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10-2


夜でもないのに真っ黒な空は大粒の涙とゴロゴロと鳴き声を吐き出しながら森に重苦しくのし掛かっていた。

窓の外ではバケツをひっくり返したような雨が大地を叩いている。

いつかは泣き出すのだろうと思っていた空は案の定夕方の少し前から崩れ始め、ほんの三十分程度の間で一気に大荒れになったのだ。


「ひゃー、ビックリです!」

「本降りになる前に戻れて良かったですにゃ!」


わしわしと互いをタオルで拭き合いながら、二菜ちゃんとマオちゃんは窓の外を見ていた私の横にひょこりと顔を出した。

二人の服装を見て、私はおや?と首をかしげる。


「あれ?お風呂に行かなかったの?体冷えちゃうよ?」

「大丈夫です!煙臭くなっちゃうので後にします!」

腰に手を当ててふんす、とドヤ顔を浮かべながら胸を張った二菜ちゃんは大変可愛いけれど…本当に大丈夫かな。君たちそこそこ濡れてたよ?


まぁ確かに今日の夕食は煙臭くなるだろうけどね。

元の予定は朝から続く和食の流れと、少し位はご当地ものをという事で信州そばの予定だったらしい。

けれど、二菜ちゃんと至くんが明日の夕食とチェンジして欲しいと駄々をこねたのである。大変可愛かった事をここに記す。


理由はまぁ聞けば納得というか…今日の時点で疲労がここまで蓄積しているのだから、明日の夕食ともなれば楽しむ余裕なんて無くなってしまうと思ったから、だそうだ。

さて、二人がそこまでして楽しみたい本来なら三日目で予定していた夕食とは何か?その答えは…


「しっかし先輩方も無茶言いますにぇ。室内バーベキューだにゃんて」

「出来るものは無茶じゃないよ!設備があるなら使わなきゃじゃん!ね!お姉さん!」

「ふふっ、そうだね」


そう、定番中の定番。バーベキューである。


天気はあいにくの雨であり定石通り外でとはいかないものの、この合宿所には室内でもバーベキューが楽しめるような換気設備その他が整えられているのだ。

そのおかげもあって、七尾さんは涼しい顔で変更をオッケーした次第である。

結果、規模はさすがに小さくなるものの今日の夕食はバーベキューということになったのだった。


ちなみに、セッティングは男手でやるからと私達三人は食材の準備…とは言ってもほとんどは寮母さんが下準備を済ませてくれていたのでこうして雑談に興じているんだけどね。


「それにしても凄い量の食材だよね…肉も野菜も海鮮も」

「そりゃ、熊ヶ峰先輩がいますからにぇ!」

「二年の分も追加だからですぅ!」


そう、今日もまた二年生達は私達と一緒に夕食をとる事になっていた。

最初は七尾さんがキッパリ駄目だと突っぱねていたのだけれど…

三人は恥も外聞もなく地面に背を付け腹を付け、ヤダヤダ一緒に食べる!!と両手両足を振り回したのである。

あれはそんじょそこらのお子さまには出来ないプロの領域の駄々だ、とは三神談。生真面目な顔で何言ってんのと思った私は悪くない。


暴れながら三人が言うには、クソみたいな理由で先輩方に怪異をけしかけた最低な担任と食事なんて真っ平ごめんだそうで、コレを聞いた七尾さんは渋々ながらオッケーを出したのであった。

まぁそりゃそうだよな、と皆の心が一致した瞬間である。


「おーい!こっち準備出来たっすよー!」

回想しつつわあわあ言い合う二人を落ち着かせていると、良く通る瀬切くんの声が私達を呼ぶ。


何だろう。いざ始めるぞと言われると今まで何ともない顔をして大人ぶっていたくせに、私の心は遠足のバスの中にでもいるみたいにそわそわと浮き立っていた。


「にゃにゃ!綴戯さん、何か楽しそうにゃ!」

「当然ですよ!楽しみですね!お姉さん!」

指摘されて、あぁ楽しみなのかと理解する。

自分にもまだまだ子供っぽい心があるじゃないかとクスッと笑った。


「うん!楽しみ!沢山焼いて、食べようね!」

「「おー!」」


皆で食材を抱えながら食堂として使っている広々とした部屋に合流するとイスと机は端に寄せられていて、私達はそこに食材を所狭しとが並べていく。

部屋の中程にはバーベキューグリルが3つ程鎮座しており、外用に比べれば一回りくらい小さいものの中々立派な作りをしていた。


「よし、揃ったな」

ぐるりと部屋を見渡した七尾さんが飲み物の注がれた紙コップを手にしたのを合図に、皆もその手にジュースやお茶の揺れるコップを持って彼に光を当てる。


「…二日目でこの雰囲気は変な気分だな。あー、今日も一日お疲れ様。学生諸君は明日も励めよ。では…乾杯!」

『乾杯!!』


外の雨音をかき消すようにさすがの声量で紡がれた四文字に、その場の皆が追従して声を揃えた。合わさったハーモニーのあまりの力強さでカタカタと窓が内側から揺れた気がする。


