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10-3


「枕投げしましょう!」


山のような食材を食べつくし…そう言えば、"口殺し(オース・オシーソ)"が入っていたのは三神のソーセージ一本だけだった為他の皆は無事である。あの量の中でピンポイントで引き当てた三神は本当に"大当たり"だったらしい。昼といいお見事だ。


ともあれ、色々あって騒がしかったバーベキューがお開きになったところで二菜ちゃんがいつの間にか持ってきていた枕をしゃりしゃりと鳴らしながら掲げて、冒頭の台詞を口にしたのである。


唇をというか口を『回復』で治療してもらいすっかり元通りな三神含めた大人達はまた何か始まったなと苦笑を溢し、学生達は遊びのお誘いにキラキラと目を煌めかせた。


そんな面々を眺めながら、私は枕投げという単語を頭の中で繰り返す。

何だかんだやったことはないなと思いつつ、そういえばと言葉がこぼれた。

「確か枕投げって公式のルールがあるんだよね」


何気ない呟きのつもりだったがどうやら皆の興味をひいたらしく、二菜ちゃんへ向いていた視線が一斉に私へ向く。

「公式ルール!?そんなものがあるんですかにゃ!?」

「うん。アタックとかディフェンスみたいな役割がちゃんとあって、試合とかもあった筈だよ?」

「ただ投げればいいってだけじゃ無いんすね…」


テレビで見たことあるって程度の記憶を辿りながら付け加えると、皆の視線にチカチカと好奇心の光が宿った。

それは学生達だけではなく…

「枕投げにルール…??一般人の着眼点は独特ですね…」

「私も始めて聞いたな。試合まであるなんて驚きだ」

「えぇ。わたくしも初耳ですよ。面白そうですね。ね?」

七尾さん達にとっても意外だったのか、一歩離れて見ていた彼らも興味津々といった様子で話を聞きたそうにこちらへと混ざる。


まぁ、確かにビックリだよね。

修学旅行とかのノリに任せて適当に部屋で騒ぐだけの遊びと思っていたものに"公式"なんて畏まった単語がつくなんて思わないもの。

私も始めてバラエティで紹介されてるのを見てビックリしたのを覚えている。

見知った芸能人が大人ながら白熱していたのが印象的だったんだ。


「人数問題がありそうですけどそこは先生達にも入ってもらいつつルールを出来る限り採用してガチ勝負なんてしてみたら面白いと思うのですがどうですか」

「はわわわ!!至くん天才だよ!!それ良い!!ね、後輩諸君!」

「「「さんせー!!」」」

「お前らまた勝手に…」

「ほほほ、ナチュラルに巻き込まれましたね。ね?」

わっと盛り上がる学生達にため息をつきながら、けれども七尾さん達は嫌とは言わないあたり前向きに検討するらしい。


「ルールは私がバッチリ覚えてるから教えてあげられるよ」

クスクス笑いながらそう口にすればお願いしますと元気なハーモニーが場に響いた。

任されましたと返しつつ、一度紙に書き出した方が伝わるだろうと思った私は借り物の端末から電子メモパッドを開き、ペンを空へ浮かぶ画面へ走らせていく。


ふと気配がして振り向けば、大人も子供も皆少年のような目をしながらわちゃっと団子になって私の手元を覗き込んでいるではないか。


「後でちゃんと見せるので、お待ち下さい」

苦笑気味にそう伝えると不承不承といった様子で散ってくれた。

もー、せっかちさん達め。

何となく申し訳ないけれど、見られてるとやりづらいんだよね。


「にゃにゃ!そうだ!どうせならアタシ達学生VS先生方ってのはどうですかにゃ!?」

不意にきゅぴーんと目を光らせたマオちゃんがどこか挑戦的な顔をしながら七尾さん、三神、そして四葉さんを下から見上げてにんまり口を歪めて見せる。

蠱惑的に映る彼女の仕草は同性の私がドキッとするくらいに妖美で、悪戯や悪ふざけと分かっていても目線が泳いでしまう心地だった。

ちなみにその"女性らしさ"が三神的にはNGだったらしく、彼は笑顔そのままにマオちゃんからそっと離れる。

まぁ自衛は大事だからね…


「ほほほ、わたくしは構いませんよ。ね?」

「んっふふふ!度胸は褒めてあげますよ」

「ははっ!…望むところだ」

ギシッと軋むように空気が重みを持ってこの空間に寝そべり、学生と大人の間にバチバチと火花が散っている幻が見えた。

両者が本気過ぎて置いてけぼりを食らっている気分であるが、顔をひきつらせながらもペンを運んでいく。


そうして覚えている範囲のルールを一通り書き出した私は一人うーむ、と小さく唸った。

これをどう落とし込んで独自ルールを組めば良いのだろうか。

元々枕投げは最低六人のチームでやるものだから、ポジション系は特にルール通りにすると無理がある。


大将、アタッカー、リベロ、サポート…その四つが枕投げに存在するポジションだけれど、それぞれ一人排出してしまうと実際枕を投げるのはたった二人程度になってしまうのだ。

