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9-5


「貴女の訓練でも始めるとしましょう」

「はい!お願いします!」

「ほほほ、そんなに力まなくとも大丈夫ですよ。よ?」


三神の言葉にピシリと反射で背筋を伸ばした私を四葉さんがコロコロと笑い、穏やかに瞳を緩めた。

子供を見るような擽ったい視線にいた堪れず、両手の指を擦り合わせる。

仕方ないじゃないか。私だって緊張くらいするのだから。


さて何をやらされるのだろうとドキドキした私の前に、いや正確には足元に置かれたのはどこか見覚えのある黒い物体だった。


チワワ程度の大きさ。てらりとした体は恐らく金属だろう冷たさが反射しており、しかしホチキスのようなソレがハッハッと呼吸する様も申し訳程度の小さな四肢がちょこちょこと動く様も生きているようにしか見えない。


というかこれってやっぱり…


「ばうばう!」

「いやバウワウくんじゃん???」

「あれま、ご存知でしたか。ね?」


そりゃまあご存知ですとも。

記憶より小さいし声もきゃんきゃんと高いけれど、そのフォルムは間違いなくあのパーティーで一暴れしたヤツに相違無い。


「あのさ、これって追いかけっこするやつじゃなかったっけ…私にはムリだよ?」

追い付かれたら噛み付くって言ってたし、全身噛み傷待ったなしの未来しかないぞ。


「貴女を走らせてどうするんですか。これはミニバウワウくん。貴女にはコレとかくれんぼをしてもらいます」

「かく、れんぼ…??」


何だろう。恐らくはちゃんと考えてくれたのだろう訓練だとは思うのだけれど…やっぱり子供扱いされているようなもやもやが拭えない。一応は三神と同い年くらいなのに、かくれんぼ…ぐぬぬ。


「ちゃんとした訓練です。そんなに拗ねないでください」

「うぐっ」

顔に出てしまっていたらしくズバッと指摘され、気にしている自分が一番カッコ悪いじゃないかと頬を熱くした。


「ばうばう!」

「おっと…挨拶がおくれたね。ごめんごめん。今日は宜しくね…みにばうくん」

足にコツコツと体当たりをしてくるソレをよしよしと撫でてみると、ご機嫌そうに体を揺らしてすり寄ってくる。あれ、可愛い…かも?

うーん…これで手触りがツルツルのゴツゴツじゃなきゃ良かったのに。開発担当者さん毛皮つけてくれないかな。


「み、みにばう、くん…」

「いやだって、ミニバウワウくんじゃ長いじゃん」

「はぁ」


ネーミングセンスがないのは認めるけど、何もそんな残念な子を見るような目をしなくても良くない?

いいじゃん、みにばうくん。ダメ?


「ばうばう!」

「よしよーし!お前やっぱり可愛いねー!」

声には出さず問いかけるように首をかしげた私に、全然オッケー!とグリグリお堅いボディを擦り付けるみにばうくんを抱き上げ、お返しにすりすりしてみた。

金属だから冷たいような、機械だから熱いような…とりあえずツルツルだよ。


「疎遠なので知りませんでしたが、今時の女性はああいったものが好きなんですかね」

「わたくしに聞くのはお止めください。ね?」

四葉さんはひょいと私からみにばうくんを取り上げ、説明を続けても?と緩く首を傾ける。目が笑っていなかったので私は即座に是を返した。


「この子には綴戯さんから離れた位置に隠れてもらいますので、見つけてあげてください。ね?」

成る程、そういう"かくれんぼ"な訳か。


「分かりました」

「ばうばう!」

「ふふ!ちゃんと見つけるから待っててね」


そう言えば四葉さんに草が覆う地面の上へ下ろされたみにばうくんは、ぐっと胸を張るようにして一鳴きするとダックスフンドみたいな足をちょこちょこと忙しなく動かしながら森へ入って行った。可愛いかよ。


「ところで、どの程度離れたら貴女の無意識範囲から外れるんです?」

「ええと、室内とか閉ざされていれば問答無用でその内部、外だと私が視認可能な範囲内…ですかね?」

「…無意識で既に規格外ですか」


目の前の訓練場や校庭のように開けた所なら見える限りは多少の障害物を気にせず全部"記録"出来ているけれど、森のように視界を遮るものが多すぎると能力はソレを"壁"と認識するらしく範囲が狭まってしまう。