突き合わされた紙コップからは小気味良いあのカツンと響く音はしないものの、楽しげに跳ね踊ったドリンクの飛沫だけでも皆満足気であった。


「はぁ…二日目じゃヤケ酒どころか一杯すら飲めませんよ」

「まぁそう言うな。たまには良いだろうさ」

ちびりと烏龍茶に口を付け、三神が不服そうに呟くのが意図せず耳にはいる。

酒飲むのか…確かにワインとか似合いそうな風貌はしてるけど。

あの外見で一升瓶呷ってたら視覚バグりそう。


「ほほほ、そも、三神さんの場合は一杯だけでも前後不覚になりますでしょう。しょう?」

「え、弱いんですか??」

「な!?」

「ええ、それはそれは。ね?」


四葉さんの言葉に思わず反応すると、珍しく余裕のない狼狽えた表情で三神がぎゅんとこちらを見た。どうやら聞かれたくない話題だったらしい。取り敢えず、首大丈夫??


特に追求したいわけでも無かったのでカチカチとバーベキューグリルに火を入れようとしている二菜ちゃん達を手伝うべく視線を外そうとしたその時、三神の側にいた筈の七尾さんが耳元で、しかし隠すつもりもない音量で囁いたのである。


「一杯どころか缶チュー一口で潰れるぞ」

「ちょ、七尾先輩!!?」

「うっそだろ可愛いかよ」


つい言葉遣いが乱れてしまった。落ち着く為に真顔で烏龍茶を流し込む。

だってその辺の女性より弱いとか、この王子フェイスでそれはやばいでしょ。お持ち帰りされる側だよ。


しかし七尾さん悪い顔してるな。

やっぱり気心の知れた後輩相手だと素が出てくるのだろう。

良い息抜きのようで何よりである。決して学生時代の復讐だとかいう呟きは聞いていない。

不良とは報復する生き物である。なんてね。


三神はそれこそ酔ってるのかと聞きたいくらいに顔を鮮やかな朱に染めて、若干潤んだような瞳で私を睨み付けた。

「忘れてください。いいですね!?絶対に!!」

「いや私"記録者"…」

「ぐっ…くそ!!ならもうバレたという僕の記憶を飛ばすしか…明日は絶対に飲んでやる!!」


三神は言うだけ言ってプイとそっぽを向く。

それで良いのかと問いたいけれど、本人が良いならそっとしておこうと開きかけた口を閉じた。

荒み方がストレス社会に揉まれた人のそれである。

お疲れ様ですと口の中だけで転がして二菜ちゃん達の方へ向き直ると、何やら学生一同が不機嫌そうにグリルを囲んでいた。


「えっと、皆どうしたの?」

「お姉さん!火がつきません!!」

パチパチと瞬いてチャッカマン片手に奮闘している瀬切くんと、それを応援している学生達を見やる。


どうやら炭に直接着火させようとしているらしい事を察して私は苦笑した。

「至くん、バーベキューセットの保管してあった場所にゼリーみたいなの無かった?」

至くんは少しだけ記憶を辿るように沈黙した後小さく頷く。

「えっと確かにチューブに入ったゲルは見かけましたけどそれがどうかしましたかどうですか」

「持ってきてもらってい…」

「勿論です」


言い切る前に目の前から消えた至くんは、瞬きを数回する間にまた同じように前に立っていた。さすが。

すっと渡されたソレを受け取って成る程と納得する。


「綴戯さん、それ何すか?」

「着火剤だよ」

「ちゃっか…え、あ、着火ですか!?」

外国のメーカーだから表記が日本語ではなく、これが"着火剤"という名前の品だと分からなかったらしい。

物を知らなくても文字さえ見れれば用途がわかっただろうに…知らなかったらこんなゼリーをバーベキューで使うとは思わないよね。


「えぇ?そんなゼリーみたいなのがぁ燃えるんですかぁ?」

「ふふっ、燃えるんだよそれが。誰か新聞紙を下にひいてくれるかな?」

「はいにゃ!任せるにゃ!」


燃料用の目皿の上にひいてもらった新聞紙ににゅるんと着火剤を押し出した。

私の行動に興味津々なのか、学生達は肉も焼いていないバーベキューグリルを爛々と目を輝かせながら囲んでいる。


「綴戯さん次はどうするんですかどうですか」

「次はこう、木炭を組むようにして着火剤の上に置いて欲しいんだけど…」

「わかりました小生に任せてください」


ジェスチャーで組むイメージを伝えると力強く至くんが頷き、私は頼もしいなと微笑む。

が、次の瞬間には見事な木炭タワーが建設された。


おかしいな、私の目線くらいあるぞ?