それではちょっと味気ない。

それに、とある枕投げの醍醐味たるルールの仕様も考えないと…


と、一人どうしようかと頭を悩ませていると端末がひょいと手から抜き取られた。

犯人はどうやら七尾さんのようで、彼は私の分かりやすいとは言い難いだろう本当にメモ書きですといったソレをさっと流し読んだ後、目当ての人物に顔を向ける。


「三神」

「はいはい、結局僕に丸投げですか。綴戯さん、借りますよ」

「え?うん、どうぞ…」

七尾さんから端末を、私からペンを受け取った三神はメモ書きを一通り読んだと思いきや、サラサラとその上からペンを走らせ始めたではないか。

見れば、色を変えたペンで書き込んでいるのはどうやら修正案らしい。


「すご…こんな一瞬で」

「ほほほ、三神さんは頭が回りますし、何より"あの世代"ですからね。ね?楽しむため、遊ぶために必要なルール設定を考えるのは得意らしいですよ。よ?」

「ヤンチャインテリ…」

「ほほほ!面白い表現ですね。ね?」

どこに才能使ってるんだと思わなくもないけれど今助かっているのは事実だし、あっという間にルールを修正し終えてみせたあたりお見事な手腕であることは疑いようがない。


七尾さんはパンパンと皆の注目を集めるように手を打ち鳴らし、三神から端末を受け取った。

「これよりルールを説明する。よく聞け。まずチーム分けだが…二・三年の合同チームVS引率者チームで行う」

そう彼が言った瞬間、早速ブーイングが皆から上がる。早い早い。ルールに行き着いてないよ。


「引率って綴戯さんもそっちって事ですよね嫌ですずるいです異議有りです納得いきません」

「そうですよ!お姉さんと一緒がいいです!!」

「「「そーだそーだ!!」」」

「普通に人数の都合だ。諦めろ」

さっくり正論を返され悔しそうにぎゅむっと唇を結ぶ皆に、嬉しような困ったような…曖昧な心境である。

いやだって、一緒が良いと言ってもらえるのは凄く嬉しいし駄々を捏ねてくれたのは可愛いけれど、私がいてもチームにプラス要素一個も無いんだよね…それはもう、いっそ申し訳ないくらいに。


