく歌を紡いでいる。


「栞里」

「……え…?」


声を掛ければピタリと歌は止み、俺に驚いたのか藤色の瞳を真ん丸に開いて…思わず笑った。

だってさ、すっごい間抜け面なんだもん。

んで、みるみるうちに歪んでうげって顔になんの。面白すぎでしょ。


「やっほー。なーにやってんのさ、こんな夜中に」

「いやこっちの台詞でしょ。そっくりそのまま返すけど…」


恥ずかしいのかばつが悪いのか…いつもより勢いの無い返しをした栞里は、何もない廊下にうろっと視線を彷徨わせた。


俺はそんな栞里の隣…は逃げられそうだったから、窓一枚分開けた場所で外を背にして窓枠にもたれ掛かる。はー…俺ってば気遣いできる良い子。

案の定栞里は嫌そうな顔をしたものの、逃げたり文句を言ったりはしなかった。…それはそれで面白くないんだけどさ。

いい加減慣れてくれても良くない?七尾センパイとか四恩サンだけ狡いじゃん。


周りでキシキシと音が聞こえてきて、あー能力漏れてんなと他人事みたいに思っていると、栞里がため息混じりに口を開いた。

怯えが見えるクセに、それを必死に取り繕いながら。


「何に苛ついてるのか知らないけど、窓割らないでよね」

「はー…うっざ。別に良いじゃん。涼しくなるだけでしょ」

「虫が入る」

「えー?栞里ってさ、ゴキブリとか素手で捕まえそうだし大丈夫じゃね?」

「はぁ!?何その偏見!?無理に決まってんでしょ!!」


ギャン!と吠えるように噛みついた栞里についつい笑みが漏れる。

いつも通りのやり取りで何となく満たされた気がして、仕方ないから漏れ出ていた能力をコントロールして引っ込めてやった。

あはっ、栞里ってばあからさまにホッとした顔したね。単純。


「…で、一ノ世は何しに来たわけ?」

「べっつにー。気分転換がてら散歩。栞里は?」

「え!?あー…それは…」

めっちゃ目を泳がせながら言葉を濁す栞里はどうやら、何をしていたのか隠したいらしい。

けど残念でしたー知ってまーす!

歌を歌ってたんだよねー?こんな夜更けに一人でさ。はー…ヤダヤダ寂しい子。

ってかさ、声掛ける直前まで歌ってたクセに無駄な足掻きだよね。


「…何、そのニヤケ顔…気持ち悪い。こっち見るな」

「ぶはっ!!ストレートにひっどいね!」

ホント、俺にそんな口きくの栞里くらいだわ。

ひじりん達も同期の気軽さで結構言うけどさ、アイツらでさえ少しは言葉選ぶよ?少しは。


キレッキレの遠慮ない物言いにひとしきり笑って、その後に来るだろう静けさが嫌ですぐに声をかけた。


「その歌さ、知ってるんだ?」

「げ、やっぱ聞かれてた…」


分かりやすく嫌な顔をした栞里から視線を逸らし、くるっと体の向きを変えて窓を開ける。そして、栞里と同じように窓のヘリに肘を置いて星月夜に目を向けた。

横目に見える栞里は変な顔を引っ込めた…かと思えば、ひどく寂しそうな顔になって同じように夜空を見上げる。


「…"あっち"のお前…"一ノ世久夜"がね、能力者が、仲間が死ぬ度に歌ってたんだよ。…嫌でも、覚えた。何度も"記録"した」

「…そ」


そーゆー話聞くとさ、やっぱ"俺"なんだなって改めて思うわ。だって、すっげー俺らしい行動じゃん。

根っこの部分ってのはイカれてても変わらないもんなんだろうね。


にしても…


「覚えたってわりには…へったくそ!!」

「な…!?」


耐えきれずに吹き出しながら指摘してやれば、月明かりだけの中でも分かるくらいに顔に朱をそそいでぱくぱくと口を動かしている。

あっはははは!金魚!つーか声も出ない程ショックだったわけ?かっわいー!