この高さでもびくともしない様子に匠の技を感じるけれど、違う。そうじゃない。


「きゃははは!至くんすごーい!めっちゃ丈夫!えい、えい!」

「ちょ、熊先輩そんなツンツンしたら…」

ジェンガでもしてみたかったのか、二菜ちゃんは木炭の一つを爪で弾くように飛ばした。

敢えて言う必要もないけれど、やはりというか倒れたよね。何せ二菜ちゃんの力で弾いたのだから。


がらがら、わぁわぁ、と騒がしくなった此方を大人勢が何やってるんだと呆れた顔で眺めている。

あちらは既に火はついていて、じゅうじゅうと何かを焼く音と匂いがお腹を刺激した。


作品を壊されてご立腹な至くんに米神グリグリの刑を受けている二菜ちゃんをそっとスルーして、瀬切くんに五本くらい木炭を積み直してもらう。

「後はここに点火して、木炭に燃え移るまで適度に空気を送ればオッケーだよ」

「にゃにゃ!ではうちわ番は任せるにゃ!」

「あー僕がやるよぉ?」

「合歓じゃ途中で寝落ちするからダメっす」


そのまましばらくマオちゃんがうちわで扇ぎ、順に木炭を追加し、遂に…


「はい、無事に火がつきました!もう焼けるよ」

「「「おぉー!!」」」

「お姉さん魔法使いですか!?二菜達があんなに苦労したのをあっさりと!」

「さすが綴戯さんは博識というか本当頼りになりますありがとうございます」


グリルにきちんと火が付いたのだった。

これだけでもう疲れた気がする。

しかし、今だかつてバーベキューの火入れでここまで褒められることがあっただろうか。

悪い気はしないけれど複雑である。


残されたもう一台にも火を付けて、まだ誰も使っていないそこでさて、と腕をまくる。早速焼いていこうじゃないか。

私は生肉用のトングを手に取って取り敢えず目についたカルビのトレーをもう片手に装備した。

赤と白のバランスが絶妙なソレを一枚、どこかワクワクしながら熱された網へそっと下ろす。


じゅう、と熱で弾けたタレのしょっぱいような甘いような香りが煙と共に立ち上ぼり、意図せずお腹がくるると鳴った。

炙られた肉がじわじわ丸まっていく。

ポタリと滴る肉汁に唾液もじゅわりと出てきそうだ。


グリルの1/3程度を使って一通り肉を並べ、トングを持ち変える。

バーベキューとなれば若人の胃袋は二菜ちゃんだけでなく底なし間違いなしだから、いくら焼いても足りないくらいだろう。

…まぁ、それを加味しても寮母さんが用意してくれた量には引くけれど。


ともあれ、肉ばかり焼く訳にはいかないからね。栄養のバランスは大事にってことで。

そんなわけで余ったスペースに野菜を…と思ったところで、するりと手に持っていたトングが抜き取られ、私はなにが起きたのか分からずにそのまま固まった。


自分の頭より上にいってしまった銀色抜き取ったであろう犯人の手を辿るように顔を動かすと、困り顔の七尾さんが目に留まる。

その隣で輪切りのコーンを箸に挟んでいた四葉さんがクスクスと笑った。


「ほほほ、今回綴戯さんは焼き役禁止ですよ。よ?」

「え!?何でですか!?」

「お前に任せると食べもせずにずっと焼いてるだろう。絶対に」

二人からの確信めいた視線に決まり悪くなり、私はいもしない幽霊でも探すように視線をさ迷わせる。

鋭い。大正解である。


確かに私は昔から焼くことに徹して、気付いたら食べ損なったままバーベキューが終わってるってタイプの人間だったからね。

一応好きでやってはいるんだけど…


「お姉さん!今日は二菜と一緒にいっぱい食べましょう!これ、二菜が焼いたお肉あげますね!!」

トングに変わって紙皿を渡されどうしようかと立ち尽くす私の側にひょこりと現れた二菜ちゃんが何かをぽいと乗せた。

そう、何か。見た目では何なのか分からないそれは、彼女の言葉を信じるなら肉らしいけれど…


「バカじゃないの炭じゃんそれ本当にあり得ない綴戯さんに何食わせようとしてんのバカ」

「良く焼いた方が良いって言ったの至くんじゃん!!」

「限度ってものがあるでしょ小生は綴戯さんは生焼け苦手だから良く焼いた方が良いと言っただけで黒焦げにしろとは言ってない」


何で知っているのだろうと思ったけれど、そう言えば合宿に必要な物の買い出しに行った時に話したな。

さらっと会話の中で言っただけなのに覚えててくれたんだ…何か照れ臭い。

あの肉の赤みが見えるとどうも気持ち悪くなっちゃうんだよね。


なんて現実逃避をしながら私を挟んで言い合いを始めてしまった二人に苦笑を張り付けていると、私の紙皿…黒焦げな肉(?)の隣にほどよく焼き目がついてしんなりしたピーマンが添えられた。


「にゃはは!お野菜も大事ですからにぇ!」

「ふふっ!マオちゃん。ありがとう」

カツンカツンとトングを鳴らしてにんまり笑ったマオちゃんがカボチャ、ピーマン、玉ねぎ、ピーマンと更に野菜を追加していく。


いつの間にか七尾さん達で一つ、学生達合同で二つのグリルを囲う形に落ち着き、私はやや気後れを感じながらも学生達の方へ混ぜてもらっている状態だ。

良いのかな、私こっちで。


二つあるグリルのうち片方では二菜ちゃんが口を尖らせながら黒く炭化した塊をつついており、私が最初に肉を焼き始めたもう片方ではマオちゃんが野菜や魚を上手く焼いていた。