「ほほほ、なら200mくらいで良いでしょうか。ね?」

「ええ。十分でしょう」

暫くしてみにばうくんから準備完了の通信が三神に入り、私は早速昨日の感覚を思い出しながら能力を練っていく。

…が、やはりというか…昨日のはまぐれだったのだと実感した。


試行すること十回以上。途中から数えるのを止めてしまうくらいには出来ない現実に、私は早くもキノコの横で体操座りするくらいにどんよりモードである。


「展開すら出来ないとは…驚きました。逆に凄いですよ」

「うぐっ…」

「こらこら三神さん」


そう、三神の言う通り膜を広げるという事がまず出来ないのだ。

昨日のようにそぅっと能力を流しているつもりなのに、シャボン玉は広がらず破裂するかスライムにでもなったようにぐちゃりと不定形になって溶けるのみ。

勿論目にそう見えているわけではなく、私が感じ取るイメージだけど。


「ほほほ、体は大丈夫でございますか。か?」

「はい。まだ何とも」

「ではもう一度やってみてください」

こくりと一つ頷き、私は目を閉じて再度集中する。

遠くから聞こえる二菜ちゃんと至くんの声に私も頑張ろうと気合いを入れて、先ずはぷくりと小さな球体を一つ。

そしてその中へふぅと優しく息を吹き込むイメージで能力を注ぎ込んだ。

昨日はこれで普通に膨らんだのだけど…


「…あ」

「あれま。また崩れたみたいですね。ね?」

「あはは…はい。…うーん…何でかな…」

昨日発動できた時のイメージをきちんとなぞっているのに…何が違ってしまっているのだろうか。


「…あぁ、分かりました」

「え!?」


じっと私の様子を見ていた三神が不意に何かに気付いたようにそう声をあげ、絡まっていた思考をほどくかのように組んでいた腕をゆっくり解いた。

そしてぴっと人差し指を一本立てて口を開く。


「昨日完全でないとはいえ発動できてしまったから…それが逆効果なのではないですか」

「えっと…ごめん、どういうこと?」

「ですから、ステップを踏み飛ばしているという話です」


いや、何の話だ?と話の流れを掴みあぐねていると、むしろ三神が不思議そうな顔をする始末。え、そんなサルでも分かる話か何かだったかな??