話の腰を折られはしたが、その後七尾さんはざっと三神編集のルールを読み上げた。

子細を省いてまとめると…


・制限時間は二分。三セット勝負。

・枕は合計十個で行う。

・枕に当たったらアウト。ドッヂボールと違い、キャッチもアウトとなるので注意。

・ポジションは、当たれば即敗北となるチームの頭な『大将』。枕を投げて相手に当てる『アタッカー』。場外に出た枕を自陣に戻す『サポーター』の三種。リベロは今回省略。

・学生チームのみ一試合に一回"先生が来たぞ"のコールを行うことが出来る。大人チームはハンデとして無しとする。


その他私でも覚えていないような細かい規定からはそっと目を反らし、分かりやすさ重視のルールである。


「はい!お姉さん!"先生が来たぞ"って何ですか!」

「はい、二菜ちゃん良い質問だね!」

私はピッと人差し指を立てながら、記憶をなぞるように舌へ言葉を転がした。

「"先生が来たぞ"って言うのは、試合中一度だけ『サポーター』が使えるコールなんだけど…先生に見つかったって想定で試合全体の動きを十秒止めるんだよ」


実際、修学旅行なんかで部屋で枕投げ大会なんて大騒ぎしてたら当然先生に注意されるだろう。

さてそんな時、ヤンチャな年頃の学生達はどうするか?答えは簡単。

「この時、相手チームの大将は寝たフリをするの」

「ほほほ、リアリティのある動きですね。ね?」

「大将以外は寝たフリじゃないのですかにゃ?」

「他の人達は両チーム共先生に見つかったって事で正座するよ」

「わぁ、自分だけしらを切るんだぁ」

「大将狡い奴っすね…」

言い出しっぺが真っ先に避難するのってあるあるだよね。


「えっと、相手チームの大将は、と言うと…あの、自分のチームの大将はどうするんですか?」

「二菜ちゃん達のチームの大将だけはその十秒の間自由に動いて良くて、相手チームに入って枕をもらってくることも出来るんだ」

「それってぇ、つまり…」

「成る程十秒後には小生達に枕全てを使った総攻撃のチャンスが到来するって訳ですね」

興奮しているのか何時もより早口気味な至くんにその通りだと返せば、彼に限らず学生達の表情が元々の輝きよりも増してチカチカと目を焼いた。

夜なのに、目の前に太陽があるみたいだ。


「にゃにゃ、しっかし使い時が重要ですにぇ」

「やっぱり最後にわー!ってやるのが良いよ!」

「いや、相手が強力なんで初手で数減らしってのもありっすよ。…迷いどころっす」

輪になってボソボソと作戦会議を始めてしまった皆から距離をとる。

私は今回敵チームだからね。スパイは良くない。


ふと、何とはなしに木製の枠で囲まれた窓の向こう側に目を向けた。

夕立だと思っていた雨は予想を外れて今尚ざばざばと草繁る地面を跳ね回り、目を瞑って耳を澄ませば滝を浮かべるくらいには勢いが凄い。

窓ガラスにへばり付いた雫は昼間の川よりも冷たそうな水の道を作って流れ落ちていた。


「綴戯さん。そろそろ場所を移しましょう。ね?」

「あ!はい!すみません、ぼーっとしてました」

遠くにピカッと光った雷の音がこちらへ届くより先にかけられた柔らかな声に返事を返し、私は既に移動を始めている皆に続くべく慌てて踵を返したのである。


遅れてゴロゴロと啼く重たい空はまだ暫く居座るのだろうな。皆が帰る頃には止むといいけど。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この合宿所には私や二菜ちゃんや至くん、七尾さん達も皆がそれぞれ使えるくらい多くの個室がある。

しかし、きちんと合宿らしい…と言うのも変だけど、皆で雑魚寝しましょうねと言わんばかりに誂えられた和室の大部屋だってバッチリ存在していた。


私のうろ覚えな指示のもと適当なビニールテープを床に張って分けられた両陣に布団や枕を設置した皆がざっと並び、意気揚々と向かい合う。


「訓練でボッコボコにされた恨み、晴らしますよ!!」

「小生もこっちでは一本とってみせますから覚悟してください」

「おやおやナメられたものですね」

「ッハ!かかってこいよガキ共」

おかしいな。枕投げってこんなに殺気立ってるものだっけ?