「栞里ってさ、音痴なの?」

「う、うっさい!ちゃんと音はとれるわい!じじ、実際に歌ってみたのは初めてだったんだから仕方ないでしょ!?誰かが来るなんて、思わなかったし…しかも、よりによってお前に聞かれるとか…っあー!はっず!はっっず!!」

「やっば!めっちゃ真っ赤じゃん!はー…愉快愉快!」

「愉快じゃない…っ!!」


ふいっとそっぽ向くのはいいけどさ、栞里の真っ赤な耳が丸見えだから全然誤魔化せてないよ。


少しの間自分を落ち着かせようと頑張ってる栞里を笑いながら眺めていると、さらさらした漆黒のカーテンの隙間からジトリと睨む藤色が見えた。

そして、それが僅かに迷うように揺れたのを見て笑みを落ち着ける。


何?何か言いたいことでもあんの?今なら気分良いし、聞いてやるよ?

わざらとらしく首を傾げて促してやると、栞里は何度か口をモゴモゴさせた後、少しの真剣さと羞恥を帯びた目をして乞うように呟いた。


「じゃ、じゃあ、さ…お手本を…一緒に歌ってよ。…どうせ、後で歌うんでしょ」


虚を突かれるとは、まさにこの事か。

たぶん俺は最初に声をかけたときの栞里のように、ひどく間抜けな顔をしているに違いない。


歌。それは、始祖の能力者が伝えたとか言われてる鎮魂歌(レクイエム)だ。

別に歌の起こりとか背景とかはどうでも良いから詳しくないけどさ。


栞里が言った通り、俺は一人になった時にでも歌うつもりだった。

"あっち"の俺と同じで…って言うのもおかしいけど、俺は誰か仲間が欠ける度に必ずその歌を一人歌っている。

まぁ、いわゆるクセみたいなもんだ。


それを間接的に察しているだろう彼女が一緒に歌おうと、そう言ってくれた意味を考えて…言い表せない感情が胸に込み上げてくるのを必死で抑えた。


「…いいよ」


暴れる感情で震えそうな声をやっとの思いで絞り出し、誤魔化すように視線をさっさと空に投げる。

それから、そっと息を吸い込んで…


「…♪~~♪~…」


滑り落ちる音には、もう慣れた。それはもう意識しなくても次の音が出るくらいには。

でもさ、溢れ落ちてく仲間の命には…いつまでも慣れない。

何度も何度も何度も…レコードやテープなら擦りきれてるくらい繰り返すこの歌は、いつしか死者への弔いと同時に自分への戒めになっていて…正直苦しささえ感じていた。


なら止めれば良いと思うじゃん?俺の性格的にさ。

でも、何でだろうね。どうにも止められないんだよねこれが。はー…ヤダヤダ。


でも…今日は違う。


「…♪、♪~…」


本土の街で見かけた親の後を必死で追いかける子供みたいに、俺の音とはぐれないように…見失わないように寄り添う音がある。