ちなみに私が焼いた肉は既に消息不明である。


「熊先輩の焼いた肉、悉く炭なんすけど…代わった方が良くないっすか?」

「そう思って小生代わろうとしたけど嫌だ嫌だって言ってトング折りかけたから諦めた」

「取り敢えずあれぇ、食べない方が良いですよぅ。にっがにがでぇす」

「食べたんだ…」


門倉くん勇者だなぁと思ったけれど、たぶん何も考えてないんだろうなこの子。

二菜ちゃんのお気持ちというスパイスがあって尚、コレを口に運ぶのは躊躇われる。

箸で摘まんだ感触がもはや肉ではない。

…気持ちがこもり過ぎちゃったのかな。うん、そういう事にしておこう。

ところで、彼女の肉(仮)の隣に次々乗せられていく緑は何かな。

「マオちゃん、ピーマンばかり私に消費させるのは止めようか」

「ぎっくぅ」


嫌いなのかなと思いつつ笑顔であーん、と口元に持っていけば、マオちゃんは猫に似たアーモンド形の眼を丸くして私とピーマンを見比べる。

葛藤するように幾度か視線を往復させた後、きゅむっと結ばれていた口を観念して開いた彼女はパクリと緑の悪魔(ピーマン)を食べた。


「うえぇ…」

酸っぱい梅干しでも食べたようなしわくちゃ顔に、その場にいた皆で笑う。

頬を赤くするマオちゃん、可愛いな。


「に"ゃー!アタシだけじゃ不公平だにゃ!綴戯さん!門倉もピーマン嫌いですにゃ!」

「げぇ!?」

「OK!任せて!」


ケラケラと笑っていたところで突然売られるようにカミングアウトされた門倉くんは、分かりやすくしまった!と口元をひきつらせてジリジリと後退る。

が、ささっと音もなく背後に回った至くんにあっさり捕まった。


「熊ヶ峰の肉と綴戯さんの差し出すピーマンどっちが良いか選ばせてあげるけどどうする」

「綴戯さぁん。あーん、してくださぁい」

「ちょっと至くんも門倉も酷くない!?」

持ち前ののんびり具合をかなぐり捨てるような即答に、二菜ちゃんがぎゃん!と吠えるように抗議する。

門倉くん、あのお肉一度は食べたらしいのに…余程不味かったんだろうな。


ご要望通りあーん、と口へ持っていけば、マオちゃんと同じような挙動をしながらバクン!と勢い良く口に含み、これまたマオちゃんのようにぎゅんと顔をしかめた。


「う"ぇ、口にっがぁ」

うん。可愛さもマオちゃん同様バッチリだね。

思わずニコニコと頬が緩む。


「はにゃにゃ!綴戯さんがSに目覚めてしまったにゃ…きっとこれから鞭を持って跪けとか言い出すのにゃ」

「いや目覚めてないしその予定もないよ?!」

「綴戯…そんな、お前…」


七尾さん…誤解ですのでそんな顔しないで欲しい。

タイミングよくピシャァンと外から鳴った雷の光を窓越しに背負った彼は、さながら娘の反抗期を目の当たりにしてショックを受けた父親のようだと四葉さんが呟いた。

それを聞いて小さく吹き出す。的確過ぎる。いや私は別に娘じゃないけど。


「ほほほ、ちなみにわたくしは跪かせたい派ですので。ね?」

「その情報必要でした??」

取り敢えず四葉さんにSっ気があるのが分かった。知りたくなかったけども"記録"されちゃったよね。


まぁ、苦手なものを食べたご褒美として七尾さん達のグリルから綺麗に焼けたお肉を拝借し、マオちゃんと門倉くんに進呈すれば、あっさりS疑惑の人から聖母にジョブチェンジさせられたけど。手のひら返しがひどい。