バチバチと散る火花の幻再びなんだけど…


二菜ちゃんと至くんの目は日中の訓練の時のように真剣そのものだし、それに相対する七尾さんと三神はそんな二人をせせら笑うようにゾッとする程冷たい笑みを浮かべていた。

悪役かな??と言うか七尾さん口調が既に怪しい。


「綴戯姫はアタシ達が助けるにゃ!」

「待っててくださいっす!」

「いやあの…私、一応敵…」

「ほほほ、欲しければ奪ってご覧なさい。ね?」

四葉さんも便乗して悪役ムーブを始めてしまった。表情も台詞も見事に煽ってらっしゃる。

私はといえば、さらわれたお姫様みたいな立ち位置に置かれている気がして一人顔をひきつらせている。某モモのお姫様的なあれかな。


まぁ敵チームとは言ってもサポーター兼主審…いや、主審(サポーター)って感じだからほぼニュートラルな立ち位置なんだけど。

ちなみに大将は学生チームが至くん、大人チームが三神。サポートは私と、学生チームは門倉くん。後は皆アタッカーである。


「じゃあ皆さん位置についてくださいね」


枕投げの初期位置は大将が自陣内の布団、アタッカーは外の布団だ。

各陣地に五個づつ配置された枕とプレイヤーが皆布団に入ったのを確認し、私は首から二つ下げたストップウォッチのうち一つを片手に携えながらホイッスルを軽く咥える。


「制限時間は二分。大将が就寝(ヒット)するか終了時に残っていた人数が少ない方を負けとします。では、よーい…」


ピッと周りに人家の無い山とはいえ何となく控えめにホイッスルを鳴らしたその瞬間、室内であるにも関わらず目の前を風が吹いていった。


舞った髪が頬をくすぐるのを感じながら、私は開始数秒にして虚無顔で試合を止めるべくピッピッとホイッスルを吹く。

皆もしまったと思ってはいるのだろう。

どこか後ろめたそうな顔をしながら各々視線を適当な所に泳がせていた。

自覚があるようで何よりだね。


「…手加減、しましょうね」

『…はい』

枕で襖をぶち抜いたのは百歩譲って良いとして、いや良くはないけれど…まだ分かる。

私、枕が壁にめり込むのも壁に当たってパァン!と爆発四散するのも初めて見たよ。

どんな豪速球を投げたらそうなるのだろうか。能力者、恐るべし。


さて、枕の交換と飛び散った小豆の回収をした後、直ぐ様仕切り直しとなった。

そうして始まった戦いは想像してはいたけれども異次元である。

取り敢えず枕どこ?状態というか、絶えずビュンビュンと飛び回っているものだからもう空中のものは私には追えない。

反則その他も分からないので就寝(ヒット)だけ見ておけば良いと審判業も半分投げた。

これだけ激しければ当たったかどうかは分かるだろうし。


そんなわけで私は、ぺしょんと場外の床に落ちてきた枕だけを見ながら『サポート』としてひたすらそれを拾っている。

たったそれだけにも関わらず私は今にも死にそうだ。

右往左往を繰り返しているという肉体的疲労はもちろんの事、何時なんどきあの凶弾()が襲ってくるか気が気じゃないものだから精神力がゴリゴリ削られている。

いくら死んでも生き返る体でも、私のキル履歴に死因:枕は遠慮したい。


さて、枕がこれだけ激しく行き交っているのだから中の人間も当然相応に動くわけで…

「にゃにゃ!」

くるんと大道芸人のように軽くしなやかにして自由な動きで避け続けるマオちゃんに、常にフッ残像だ…状態の至くん。

さすが無駄の無い動きで冷静に避ける三神、避けてすぐカウンターと言わんばかりに枕を投げ返す七尾さんと…あれ四葉さんは何処?