その意地らしさが心地よくてさ、我ながららしくないと思いつつ栞里が歌いやすいよう一音一音丁寧に奏でてやった。


一人にならないように。

一人にしないように。

それは果たして、どっちがどっちの気持ちだったんだろうか。


この鎮魂歌は特に調が変わったりするわけでもなく、同じ音の並びを使い回すシンプルな歌だ。

一番さえ覚えれば後は詞が違うだけ。

だから栞里もすぐに慣れたらしく、やがてその音が隣に並んだ。

なんだ、ホントに音痴じゃないのか。ちぇ。


余裕ができたらしい栞里は次第に音に色を乗せていく。

弔いの中に混じるのは深い悲しみと、身を裂くような懺悔と、溢れんばかりの…感謝、かな。いや、それよりもっと暖かい…


「…っ…」


彼女の横顔をチラリと見て目を見張った。

だってさ、ビックリするでしょ。

さっきまで犬みたいにきゃんきゃん吠えていたクセに…泣いてんだもん。


拭うつもりもないのか、夜空を向いたままの瞳からポロポロと透明の雫を落としていく。

…変なの。何で俺、綺麗だなんて思ってんだろ。星が落ちてるみたいだ。

良くできた綺麗事みたいにさ、その雫一滴で死者だって生き返りそうな…なんて、自分で言ってて気持ち悪いけど…でも、そう思うくらい神秘的に見えたってコト。


…本当にさ、生き返ってくれれば良いのにね。


そうすりゃ栞里の…この痛々しいくらい悲しい音も、 苦しそうな涙も無くせんのに。

はー…うっざ。勘弁してよ。

俺じゃあさ、涙を拭うことも出来ないんだけど。


何でお前ら死んでんだよ。何でどいつもこいつも…大事にしようって思ってんのに溢れ落ちてくんだよ。俺を、おいてくんだよ。


…"おいてく"、か。あぁ、そっか。

栞里の歌が俺に寄り添えんのは…同じ思いをしてきたからか。

君もおいていかれたんだっけ。他でもない、"俺達"に。


「「~♪…♪~♪~…」」


今考えたら、凄いわ。

だって俺と栞里の音なんてさ、普通に生きてたら絶対に溶け合わなかったものだろ?

こういうのを、奇跡って言葉にするのかね。


でも、このあり得ない今が…ありがたい。


同じ悼みを背負って、同じ歌を歌って、一緒に悲しんでくれる奴なんてさ、初めてなんだよね。


いやさ、能力者だって人でなしじゃないし、仲良い奴が死んだらそりゃ悲しむよ?

けど、鎮魂歌で弔意を示すってとこまでは…ね。

葬式すらしない文化だからさ。

そもそも、皆この歌知らないらしいんだわ。

かといって俺もわざわざ教えるとか面倒くさいし。


だから、初めて。

…悪くないって思うのは、タイミング的に不謹慎ってヤツかな。

まぁそんなの別に気にしないけど。


なぁ、君らさ…(ソコ)から見えてる?

