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七年前のかくれんぼ

 〇〇県▲▲市ふき町。

 閑静な住宅地が広がるこの町の一画に、黒々とした山が鎮座している。


 不帰ふき山と呼ばれるこの山には、昔から神隠し伝説があった。

 老若男女問わず、山の付近にいた者が行方不明になるというものだ。それは天狗の仕業とか、はたまた、蓑ボウズや魔猿、山女の仕業と諸説あるらしい。

 とにかく、この不帰山には人智を超えた存在が住み着いているということで、町の人々、特に高齢の者ほど畏怖していた。


 そして、この忌み山の裾野には、冨貴ふき神社がある。ごくありきたりな神社ではあったが、不帰山を背にする本殿には、何とも言えぬ威圧感があった。


 前置きが長くなってしまったが、俺、早瀬総一は当時10歳の頃、この冨貴神社で仲の良かった四人とかくれんぼをしたことがあった。


 その時、未だ忘れることができないあの出来事が起こったのである。


 ◆


 その日、10歳の俺は、仲の良かった四人と共に冨貴神社にやって来ていた。


 野球が大好きな山越健太。

 クラス一の美少女、神田祥子

 冨貴神社の宮司の娘、山吹あかり

 そして、俺が一番仲良くしていた里中千佳。


 この四人と共にかくれんぼをすることになった。

 誰がそれを提案したのかは覚えていない。いつの間にかそうなる流れになっていた。


「それじゃ、総一が鬼な!」


 健太が俺を指して言う。

 じゃんけんに負けてしまった俺は、かくれんぼの鬼になっていた。


「でも大丈夫なのかな? 神社でかくれんぼなんて」


 不安そうに千佳が言う。彼女は少々臆病なところがあった。


「何いってんの? ここはあかりの家でもあるじゃん。友達の家で遊ぶことの何が悪いのよ」


 勝ち気な性格の祥子が千佳に詰め寄る。


「それともなあに? 千佳ちゃんはやっぱりここが怖いのぉ?」

「チキンだもんなぁ千佳は!」


 祥子はからかうような調子で言い、それに健太も同調する。


「やめなさいよ二人とも」


 そんな二人を窘めたのは、俺たちの中で最も大人びているあかりだった。


「千佳、少しくらいならお父さんも許してくれるから大丈夫よ」


 宮司の娘であるあかりは千佳に微笑みかけた。


 俺は千佳の耳元に口を寄せ、


「僕がすぐ見つけてあげるから心配ないよ」


 と小声で告げた。千佳は嬉しそうにコクリと頷いてくれた。



 それから四人は隠れる為にバラバラに散っていき、俺は社務所の外壁に向き直って目をつぶる。


 みんなどこに隠れるだろうかと考えながら頭の中で数えていると、ふと背後から妙な気配を感じた。


 ザッザッ、ズッ……ザッザッ、ズッ……


 微かではあるが不気味な音が聞こえる。それはまるで何者かが木々をかき分けて何かを引きずっているような音だった。

 その音は感覚的に本殿の裏にある不帰山から発されていることがわかった。

 途端に背筋にヒヤリとするモノが走った。祖父母からこの不帰山の神隠し伝説は聞かされていたからだ。


 しかし、その不気味な音はすぐに収まってしまった。気のせいだと思ってしまうくらいごく短時間なモノだった。


「も、もーいいかーい!!」


 不気味な音のことなど振り払ってしまうように俺は大きな声をだした。

 すると、


「もーいいよー!!」


 健太と祥子の声が返ってきた。しかし、千佳とあかりからの返事がない。

 そこで、少し待ってからもう一度声をだすと、今度はあかりからの返事があった。だが、千佳からは相変わらず返ってこない。


 もしかしたら上手く聞こえてないのかもしれない。そう思った俺は目を開けて他の子たちを探し出した。



「千佳のヤツ、どこに隠れているんだ?」


 それからしばらくして、俺は健太、祥子、あかりの順番で見つけていた。しかし、千佳だけは見つからない。そこでみんなで千佳の名前を呼んで回ったが、彼女は一向に姿を現さなかった。


「おーい、千佳ぁ! 僕の負けだからもう出てこいよぉ!」


 俺がそう呼びかけても全く反応がない。

 これはいよいよおかしいぞとみんな不安になってきた。


 俺は不帰山の方から聞こえた不気味な音のことをみんなに話したが、誰もそんな音は聞こえなかったという。


「お父さんたちに報せてくる!」


 宮司の娘であるあかりが慌てて社務所に駆け込み、大人たちに事情を説明する。

 千佳の保護者にも連絡が入り、大人たちによる捜索が行われた。その後、事態はさらに大きくなっていく。

 俺の不気味な音のことで不審者による連れ去れの可能性もあるとして、警察も呼ばれた。さらに、街の男たちの有志を募って不帰山の山狩りまで行われた。


 それでも千佳は二度と俺たちの前に姿を現すことはなかった。


 印象的だったのが、山狩りから戻ってきた男たちの顔だった。彼らはみな青ざめていた。まるで山の中の何かに生気を吸い取られてしまったようだ。


 その中には総一の祖父の姿もあった。

 俺は山で何があったのか聞き出そうとしたが、祖父は首を振って一言述べるだけだった。


「総一、二度とこの山には近づくな」


 それから二年後に、祖父は亡くなった。最後まで俺に山に近づくなと言い残して。


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