取り敢えず…うん。私の知ってる枕投げじゃないなこれ。開始三十秒と経たずに悟ったよ。

時間を確認しつつ無心で場外の枕をポイポイと戻し続けていると、ばすんと誰かに枕が当たったであろう音がした。


「あうぅ…!悔しい!!!」

「熊先輩!?」

「ふにゃー!?先輩!?」

あらら、二菜ちゃんが当たってしまったらしい。

悔しさと申し訳なさをいっぱいに詰め込んだような顔をしたまま、ルールに従って場外に敷かれたスタート地点の布団にくるまる様はさながらふて寝の図である。

枕投げにおけるヒットはイコール就寝なのだ。


「っしゃア!!!次行くぞ三神ィ!!」

「はいはい」

「わぁ、七尾さんのやる気凄い…」

やる気が溢れすぎと言うか、完全に教師から素の性格にスイッチ押して切り替えしちゃってるけど良いのだろうか。

そんな私の呟きを拾ったらしく、四葉さんがすいすいと枕を避けながら口を開く。

ところで、いったいどこにいたんだこの人。


「ほほほ、七尾さんは勝負となると血が騒いでしまうそうですよ。よ?どうも、負けたくないと思ってしまうそうです」

あぁ…何となく印象ある。

ヤンチャ時代に培った売られたケンカは買うし、買うからには負けないぜ!って矜持だろうか。

何にせよ、父親でも教師でもない七尾さんが楽しそうで何よりだとクスクス笑った。


激しさを増す攻防の中、ふと相手チームの『サポート』である門倉くんがすっと手を挙げたのを認め、私はホイッスルと使っていなかった方のストップウォッチを準備する。

拡声器を手にした彼の口から"アレ"がくる筈だ。


「えー、せんせぇーがぁ、来たぞぉー」

「「「いや緊張感…!!」」」


ただの台詞とはいえ危機感の欠片もないのんびりと間延びした声に、学生勢は芸人よろしくずっこけるフリをした。ノリが良いな。

まぁでも門倉くんらしいや。

笑いつつピッとホイッスルを鳴らした私は試合用のストップウォッチを一度停止させ、もう一つの方で十秒のカウントを始める。


わたわたとバタつきながら正座をするマオちゃんと瀬切くんに対し、四葉さんはやたら美しい所作で畳に腰を下ろした。

さすが良家の次期当主。絵に描いたように優美な佇まいである。

しかしこれ、先生に見つかって反省中って想定じゃ…うーん、堂々としていらっしゃる。


『大将』である三神はやたら手慣れた様子でさっと布団に潜り、完璧な寝たフリを披露していた。あれは経験者だな。かなりの手練れとみた。


そして七尾さんはといえば…

「ア"ァ"ン!?センコーだァ!?上等だ!来るなら来いやァ!!」

「ちょ!?七尾さん七尾さん!落ち着いてください!出ちゃってますよ!」

あなた教師でしょう何言ってんの!!と内心で叫びながら、私は十秒経過を告げるホイッスルを鳴らした後アウトを言い渡す。

いつの間にか枕を自陣にゴッソリと持ち帰っていたらしい至くんが終始凄く呆れた顔をして見ていた。


さて、七尾さんという戦力が削られて大人チームは人数的にもピンチか?と思ったけれど、そこはさすがと言うべきか…結果を言えば全く問題なかったよね。

涼しい顔で水を掴むようにすいすいするすると枕の応酬をすり抜けていく四葉さんに翻弄され、避ける位置まで計算した上で冷静に枕を投げてくる三神に撃ち取られ…

マオちゃん、瀬切くんが次々と就寝(ヒット)となった。


そして残り十秒…

『サポート』の役割を七尾さんに丸投げした私は主審に集中する。

ホイッスルを咥える唇にきゅっと力が入り、ストップウォッチを握る手にはしっとりと汗が滲んできた…そんな時。


ばすん


当たった枕が床に落ちて中身をじゃりっと鳴らすのと、至くんががくりと膝をついたのはほとんど同時であった。

三神の一投が『大将』を、最後の一人である彼を捉えたのである。


僅かに流れた静寂を切り裂くように、私はピッピー!と試合終了のホイッスルを盛大に鳴らした。

未だにバクバクしている心臓を抑えながら、息が詰まるような二分を終えてふぅー、と深く息を吐き出す。

コレがあと二セットあるんだよね。持つかな私…


「ぐや"じい"ー!!!!」

バァンバァンと建物そのものを揺らさんばかりに畳を叩く二菜ちゃんを、至くんが耳を塞ぎながらキロリと睨んだ。


「小生が一番悔しいんだけど本当にあと少しだったのにっていうかお前が一番に落ちるとか聞いてないし後輩の前で恥ずかしいでしょバカなの」

「仕方ないじゃん!!二菜だってもっと枕投げたかったよ!」

わぁわぁと言い合いを始めてしまった二人を横目に、マオちゃん達は遊園地のアトラクションを終えた後のようにカラカラと愉しげに笑う。


「にゃはは!やっぱ先生方は強いにぇ!あー疲れたにゃー!」

「ハンデ有りでも歯が立たないっすね。ってか合歓、途中『サポート』の仕事サボったっすよね?」

「だってぇ、拾っても拾っても枕が来るんだもぉん」

その気持ちはめっちゃわかる。本当にキリがなかった。


悔しそうに、残念そうに、でも楽しそうに畳へ大の字になる面々を見ながら、酷く余裕な様子で三神と四葉さんは悠然と笑ってみせる。

「ほほほ、わたくしすら捉えられないなんてまだまだでございますね。ね?」

「何言ってるんですか。こと避ける動き…というか瞬間的な速さにおいては四葉さん相当でしょう。…で?七尾先輩。何か言うことは? 」

「いや…すまなかった」


腕を組みながら布団で正座する七尾さんを見下ろす三神からは能力とは真逆のブリザードが吹いているようだ。熱いも冷たいもお手の物ってか。


「うぅ!せんせー!次です次!!今度こそ勝ってみせます!!」


そんな二菜ちゃんの声に再び皆に闘志が漲り、続けて行った第二セット第三セットともにひたすら白熱した。

結局先生方の完封勝利ではあったけれど、学生も大人も皆等しく子供のように楽しみ、枕投げは大盛況で幕を閉じたのである。

その様子が暖かくて、私は自分の雑学知識に感謝したよ。枕投げ知ってて良かった。


まぁ、散々動き周り枕を投げ入れていた私の足と腕は情けないことに、少し動かすのもキツいくらいにぷるぷるだけれど。

日頃の運動不足に加えて慣れない動きをしたからね…後で湿布か何かもらおう。





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