君らの死を本気で悲しんで、"世界"でもない君らの為にバカみたいに泣いてる奴がいんの。

それって…どんな気分なんだろうな。


はー…ヤダヤダ。

栞里が本気で歌うもんだから、俺まで力入っちゃうじゃん。ガラじゃないっての。

でもまぁ…こーゆー時くらい人間らしくっても良いか。

いっっっつもボロクソ言われてるけどさ。


歌が終わるまでのほんの一時の間、俺らは普段の関係を忘れて声と気持ちを寄り添わせながら夜空を見続けた。

やたら光って見える星があったのは偶然か錯覚か…何でも良いけどさ。


ピリリリリリ。ピリリリリリ。


「…」

「…鳴ってるけど」


とりあえず、十三束は潰す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


微妙な空気になりながらもこれ幸いと栞里と別れ、階段を降りていく。

いやさ、ぶっちゃけ歌い終わった後どんな顔すりゃいいのか分かんなかったし…助かったわ。十三束は潰すけど。

何事かと思ったらつまんない業務連絡だったしさ。

はー…うっざ。急に現実に帰ってきちゃったわ。仕事面倒くさ。


そんな事をつらつら考えながら脳内で十三束をぷっちぷち潰していると、何もなった廊下にいきなり気配が現れて身構える。


「こーんばんわ♪」

「うげ」


ぬっと急に目の前に浮かんだ白い仮面には驚いたものの、笑みをかたどる穴の奥を見て誰かを察した俺は一瞬発動しかけた能力を…そのまま使った。


「ぬ"ん"っ!?」

いやだってさ、わざわざ止めるとか面倒くさいし。正当防衛正当防衛。


「ちょちょちょ!!一ノ世久夜クン!!吾が輩!吾が輩だから!!」

「あー…ハイハイ。学長さんドウモー」

「分かって!いるなら!能力を解きたまえよ!!」

「はー…うっざ。そっちが脅かそうとしたのが悪くね?」


渋々能力を解いてやれば、其処許は昔から…とか何とかぎゃあぎゃあ言い始めた不審者、もといこの学園の長。

常に何かしらの仮面を着けてるこの変人は、いつの間にか真っ白いニヤケた仮面から般若の面に変えて…どうやら怒ってますアピールをしているらしい。


毎度思うけどさ、余所でもこのスタイルとか普通にヤバイよね。理由があるから仕方無いとはいえ学長補佐のひじりんかわいそー。

まぁ、こんなんでも俺らの頃からずっと学長してるベテランのおっさんなんだけどね。年齢は知らねぇ。


はー…面倒くさ。最後の最後で厄介なのに捕まったわ。

十三束のせいで一度落ちはしたものの、せっかく良い気分で帰ろうと思ってたのにさ。


「まったく…相変わらず其処許(そこもと)はつれないというか、可愛くないというか…。ちょっとしたジョークじゃないか。もっとユーモラスにいこうとも!」

「何?もう一回潰しとく?」

「それはユーモラスではなくバイオレンス&デンジャラス!ふむ、扱い難さが増したね。其処許は」


いちいち身振り手振りが大きいのは昔からだしクセなんだろうけど、とりあえずわざとらしくて鬱陶しい。

あー…何だっけ、オペラ?ミュージカル?そういう感じ。俺は見たことないけど誰かが言ってた。


「其処許も入学ほやほやの頃はもうちょっとこう、殻を頭に付けた雛鳥的な初々しさが…」

「用がないなら帰るわ」

「あ、待って、待ちたまえ!もー本当に可愛くないんだからこの子。…ちゃんと用はある。足を止めたまえよ」


わざわざ気配だけではなく声にまでピアノ線を張り詰めたような緊張を持たせ、うるさく動いていた体は止まって真っ直ぐこちらへ向いた。


あー…ハイハイ。知り合いのおっさんじゃなくて、"学長"としての話があんのね。

ならとりあえず話を聞いてやるしかないか。

はー…面倒くさ。役職ってヤダヤダ。

仕方なく言われた通りに足を止め、気は進まずとも話を促した。


「何」

「…此度の件、吾が輩の愛する宝を数多く失ったと聞いた。痛ましい…真痛ましい事件であった」

「そう、だね。俺の力不足は認めるし、責めるっていうなら受け入れるよ」

「いや、其処許の活躍は聞いたとも。早期解決に一役かったそうじゃないか。吾が輩としてもこれ以上の被害が出る前に食い止められた事は非常に喜ばしい。…のだがね」


そこで一度言葉を切った学長は、気配一つ悟らせる事無くその場から消えたかのような速さで距離を詰める。

瞬き一つにも満たない間に表情らしい表情の無い白い面が視界に広がり、こちらを威圧するようにくぐもった低音がその奥から響いた。


「早すぎる」