私はきゃっきゃとはしゃぐ皆を一歩引いて眺め、その眩しさに眼を細める。

どこまでも自然体で普通の学生として楽しんでいる彼らの姿が嬉しくて、また一ページ増えた"記録"が何よりも尊く感じて。

私は何となく黒焦げの肉をパクリと食べる。

苦しく辛い苦味の奥には、確かに美味しい肉の味があった。


「皆良いわねぇ♪アチシも食べてみたいわぁ♥️」

「ひょっ!?」

突然背後から聞こえた声に文字通り飛び上がる。

振り向けばマリアンヌさんがビールジョッキ片手に皆を眺めて、アンニュイなため息をついていた。いや、何でいるのこの人。


鬼ごっこで培われた対マリアンヌさん用のセンサーが作動したのか、二菜ちゃんと至くんが前触れなしにばっと振り向き顔色を悪くする。

「出た!!!」

「綴戯さん危ないですから離れましょう危ないですから」

二菜ちゃんそんな幽霊を見たような顔をしなくても…というか至くん、危ないって二回言ったね。


「二人とも落ち着いて…」

「やぁだ、そんな子猫チャンみたいに威嚇しなくても良いじゃないの♪可愛い子達ねぇ♥️」


二年生達はまた変な奴が来た!くらいの反応だけれど、昨日植え付けられたトラウマを抱える二人は成る程確かに毛を逆立てた猫チャンのように威嚇していた。

そんな彼らなど歯牙にもかけず、マリアンヌさんはジョッキを体ごとグッと傾けるとゴキュゴキュと豪快に喉を鳴らして中の液体を容赦なく減らしていく。

音と共に上下に動く喉仏(?)が大変男らしい。


そして一気に中身を空にすると、ぷはっと良い顔で息を吐いた。

あぁ…居酒屋でのバイトを思い出す。

よく見かけたよ、あんな感じのおっさ…げふんげふん。

「おっさんじゃん」

「あ"ぁ"ん"?」

私の心の声が漏れたかと口を隠したが、どうやら今のは至くんらしい。


真っ赤なルージュがひかれたぷるぷるの唇から溢れるドスのきいた声と不良も裸足で逃げ出すだろうおっかない表情を携えたマッチョオネェ(アンドロイド)、という情報の渋滞具合に頭を抱えたい気分である。


取り敢えず、しまったと顔を青くさせる至くんからマリアンヌさんの注意を反らすべく私は口を開いた。

「え、えっと、マリアンヌさん。何飲んでるんですか?」

「もっちろん、オイルよぉ♥️」


直飲みで補給するんだと的外れなところに感心していると、マリアンヌさんはおかわりをしに行くと去っていく。

至くん含めた皆からホッと息をついたような弛緩した空気を感じ、私は少しだけ眉を下げた。

マリアンヌさん、悪い人(?)ではないんだけどね。


「そだ!先輩方、明日は何の訓練をするんすか?」

ガリガリとカボチャを齧りながら、瀬切くんは唐突に尋ねて首をかしげる。というかそのカボチャ生焼けじゃない?音がどう考えても生なのだけど…お腹壊さない?大丈夫?