二人して止まっていると見かねた四葉さんが苦笑しながら助け船を出してくれた。


「綴戯さんの『記録』のような能力のタイプをわたくし達は結界型と呼ぶのですけれど、その発動には大まかに三つのステップがあるのです。ね?」


曰く、先ずは効果の及ぶ範囲を決めて祈ちゃんのように能力で囲う…所謂これが展開。

次に展開させた力を安定させる固定化。

そして最後に漸く能力の発動ができる…といった感じらしい。


その説明をフムフムと聞きながら、果たして自分はそんな手順を踏んでいるのかと疑問が首をもたげた。

少なくとも意識はしていない。何せ今しがた初めて知ったのだから。


私の表情で四葉さんもまた三神のように得心を得たのか、その柔和な色彩の瞳をパチリと瞬かせる。

「成る程…どうやら綴戯さんは全ての工程を同時進行で行ってしまっているのではないでしょうか。ね?」

「えぇ!?」

そんな事出来るのか?と思ったところで、出来ないから私は失敗しているのかと思い至った。


「さっきから言っているでしょう。ステップを踏み飛ばしていると。本当に感覚だけでやってるんですねあなた」


やや馬鹿にしたような響きが混じる言葉に、分かるか!!と叫びたいのをぐっと堪えてじとりと三神を睨む。


というかステップ踏み飛ばしているどころか全無視してるじゃんか。

しかし、そもそもそのステップを知らないのだから当たり前と言えば当たり前で、基礎もなければ師もいない私が感覚頼りになるのは仕方のないことだろう。


「えっと…つまり私はどういう状態なのかな?」

未だ上手くイメージが湧かない私に出来の悪い生徒でも見るような顔をした三神だが、それでも見捨てるつもりは無いらしく言葉を探すように視線を遠くへ投げた。


「パン」

「なんて???」


突然の単語にコイツ腹減ってるのかと怪訝な顔をしてしまった私は悪くない。

おじいちゃんさっきご飯は食べたばかりでしょう、とでも言えば良いのか。言わないけど。


さすがに言葉が足りなかった自覚があったらしい彼は私をジロッとひと睨みした後こほんと切り替えて再度口を開く。

「パンは形を作ってから焼くものでしょう?しかし貴女の場合はそれを焼きながら形作ろうとしているんですよ」


今度の話にはピントが合ったような感覚があった。

熱くて火傷とか現実的な話を抜きにして、焼いて膨らんでいる最中のパンを上手く整えられる筈がない。

つまるところ、私はそんな技術的に無茶な事をしているということなのだろう。


私は称賛の意を込めて三神へ小さく拍手を送った。

「今のは凄い分かりやすかったよ!ありがとう」

昨日のシャボン玉もそうだけど、例え話が上手い。


「…別に、子供にも分かるような説明をと思って考えただけですよ」

「ハイハイ。どーせ能力者的には赤子だよ」

一言多いんだよなぁ。どうして素直に喜ばせてくれないものかと口を尖らせつつ、何故自分が無茶な方法を行ってしまっているのか改めて思考をめぐらせる。


そう言えば、三神は始め昨日の成功が逆効果なのではと言っていた。

そこではっとなる。昨日と今日で明確に違うのは成功体験の有無だ。


なら私が無意識に展開と発動を同時に行ってしまうのは…発動の感覚が先走っているからじゃないだろうか。

手順(ルール)を知らないからこそコース無視して最短距離でゴールに向かい、結果失格判定をくらって失敗しているわけだ。


「…うん。よし」

そこまで分かったなら単純な話。原点回帰だ。


私は何の意味も方向性も質も持たせない無垢な力をポツリと用意し、それをいつものようにそぅっと膨らませていく。

すると、今までの苦労が嘘みたいなくらい容易く膜がふわりと広がった。

拍子抜けで脱力しそうになるのを堪え、次のステップを意識する。


確か安定させる、だったよね。

いまいちよく分からないけれど、取り敢えずテントでもたてるようなイメージで力の端を地面に刺して繋いでみた。


ここまでは順調そうだ。ならばあとは…発動だけである。

緊張で乾く唇をペロリと湿らせて、広がった膜の中へ水のように能力を満たしていく。


「"広域記録(サテライト)"」

そうして…それは、漸く成功した。


「やった…!」

一気に蓄積が始まった一時保管用の情報に、私ははしゃぐ気持ちを押さえられず握り拳を作って小さく跳び跳ねる。