とん、と鎖骨の少し下…心臓のあたりに人差し指を当ててきたソイツは、一つでも答えを間違えれば俺を殺すだろう。

はー…これだからさ、嫌だったんだよね。

そもそもコイツの地雷の上でタップダンスしやがったのは俺じゃないのにさ。

完全にとばっちりじゃん。


「吾が輩は其処許をよぅく知っているとも。だからこそこう考えた」


俺から手をどけて体の後ろで組んだ学長は、カツンとひじりんが高いと話していた靴を鳴らして一本下がる。

それでも向けられた殺気は緩まず、距離が離れたからといっても俺の首に刃が当てられてるような状況なのは変わらないけどさ。


「よもや、あの者を知った上で放置していたのではあるまいな?分かっているだろうが返答次第ではただでは済まさんぞ。もう其処許は吾が輩の宝では無いのだから」

「はー…うっざ。さっきからマジもんの殺気向けてくんなよおっさん。早死にしてぇの?」


ただでさえ昼間のうちに熱された空気がこもってて息苦しいってのに、更に不快指数を上げてくるソイツに舌打ちをする。

はー…ヤダヤダ。面倒くさ。


こりゃきっちり説明しないと引かないな。

となると…栞里の事を一から話さないと、か。

コイツに誤魔化しがきかないのは俺だってよく知ってるからね。

別にさ、隠したかったわけじゃないんだよ?学長は信頼できるし。

ただあんな面倒な状況、説明しなくて良いならしない方が楽じゃん。


「はー…面倒くさ。おっさんさ、図書室の司書にってお願いした奴覚えてる?」

「おっさんはやめたまえよ。ストレートに傷付く。ふむ…其処許が見つけて連れてきたというお嬢さんだね?覚えているとも」


学長は会話の為に俺に向けていた殺気を抑え、そっと窓の外へ顔を向ける。

笑った仮面のクセに、何となく悲しげな感情が見えた。


「先程校庭で一騒動あってね。吾が輩が出る幕は無かったからその場は三神クンにまかせたが…遠目で見かけたよ。とても…とても良い子だね。正直、能力者とは思えない程広く深い」


待って、何それ。俺知らないんだけど。

いや『廃人』化の騒動があったのは知ってたけどさ、栞里もそこにいたの??どんだけ巻き込まれんのアイツ。

つーか、その騒動…世ノ守が出たって聞いたような…。

は?会った?まさか会ってないよな??やばっ、滅茶苦茶気になるんだけど。

ちょっとUターンして聞いてこようかな…


「…其処許の関心が話の途中でフラフラと移ろうのはいつもの事だがね、今は話を続けてくれたまえよ」


チッ、釘刺された。

はー…うっざ。一気に面倒くさくなったわ。

どういう道筋で説明すべきかと考えていた思考を丸っと破棄し、回り道をすること無く核心をぶつけようと口を開く。


「ソイツがここじゃない世界から来たって言ったらさ…信じる?」

「ふむ…?」


顎に拳を当てて首をかしげた学長はいかにも不思議そうで、あぁダメかと思ったのも束の間。


「信じるか、というより…"知っていた"とも」

「は?」


は???今何つったこのおっさん。

知ってる?何で?俺一言たりともコイツには言って無い筈なんだけど。…どっから漏れた?

ひじりん…は無いな。まず女である栞里の事をひじりんに聞くなんて愚行はおかさないだろう。

じゃあ七尾センパイ?うーん…でもなぁ…

あの人は義理堅いっての?恩のある栞里の事をべらべら話す人じゃないと思うんだよね。


「悩んでいるようだがね、吾が輩は誰かから聞いたワケじゃあ無いとも」

「なら、何でさ」

「甘く見ないでくれたまえよ。吾が輩は一応空間に関する能力の持ち主だ。"異なる空間"の気配くらい察せるとも。何より、あの子のソレは…とても濃い」

「ほーん?あっそ」


一気にシラケた。心配した俺がバカみたいじゃん。まぁいいや。手間は省けたし。

わしわしと髪を乱しながら、とりあえず話の為に必要な情報をもう少しだけ付け加えた。


「んじゃ話すけどその前に…栞里は"記録者"だからさ、そこんとこ念頭においといてくれる?」

「話は全て真ということだね。理解したよ」


前置きを済ませ、気は進まないが俺は話し出す。

栞里がここに来た時のこと、その時見せられた『ソノヒ』とやらの"記録"、"あっち"での能力者と栞里の関係、そして…アイツのいた世界の結末。


面倒だと文句を言う本心を押し込め、必要なところを出来る限りかいつまんで話していると、いつの間にか学長の仮面はティアドロップのワンポイントがついた泣き顔のものになっていた。