「昨年と同じ感じなら小生達は二人で模擬戦するのメインで後は一対一での疑似怪異を用いた討伐訓練じゃないかな」

ちらりと至くんが七尾さんに目をやれば正解だったのだろう。彼が頷くのが見えた。


「成る程、そっすか…」

ふむ、と顎に手を添えて視線を虚空に投げた後瀬切くんはマオちゃんと門倉くんを呼び寄せ、額を付き合わせて何やらヒソヒソと相談を始める。


話はすぐにまとまったのか、三人は七尾さんの前にピシッと横一列に整列して運動会の選手宣誓を思わせるように手を上げると、代表してマオちゃんが口火を切った。


「実はアタシ達、明日丸々自主練って言われて困っているんですにょ!」

「何…だと?」

「ほほほ、相変わらず槝木先生は勝手な事をしますね。ね?」


いつもと変わらない声色でそう言う四葉さんの目はしかし全く笑っておらず、焼こうとしていたらしい何かの貝をトングでバキリと粉砕する。美人が怒ると本気で怖いよね。

というか握力いくつですかソレ。いや嘘です知りたくないです。


「二年の担任、本当にどうにかした方が良いですよ。ここに来たのが予定通り久夜だったら山一つは無くなってますからね」

笑えない冗談どころか実際に見たことあるぞ私。

改めて本来ここには三神の代わりに一ノ世いたのだと考えてみれば、今頃合宿どころじゃなかったのは想像に容易い。


「七尾先輩から言い難いのなら僕から学園長に打診しておきましょうか」

「いや、私が言っておく。…先に一ノ世に消されそうだがな」

「ほほほ、報告はしておりますから。ね?」

合宿の終わりが槝木の終わりになりそうだ。

私は心の中で南無三と呟いた。


「えっとぉ、それでぇ…合同訓練をお願いしたいんでぇす」

「楽なのは良いっすけど、さすがにこれじゃ合宿来た意味無くなっちゃうっすから」

瀬切くんの言うことはもっともだ。

いつもと違う場所で普段できない練習を昼夜みっちりするからこその合宿なのだから。

いや、私はそういう部活とかサークルには入ってなかったから経験ないけれど…友人からの受け売りだ。


「わたくしは良いと思いますよ。お互いの為にもなりますでしょう。しょう?」

「ええ、私も賛成です。…お前達、合同は構わんが厳しくやるからな。覚悟しとけ」

「「「はい!」」」

びしっと礼をとる三人に私と二菜ちゃんと至くんは顔を見合わせて笑った。明日も退屈しなさそうだね。


「ふっふっふ、後輩諸君!この二菜先輩がみっちりバッチリしごいてしんぜよう!!」

「いや熊先輩何キャラっすか…」

突然先輩風を吹かせ始めた二菜ちゃんをベシリと至くんが叩き、すっかり空になっていた彼女の皿を山盛りにバーベキューで焼いたものが乗せられた皿と交換した。

半分くらい二菜ちゃん作の炭…いや、肉だったけれど。


途端に目を輝かせて大人しくもぐもぐする彼女にしっかり餌付けされて飼い慣らされてるなと思いながら、私はトン、と己の目元に人差し指を置いて二年生達に向き直る。


「私、皆のこともバッチリ"記録"するからね!」

「にゃにゃ!?そうですにゃ!合同でやるってことは、綴戯さんに見ててもらえるのにゃ!!」

「うおぉ!テンション上がるっす!絶対カッコ良いとこ見せるっすよ!で、帰ったらクレアにも見てもらうんす!」

「リア充は置いといてぇ、すっごくやる気出まぁす!」

きゃっきゃと喜んでくれる皆に胸の内を暖かくしながら、私はお肉を…今度は四葉さんがくれた程よくきちんと焼けているそれをはむっと頬張った。


二菜ちゃん作のお肉では分からなかったけれど、じゅんわりと舌に溶ける油の甘さに良い肉なのだろうと当たりをつけながらその風味に絡む甘辛いタレに舌鼓をうつ。

お米が欲しくなるような味付けだ。残念ながら今回は用意出来ていないけれど。

ホクホクのカボチャも甘くしんなりした玉ねぎも、勿論大量に乗せられたピーマンだって美味しくて、落ちるわけないと分かっていても頬に手を添えてしまう。


「んまー!先生方のお肉めっちゃ美味しいにゃ!!」

「ちゃぁんとお肉がお肉してお肉してまぁす。焦げてませんしぃ」

「門倉うっさい!!」

「人参甘いっすね!至先輩のそれは何すか?」

「ズッキーニ」

「七尾先輩、ここでソーセージ焼いても良いですか?」

「ああ、待ってくれ。そこのエビがもう少しで焼けるからその後スペースを作ろう」

「ほほほ、キノコ類も大変美味ですね。ね?一ノ世さんが一緒だと毒キノコを疑わなくてはいけないので怖くて食べられませんが…今日は安心です」


この空間が、楽しそうな皆の姿が、きっと何よりも料理を美味しくさせる最高のスパイスなんだろうな。なんてね。


さて次は魚介でもと思ったところで一つ思い出した事があり、私は保存庫に行くべく部屋の出入り口へ足を向ける。

「ん?綴戯、どうかしたか?」

「あ、七尾さん。折角なので二菜ちゃんが昼に採った魚も焼こうかと思いまして」

「あぁ…あれか。そういやあったな。確かに消費してしまった方が良いだろう」

「魚ですかぁ?」


のんびりした声と共にのしりと背後にのし掛かられた重みで、潰れたカエルのような声を漏らした。

十中八九門倉くんだなと思いながらそうだよと肯定を返す。


彼から響くんー、と何かを考えるような声の振動がこそばゆさと共に密着度の凄さを伝えてきたけど、私大丈夫?お巡りさんに捕まったりしない?