そして興奮のままに二人にお礼を告げようとしたところで、体がぐらりとよろめいて尻餅をついた。

ヤバイ、私にだけ直下型地震が起きているみたいにぐらぐらする。


「ちょっ!?」

「あれま」


支えようとしてくれたのか、中途半端に伸ばした手をばつが悪そうに引っ込めて体の前で組み直した四葉さんは、やや咎めるような口調で言葉を紡いだ。


「いけませんでしょう。しょう?ただでさえ負担が大きい力を使っているのですから」

「学習能力無いんですか貴女」

まったくもってその通りである。反論の余地も文句を言う隙もない。

ごっそり体から何かが抜ける凄まじい虚脱感に、代わりに大量に注がれる眩暈がするほど膨大な"記録"の情報。

そのダブルパンチで酔ったような吐き気を催しながら、何とかすみませんと口にした。


「ぅえ…えっと、『索引(サーチ)』。対象"みにばうくん"。…ヒット。『開示(オープン)』」

取り敢えず課題をクリアしてしまおうとみにばうくんを『開示』する。


やはりこれは昨日と同じく小規模で、浮かぶ本の上へホログラムのように写し出される程度。

恐らく膨大な情報処理でパンク寸前な私のキャパに余力が無いのだろう。


ふむ、どうやらみにばうくんはそわそわと落ち着かない様子で木の虚に身を隠しているらしい。

それを確認して、次に己の内に意識を向けた私はがっくりと肩を落とした。


「あれま、どうかいたしましたか。か?」

「あはは…やっぱり不完全みたいです。"記録"が保存されません」


こちらも悲しいかな昨日と変わらず。

今見ている視点は普段通り"記録"されているが、"広域記録"から抜粋して"記録"される筈の大元はダメみたいだ。

つまり現状はあれだ、録画をしているつもりなのに結局リアルタイムで番組を見なければいけないという…意味ないじゃん。


さすがにこれに関しては『記録』という能力そのものに関わる問題なので二人にはどうにも出来ない。私が解決策を見つけるまではお手上げだ。

それはそれとして、ウズウズして虚から出たり入ったりちょこちょこ動くみにばうくん可愛いな。


「辛ければもう切って良いですよ」

「いや…大丈夫。折角成功したんだし…」

発動したなら使わなきゃ損…なんて苦学生だった頃の私が顔を出す。

「ほほほ、しかし昨日より随分小規模でもこれ程の消耗があるのですね。ね?」

「元より実用向けでは無いのでは?…ん?」


四葉さんと会話していた三神が急に押し黙り、開示されている映像にずいっとそのお綺麗な顔を寄せる。

みにばうくんが隠れる一本の木とその周辺程度の映像には、特に彼の気を引くようなものは無いように思うのだけど…

笑顔を消した顔には険が滲み、少しの思考の間をおいて私に真面目たらしい様子で向き直った。


「すみませんが…今"怪異"の存在が記録されていないか索引とやらで確かめてくれませんか」

「え!?構わないけど、何で怪異???」

一番きついのは発動時だし、索引や開示は山積みになったデータを持ってくるだけだからさほど力の消費はない。

だから問題は無いのだけど…その対象が大問題である。


「ただの確認です。…確認で済めば結構ですが」

ぼそりと呟かれた声に不安しかない。

取り敢えず私は一度みにばうくんの『開示』をキャンセルし、自分の中の書庫に意識を向けた。

天井へ向けて塔のように積み重なり、しかし下の方は更々と消えていくページになりきらない紙達へ向けて力を紡ぐ。


「『索引(サーチ)』。対象"怪異"」


すると驚くことに塔の何ヵ所かが光を発し、するりするりと紙が抜き出されていくではないか。

「…うそ、ヒットした?」

驚きで呆然と呟く私の言葉に、三神はやはりと舌打ちを鳴らす。

しかも私の前に出来た束は…


「ヒット…五件」

「綴戯さん、開示をしてください」

合宿所には『学園』同様に怪異避けの結界が張られていると聞いていたのに何故と混乱する私に、三神は容赦無く『開示』を要求した。

そうだ、狼狽えている場合じゃないよね。


「一応言うけど、レーダーじゃないから居場所は分からないよ?」

「問題ありません」

「ほほほ、周りの風景で察しがつきますからね。ね?」

いや周りって全部同じような森では…?

それで場所特定出来るって、ある意味私の"記録"より凄くない?