「そんな…そんなに痛ましい世界が…ぐすっ、其処許ならやりかねない」

「はー…うっざ。失礼過ぎでしょ」

否定はしないけどさ。


「まぁそんな訳で、栞里は元々いた世界の方で今回の主犯である人物について知ってたワケ。仔細は面倒だから省くけどさ、その"記録"のおかげでこっちは辿り着けたんだわ」


まぁムカつくことに、栞里は俺らの仲間だと思ってたらしいけどさ。一般人を害する能力者って事で同類認定。

…アイツからすればその通りだったんだろうけど。

でも、あんなのと仲間とかマジで勘弁してほしいよね。

ひじりんから聞いたけどさ、滅茶苦茶気持ち悪い事言ってたっぽいし。何?俺を気に入ってる?寝言言う前に死ねよって話。


「あー…とにかくさ、学長は栞里に感謝しとくべきだね」

「ふむ、そうだね。"記録"が早期解決の糸口となったというなら、"記録者"たる彼女には勿論最大限の謝礼を…」

「早期解決もだけどさ…改めて考えてみたら実はそれ以前の話なんだよね、コレ」

「…なんだと?」

「あはっ!ちょっと気分ノってきたからさ、少しずつ戻って話したげる」


まず目を付けるべきポイントは被害学生について。

被害にあった学年は二つ。そこには共通点があった。

単純に、居場所が相手にバレていたという点だ。


中等部三年はSNSっての?俺にはよく分かんないけど、全世界の人と繋がれるアプリみたいなので自分達の居場所をさらしていたから。

んで、高等部二年は…おそらく合宿所の変更をしなかったからだ。

前者はまぁ仕方ないわな。他でもない自分達が蒔いた種だ。なら、後者は?


「あのハローとかいう奴さ」

「ハロルド・オルデバロンだよ」

「ほーん?何でもいいわ。そいつさ、どうにも最初に決められてた合宿所を知ってたっぽいんだよね」

「ふむ?しかし、五月雨クンの件で警戒を増した其処許が直前に変更を言い渡したおかげで大事は免れた。そうだろう?」

「あはっ!…そんな単純な話だって本気で思ってんの?」

「いいや。おそらく内通者はいただろうね。それを対処しない限り其処許の策は無意味だったろうよ」


そう。合宿所がバレていたのは十中八九『学園』にいた内通者が情報を流していたから。

もしその内通者がそのままのさばっていたら、いくら俺が場所を弄ったってバレバレだった筈だ。本部ならまだしも、学園の情報はさほど厳しく管理されてるワケじゃないからさ。