門倉くんいつもこんな感じでスキンシップしてくるから距離感バグるよね。勿論私に限らず皆に対して彼はこうであるけど。


「こら門倉くん、重いよー」

「えー…そぉですね。綴戯さん、潰れちゃいますもんねぇ」

「いや潰れはしないけど…」

「じゃあどきませぇん」

「え!?」

謀られたと思った時には時既に遅し。

七尾さんからの哀れむような視線に苦笑を浮かべることしかできなかった。


「あー、そうだ門倉。綴戯を手伝ってやってくれ」

「はぁい。勿論良いですよぉ」

「え?良いの?」

「というかぁ、綴戯さん一人じゃ持てないと思いまぁす。だって、魚って一緒に氷とか入ってますよねぇ?」


言われてみれば確かに、と真顔で頷く。

七尾さんが用意していた発泡スチロールは私が両腕を広げたくらい大きかったし、そこに氷が敷き詰められていたら…うん。無理。絶対。


「お願いします」

「「潔い」」


七尾さんと門倉くんという珍しい組み合わせで、テンポは違えどハモった事に少しばかり感動した。

レアシーンの"記録"に、何となくウズウズした喜びを感じるのは"記録者"の性だろうか。


手伝いたいが少しだろうとここから目を離すのは怖いと凛々しい眉を下げた七尾さんに大丈夫だと返し、私と門倉くんは調理場を挟んだ隣にある保存庫に向かった。


「「寒ぅ!?」」

青みがかった灰色の部屋にはところどころ霜が降りている。

保存庫の中は丸々冷蔵庫のようであり夏の薄着だと当然ながらかなり寒い。


「い、意外と本格的だった…」

「てっきりただの倉庫だと思ってましたぁ。稼働してるとこ始めて見ましたしぃ」


合宿所にこういうのあるって凄いよね。

とはいえ、よくテレビで見かけるあの塊肉が下がっている…という感じではなく、棚が一辺二つづつ並ぶ程度のこじんまりとした部屋ではあるのだけれど。

昔は今より人手不足で、私達のように寮母さんが用意してくれたりそれを『転移』の人が持ってきたりなんて余裕は無かったのだそう。

だから合宿中に使う食材をまとめてここに入れていたらしい。

つまるところ、今はほとんど使われていない。


と、ガラガラな棚の中に一つだけ存在感を放つ発泡スチロールを見つけた。間違いなくこれだろう。

ソレを取り出した門倉くんはかぱりと蓋を開け、ひいふうみいと中の魚を数えていく。


「いっぱいですねぇ。釣ったんですかぁ?」

「ううん。二菜ちゃんが全部こう、ばしゃっとね」


動きを真似ながら伝えると彼はぶはっと吹き出して、白い息を吐きながらケラケラと腹を抱えて笑った。


「まんま熊じゃないですかぁ!アハハ!熊ちゃん先輩さっすがぁ!最高でぇす!」


くふくふと笑みの名残を片しきれないままに、門倉くんはきゅっきゅと発泡スチロール独特の嫌な音を立てながら蓋を閉める。


運ぶのだろうと思い片側を持とうと手を添えたところで、ひょいと逃げるようにその白い箱が目の前から消えた。

あれ?と目を瞬かせながら門倉くんを見れば軽々とソレを持ち上げながらくぁ、と余裕そうに欠伸を溢しているではないか。

え、氷もぎっちり入ってるのに…重くない?いや絶対重いよね?


「門倉くん、片方持つよ?」

「大丈夫でぇす。たぶん綴戯さんが持ったらぱきっと複雑骨折しますからぁ」

「私の骨が発泡スチロールだった…???」


ケラケラ笑ってる様子からからかっているだけなのは分かるけれど手伝わせてくれるつもりはないらしく、猫背気味のまま門倉くんはゆったり箱を持って歩き始めてしまった。


それを慌てて追いかけて隣へ並ぶ。

若干ゆぅらゆらと揺れている気がする大きな体に、ひょいと彼の顔を覗き込んだ。


「やっぱり重くない?ふらふらしてるよね?」

「んー?いいえぇ、眠いだけでぇす」

そう言って門倉くんはくぁ、と再び欠伸を溢し、押し出されるようにまなじりに浮かんだ涙をぱちぱちとまばたきで落とす。

本当に眠そうな様子に思わずほんわりとこちらまで気が緩み、私もつられるように欠伸をしてしまった。


「んふふー、綴戯さんに移しちゃいましたぁ」

慌てて口元を隠すもバッチリ見られていたらしく門倉くんはどこか嬉しそうに口をむずむずさせ、へにゃりとゆるゆるな笑顔を浮かべる。

恥ずかしい気持ちを誤魔化すように、私も門倉くんと顔を見合わせながらクスクスと笑ってしまった。


「ただいまでぇす…?」

「戻りまし…た?」


長くもない距離の廊下を歩き魚を携えた門倉くんと食堂へ戻ると、中は何やら異様な空気に包まれていた。

ただならぬ様子に気圧された私は、楽譜にnienteとでも指示されていたかのように言葉尻が消えていく。


「三神、おい大丈夫か。三神」

七尾さんの声が何かを囲う皆の向こうから聞こえる。

魚を門倉くんに任せたまま少し足早に合流してみると、どうしてか三神が床に蹲るようにして倒れているではないか。

聞こえる呻き声は苦しげで、晒された首を見るにかなりの汗をかいているのも分かる。

ただ事じゃない様子に背を冷たいものがかけていく。


「二菜ちゃん。一体何があったの?」

「わ、分かりません!きゅ、急に…」


七尾さんがうつ伏せからそっと仰向けにすると、三神は金髪が顔に張り付くほどの汗を浮かばせながらお腹を押さえていた。

その唇は真っ赤に腫れていて酷く痛々しい。

こう言っては不謹慎だろうが、明太子が乗っているみたいである。


私が真っ先に浮かんだのはアレルギーだったが、三神みたいな奴が自分のアレルギーを把握していないなんて考えにくい。

特段珍しい食材があったわけでもないし…


「ま、まさかアタシ達の担任が毒、とか…!?」

「え、縁起でもないっすよ!?…やりそうだから、余計に」


まさかと思いたいが悪意というものはバカにできない。

けど、それにしてはピンポイント過ぎると言うか…皆同じように肉も魚も野菜も食べていたわけだし、一人だけっていうのは違和感がある。

何より、二菜ちゃんが無事なのはおかしい。


「ぬぬぬ、これはあれですね!森の奥の洋館でよく起こる密室殺人事件的なあれです!曾祖父の名に懸けて解決するやつ!」

深刻そうな顔をしながら小声で突拍子のない言葉を紡いだ二菜ちゃんに、何言ってんだこいつと言いたげな視線が皆から向けられた。

いや、えっと…酷い雨とか雷とかそれらしいシチュエーションかもだけど…色々待って??