まぁ問題無いと言うなら別にいいかと割り切り、私は五冊の本を浮かばせて別々の怪異を同時に『開示』した。

ぎょっと驚かれたが、先も述べた通りただの『開示』に使う力は微々たるものなのだ。


「あらま、本当にいますね。ね?二ツ星一匹にその取り巻きの一ツ星でしょう。結界に穴でも開いていたのでしょうか。か?」

「事前調査はどうなってるんですか。…七尾先輩!」

さっと映像で怪異を確認した三神が苛立ちを隠さず職務怠慢だと吐き捨て、二菜ちゃんと至くんを転がしていた七尾さんに声をかける。

その声色に何か感じるところがあったのか、彼は僅かに眉を寄せただけで理由聞くでもなく直ぐこちらへ合流してくれた。


「怪異が入り込んでいます」

「ア"ァ?怪異だと?…本当だな」

私の『開示』を見てクレバスのように深い溝を眉の間に拵えた七尾さんはがしがしと乱雑に己の後頭部をかく。


「合宿に先立って周辺の調査も怪異討伐の任務も全て終わってる筈じゃないのか」

「その筈ではありますが、事実は違うようで御座いましょう。しょう?」

「一ツ星は無限湧きしますから分かりますけど、二ツ星が残っているのはまぁ何かしらのミスでしょうね」

七尾さんはパソコンに疲れたリーマンがするように眉間を揉みほぐし、一つ息を吐いて丁度良いかと呟いた。


「熊ヶ峰、九重、喜べ追加訓練だ」

「「え"ーーーー!!」」


揃ってブーイングをする二人に擬似怪異も本物も大差無いと暴論を叩きつけると、七尾さんは三神や四葉さんと手早く話し合って改めて声をあげる。


「熊ヶ峰と九重は私と怪異の討伐に向かう。が、私は極力手を出さん」

「嘘でしょただでさえ疲労困憊な小生達をマジモンの怪異にぶつけるとか鬼ですか鬼ですね」

「安心しろ。ヤバそうなら助ける」

「安心出来ませんよぅ!!!」


きゃんきゃんと子犬のように抗議の声をあげる二菜ちゃんと言葉無くとも嫌ですオーラを全開にしている至くんをサラッとスルーして、七尾さんは何ともない顔で指示出しを続けた。

いや凄いな何その強靭なメンタル。『硬質化』でもされてるの???


「三神と四葉さんは結界の確認をお願いしたい、が…綴戯は…」

「私はロッジで待ちます」

「ああ。そうしてほしい」


人手が足りなそうなところに私の護衛なんかで人員を割くなんて申し訳無さすぎる。

せめて邪魔にならないよう安全圏で大人しくしとくべきだよね。ロッジには追加の怪異避けが張られてるらしいし。


「あ!そうだ!二菜達がお姉さんを守りますので七尾せんせーが討伐しちゃえば良いと思います!」

「そしたらこの後の訓練は例年の倍はやるぞ」

「綴戯さん小生達さっさと倒して戻りますのでロッジの中で待っていてくださいお願いします何かあれば叫んでくれれば小生には聞こえますので」


鮮やかな手のひら返しを見た気がするけど至くんの心配は本心みたいだから気にしない事にしよう。

まぁ誰しも訓練倍は嫌だよね。


「私が綴戯をロッジに送る。直ぐに追い付くからお前達は今から教える場所に先に向かえ」

「「了解(ラジャー)」」


一足先に結界の様子を見に行ったらしい三神達に続くように、七尾さんから端末で場所を示された二菜ちゃん達もその足を森へ向ける。


「二人共気を付けてね!いってらっしゃい」

「「…!はい!行ってきます!」」

その頼もしい背に無事を願って言葉を投げれば、嬉しそうに相好を崩して力強い返事をくれた。


二人を見送れば一気に静まる森の木々。

この嫌な感じは日光を翳らせる雲のせいだろうか、はたまた纏わりつくような湿度のせいか地面からむわむわと立ち込める熱のせいか、何故か鳴くのを止めた蝉達のせいか。


得体の知れないものが少しずつ積み重なっていく。

言い表せない不透明な何かが、根っこの不明な不安が水かさを増していくような感覚がして私は僅かに唇を噛んだ。


「綴戯?大丈夫か?」

「…あ!すみません、ぼぅっとしちゃって」


誤魔化すように七尾さんへ笑いかけ、もう一度だけ森に目をやる。

そこにはただ美しい自然が我が物顔で佇むのみだ。そう感じた自分に安心した。

さっき、ほんの少しだけ私の第六感が…死を敏感に感じるそれがざわついて、森が見知らぬ化け物に見えたような気がしたから。


「あ!七尾さん、時間が惜しいのは分かってるんですけど…あの…」

「はは!みにばうくん、だったか?あれを回収したい…違うか?」

「え!何で分かるんですか!?」

「お前が私達を見ようとしてくれるように、私も日々綴戯を勉強してるからな」

「うぐっ」


七尾さんが良い男過ぎて困る。

簡単にそういう言葉が言えるのは元来の素直さだろうか。

ふむ…大樹くんもこうなるのかな。


なんて気を紛らわせるような事を考えつつ、私はみにばうくんを回収しながらロッジへと送ってもらった。



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