「しかし、だ。その内通者も既に其処許が対処済だったのだろう?確か…松ヶ崎と彼専属の"記録者"だったかな」

「そ。んじゃ、ここまで戻ってようやく本題」


まだ口を挟むつもりはないのか先を促した学長を一瞥して、俺はあの時の事を思い出すように視線を宙に投げる。


「その内通者共を見つけられたのって、栞里がいたからなんだわ」

「…何?」


何も知らないまま地獄行きの扉を開けた藤色とそこに突き落とされた馬鹿二人が思い出される。


思えば、凄い偶然の重なり方だ。


声をかけたのは松なんとかの方らしいけど、栞里はソイツと"偶然"接触した。

本人は他の"記録者"について知りたかっただけであり、相手方に不信感を感じて何かしようと考えていたワケじゃない。

不快感はあったみたいだけどさ。

何より、栞里は自分の能力について全然把握していなかった。

だから、アレを"記録"したのも"偶然"。


極めつけは話の流れで俺に質問をしたいと言った栞里が…あれはおそらく十三束への腹いせ半分に横着をしたんだろうね。

"偶然"その"記録"を『開示』したんだ。

そして決定的な証拠を"偶然"俺が見つけた。


「それは…もはや"偶然"と呼ぶことすら恐ろしいとも」

「だよね。俺もさ、あん時はこう繋がるなんて思ってもみなかったよ」

「ちなみに、彼女はこの事を知っているのかね?」

「あはっ!面白い事にさ、栞里は自分の成した事をこれっぽっちも分かってないし気付いてないんだわ。なんならあの二人が捕まったことさえ知らないよ」

「なんと…」

「まぁとにかく、あの時内通者を止められてなかったら…今日並んだ死体はあんなもんじゃ済まなかっただろうさ。はー…俺ってば優秀優秀」


あの日栞里が内通者共と会っていなければ、奴を見つけられないまま…いや、()()()()()()()()()まま放置して合宿所は全て筒抜けだっただろう。


付け加えて言うのなら…あの日栞里が死んでいなければ、俺はアレを見て内通者の存在を知ったとしても放置してたね。

だって、あの断罪は憂さ晴らしだったんだから。

結果合宿で悲劇を招いただろうし、その場合俺は学長に今この場で殺されていた。絶対にね。


栞里のファインプレーはまだ続く。

落とし物は届けるべきなんて一般人らしい思考と俺らにしてみたら不本意な勘違いがあったおかげで、雲隠れしていた厄介者…今回の主犯の正体を暴いた事。

そして何より…アジトの場所すら『開示』して見せた事。


何が恐ろしいってさ、栞里はコレを全部無自覚のまま行ってるんだよね。

情報を開示してきた時点ではハロ…何とかって奴を貶めたかったワケじゃなかったんだ。

落とし物の時なんて完全に善意なんだから可笑しいったらありゃしない。


…ま、最後は盛大にぶちギレたらしいけど。

瞳色反転使える"記録者"なんざ初めて聞いたし、ひじりん達から聞いたその効果が恐ろしすぎて爆笑したわ。


復讐、しっぺ返し、報復、返報…

それは栞里だけが持つ、栞里にしか使いこなせないだろう因果応報の力。

自分の死を糧にするとかさ、だいぶ狂った能力だよね。…あはっ!ホント最高!


「にわかには信じがたい偶然の連なりだが…其処許がそんな面倒な嘘をつく筈もない、か。…んんっ、素晴らしい!あぁ、素晴らしいとも!成る程おかげで吾が輩の宝は守られたのだね!ならばその偶然に感謝しようじゃないか!!いやぁ聞けば聞くほどまるで運命の女神に愛されたような子だとも!」

「あっはははは!!…冗談だろ」


空を飛ぶ前の鳥のように両手を広げながら、テンション高く天井を仰いだ学長に侮蔑を込めて鼻を鳴らす。

アイツが本当に運命の神とやらに愛されてるっていうならさ、どうしてアイツは…あんな世界を生きることになった。


「ふむ…違うのかね?確か彼女は七尾くんや五月雨くんの時もタイミングよく助けたらしいと報告に上がっていたが」

「あー…ハイハイ。それはさ、栞里の介入したタイミング云々以前に半分くらいは俺が原因」

「其処許が?」


授業参観ってヤツに栞里を推薦して送り出したのも、五月雨んとこに本の回収に行かせたのも俺。結果栞里は送り出した先々で厄介事に巻き込まれてさ、その厄介事を必死で打ち払ってたってだけなんだよね。

つーか、合宿も行かせるよう手配したの俺だわ。


どうやらこの話題も学長の興味を引いてしまったらしく、詳しく聞きたがる様子に心底うんざりした。

けどまぁ話してもいいと思える気分だったからさ、ざっくりだけど話してやったよ。それぞれの事件に栞里が巻き込まれるまでの事。

はー…俺ってば親切親切。


「ふむ…成る程。しかし其処許の話を聞くに、実に不思議でならない」

「何?出来すぎだって?」

「いや、それも勿論思うがね…」


学長はにやけた仮面の向こう、()()()()()()目をこちらに真っ直ぐ向けて言葉を続けた。


「まるで其処許とシオリという人物は、互いに協力し合っているみたいじゃないかね」

「…は?」

「吾が輩から見ると、どの事件も其処許達"二人"で解決しているように思えてならないのだとも。一ノ世久夜クンが導き、シオリクンが動く。そんな印象だよ」


俺らが…協力??