「いやいやいやツッコミどころ多過ぎでしょここ洋館どころか木の温もり溢れるロッジだし密室どころかこの部屋鍵ついてないし名に懸ける相手微妙に遠いし何より三神さん死んでないから」

「至先輩のツッコミが懇切丁寧でビビるんすけど…」

「しかもノンブレスにゃ。相変わらず凄いにゃ」


何となく張りつめていた空気が緩み、混乱していた頭に冷静さが戻った気がする。

コレが狙いだったのかと思ったけれど、至くんに密室とは何かと正しい知識を解説してもらってふむふむと真剣に聞いている当たり二菜ちゃんの発言はたぶん天然だ。


と、七尾さんにべちべちと頬を叩かれていた三神が意識を取り戻したらしく鬱陶しそうな顔で彼を睨みながら、かすかすなほとんど息しか聞こえないような声で七尾さんに何かを伝えてある一点を指差した。


「は?唐辛子??」


独特の遺言ダナー、じゃなくて!!

え、何?唐辛子?七尾さんの聞き間違いでなく、本当に三神がそう言ったの?

四葉さんが眼を細めながら三神が指差した先を確認すると一本のソーセージが転がっていたらしく、空いた紙皿に乗せてこちらへと持ってきた。


そして確認するようにソーセージに鼻を近付け、すん、と鳴らした瞬間、慌てて四葉さんは鼻を覆ったのである。

うっすら涙を浮かべた彼女は露骨にソレを遠ざけながら口を開いた。


「"口殺し(オース・オシーソ)"ですね。ね?」

聞き慣れない単語に首をかしげたのは私だけで、他の面々はマリアンヌさんにハグでもされたかのように顔色を悪くしている。


「あらまぁ♪大当たりを出したのねぇ♥️」

心中で名前を出したのがいけなかったのか、いつの間にかマリアンヌさんが両手にジョッキを持って輪に加わっていた。


「えっと…大当たり、とは?」

「あらん?シオリちゃんは知らないのねぇ♪"口殺し(オース・オシーソ)"は能力者…と言うか、『学園』では有名な罰ゲーム用の唐辛子の品種よぉ♥️」

「"口殺し(オース・オシーソ)"…?」

「本土の漫画にある口から火が出る程辛いという比喩表現を真に受けた研究者が作り上げた一口で意識持ってかれるレベルの代物です」

「ほほほ、調理すると色も匂いも消えるので見分け難いですが、刺激だけは舌にも鼻にも容赦なく来るのですよ。よ?」


そんな物騒な品種があってたまるか、とか罰ゲーム用って何、とか聞きたいことは色々あったけれどつまるところこの惨事は…

「ロシアンルーレットって事ですか…?」

「そうよぉ♪寮母ちゃんが研究施設から一つ買っていたもの♥️」

きゃぴ!と笑顔で肯定したマリアンヌさんに顔がひきつった。

寮母さん…またあなたか…!!


この為だけにわざわざ購入して、しかもしっかり仕込んでくるとは恐ろしいことこの上ない。

昼のわさびおにぎりといい、容赦無いし本気が過ぎる。


「にゃ…あの人大のギャンブル好きだにゃ。月一で寮食にロシアン要素入りますにょ」

「女子寮怖すぎるでしょっていうかよく無事だねお前達」

「アタシは中等部の時一回当たりましたけどにぇ…だいたいは少しのわさびとかカラシ程度ですにゃ。まぁそもそも滅多に当たりませんけどにぇ!寮食は多めに作られてますからにゃ」

「そういえば最近クレアも当たったって言ってたっすね…これの事っすか」

「二菜は元々別メニューだから知らなかったよ!!」


取り敢えず女子寮で食事は絶対しないと固く決意した。


「あぁん!可哀想な三神ちゃん…口直しにアチシの唇をア・ゲ・ル♥️ん~…♥️」

「とどめをさす気っすか…」


マリアンヌさんはさながら童話に出てくる王子のように三神の上半身を抱き起こし、オイルでてっかてかの唇を存在感たっぷりに突き出す。

尚、視覚的には王子フェイスの美青年が濃ゆいマッチョオネェに喰われようとしているヤベェ絵面である。地獄絵図かな。


朦朧としていた三神だがハッキリ危機を感じ取ったらしく、炎色の目を真ん丸く見開きながら太い腕の中で暴れだした。

「チューーー♥️」

「~~~っ!!!い"り"ま"ぜん"!!!!」


びくともしない腕にとうとうパニックになった三神がコントロールを失ったのか炎を出し、私達はスプリンクラーを被る羽目になったよね。


これが本当の火に油を注ぐって?笑えないわ。


尚、四葉さんは見事な危機察知能力で避難済み。

門倉くんも魚を置きに行ったまま寝てたらしく無事だった。


ぐったりした三神は七尾さんがどっか連れて行き、作動したスプリンクラーは一つで小範囲だったのと四葉さんが作動して直ぐ止めてくれたおかげで奇跡的にグリルは無事だった為、バーベキューは食材への猜疑心と緊張感が皆に植え付けられた上で再開となったのである。


"口殺し(オース・オシーソ)"への恐怖でもう素直に楽しめなかったよね。



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