いやいやいや、無いでしょ。無い無い。

今の戯れ言を栞里が聞いてたらさ、絶対面白い顔してたよ絶対。

つーか何?何で学長、そんな呆れたような顔して見てくんの?ムカつくんだけど潰していい?


「…まぁいいさ。所詮は吾が輩の一意見に過ぎないからね。…さて!知りたいことも知れたことだし、吾が輩はいい加減戻ろうかね」

「はー…うっざ。さっさとどっか行けば…あ、そうだ。なぁ学長」


呼び掛けた俺の言葉を拾った学長は足を止め、いかにも珍しいと言いたげな雰囲気で振り向いた。

俺は俺で思った以上に低い声が出た事に一瞬戸惑ったけど、まぁいいかと気にしないことにする。そんなことより言っときたい言葉があったからね。


「栞里に何かしたら…許さねぇよ?」


そう告げると学長はピシリと固まり、しかしすぐに体を震わせて笑いだした。


「…っかはは!!いや、失礼!まさか其処許からそんな台詞が聞けるとは…余程気に入っているのかね」

「…別に。ただ、恩ってのが多すぎるだけだし。それに…」

あれは"俺の"だ…なんて言えずに言葉を濁す。

クソ、学長の奴何で花柄の楽しそうな仮面に変えてんだよ気持ち悪いな。


「まぁ言われるまでもないとも。吾が輩とて宝を守られた側だ。それこそ恩があるのだからね」

そう答えるだろうとは思ってたけどさ。一応だよ、一応。


「ところで一ノ世久夜クン。吾が輩からも言いたいことがあるのだがね…」

「は?何?」

「彼女…吾が輩に似ていなかったかね!?」

「寝言は寝ていってくんない?」


似てるもなにも…おっさん、()()()だろうが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


NO side


「あぁ、残念。駒が一つ減ってしまった」


暗い暗い部屋の隅。

どこにでも売っていそうな安物のゴミ箱に、何かのボードゲームにでも付いてきたのだろう人型の駒がカランと投げ捨てられた。


ぼぅ、と青白く光るパソコンの明かりだけが頼りの空間はどこまでも息苦しさを感じさせ、元の広さなど関係なしに狭い箱にでも身を押し込めたようだ。


しかし、部屋の主にとってはそれで十分。


キィキィと耳障りな音が響く。

誰かが…といっても部屋の主以外あり得ないのだが、椅子の背凭れをいたずらに軋ませているらしい。


「"最後"まで残る駒だと思ってたのに…まったく、馬鹿なことをしてくれたものだよ」


無感情な声は機械よりもずっと冷ややかな音を暗闇に落とす。

コツンコツンと机を指で叩く音がそこに加わり、その振動でドリンクに入っていた氷がカランと回った。


「うーん、どうにも上手く進まない。"彼"も"彼女"も堕とせず失敗だったし。今回も…勝手に動いたクセして大して殺せてない。…まぁいい。さて、次はどこをつつこうか。どうすれば崩れてくれる?"彼"も世界も」


パソコンの前にそびえ立ち、異様な雰囲気を放っていた積み木のタワーを誰かの指がつんつんとつつく。

グラグラと揺れるそれに合わせて不気味な笑い声が部屋を満たしていく。


「急がないと。急いで"彼女"に捧げないと…多少の綻びは無視だ。とにかく計画を進めよう。早く、早く早く早く…絶望を、地獄を、終焉を…早く、見せてあげたいんだ」


待っていて、"ーーーー"


最後の言葉にだけこもった感情は、むせ返るほどの甘さと溺れそうな狂気に満ちていた。



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