理想を語ってみた
「クロエちゃん」
お店を出て大通りに出たとたんに声をかけられた。
一度は聞こえなかったふりをしたが、再度、声をかけられて仕方なく振り向く。
そこにはアレクとの初めてのデートを邪魔してきた自称イケメンがいた。
またコイツか。
「クロエちゃん、1回でいいから俺とデートしてみてよ。絶対、後悔させないからさ」
護衛の元冒険者の人が2人ついていてくれるが、見えていないかのようだ。
あまりしつこいしチャンスくらいは、などという甘い考えも一瞬浮かぶが絶対後悔することはわかっている。
顔も態度も好きじゃない。
コイツにはパーソナルスペースというものがないのか。
あまりに近づくので護衛の人が間に入ってくれる。
「話してるだけだろ、どけよ」
あぁ、やっぱり態度悪い。
護衛の人の後ろから顔だけ出して言ってみる。
「何度も言ってるけどタイプじゃないの。いい加減諦めて」
「だから1回だけ!デートしてみればわかるから!」
その自信は、どこからくるんだ。
もう1人の護衛の人に背を押されて先に進む。
自称イケメンは護衛に阻まれている。
アレクと恋人関係になったことが広まれば広まるほど声をかけてくる人が増えてきた。
「アレクシスさんに話した方がいいよ」
「うーん、そうです、かね」
「俺なら恋人に頼られたら嬉しいし、困っていることがあるのに何も知らされなければ寂しいと思うから」
なるほど。
アレクもそうかもしれない。
そんなわけで相変わらず人の少ない時間帯にやってきたアレクに食事が済んだ後、「聞いて欲しいことがある」と2階に場所を移して話してみることにした。
食事の後なのでお茶だけ入れるとソファに並んで座る。
わたしは、アレクを恋人にしたことが広まり始めた頃から声をかけられることが増えたこと、街中、人が大勢いるところ、護衛がいてもお構いなしに言い寄ってくるヤツが出てきたこと、パパの目の前でも、そういうことがあること、を話した。
「まだ、身の危険を感じるほどのことはないけど、ちょっと...どうしようかな、てパパとも話しているところなの」
「わかった...。話してくれてありがとう」
「ううん。良かった、話して。これだけで少し安心できたから不思議だね」
アレクは、ぼーっとしたようにしていたが突然、頭を抱えて下を向いた。
両膝に両肘をついて突然の頭痛!?
「アレク、頭痛いの?大丈...」
「違う。違うけど。違うけどさ...。2人きりのときに、あんま可愛いこと言うの...禁止ね」
「え?可愛いこと? ...何か言ったっけ...?」
アレクが金髪の隙間から見ているのがわかって、ドキッとする。
「...何かされてもいいなら.....とうぞ?」
「な...何か?」
「でも、ここは、すぐ下に親父さんいるしな。もうすぐ成人とは言え、まだ成人じゃないしな...」
「でも、ここは...の次、何て?ごめん、よく聞こえなかった」
「いや、俺がしっかりすればいいって言ったんだ」
もう少し何か言っていたような気がするけど言いたくないか、聞かれたくないことなのかな?
「まぁ、それは考えるとして。クロエは、あと何人くらい恋人、とか、まぁ、ゆくゆくは結婚...、ンン。とか考えてるの?親父さんは何か言ってる?」
「んー。あまり増やしたくないんだよね」
「どうして?」
「複数の夫を平等に、とか難しそうで...」
「あぁ...、やっぱそうだよな。新しい恋人とかできたら、そっちいっちゃうよな」
「それ。やっぱり嫌な気持ちになるよね?そういうのも抵抗があるっていうか...。実は、わたしの理想は夫1人なんだよね」
「...1人!?」
「大丈夫!うん、わかってるの。普通に考えて無理な話よ。財力と権力を兼ね備えたような人じゃなければ無理なことってことくらい、わたしにもわかってるから大丈夫。だから理想。夢みたいな話よ。仮に、そんな相手を見つけることができたとして周りが許すかどうか、て言ったら、やっぱり他にも夫を持つように言われるだろうしね。でもねー、やっぱり少ない人数に抑えたいのが本音ね。わたしのママも、パパと伯爵様だけなの」
夢見る乙女みたいで恥ずかしくなって一気に捲くし立てるように話してしまったが、呆れてないだろうか。
うん?呆れてはいないみたいだけど何か考えこんじゃった。
「アレク?」
「...クロエは俺1人でもいいと思ってるの?」
「...え、と。平民の女の子には夢物語だってわかってるから大丈夫だよ?」
「俺1人で良いか、良くないか、だけで教えて?」
真剣なアレクに思わず「いい、です。アレク1人が、いい」と言ってしまう。
その瞬間、アレクに苦しいくらい強く抱きしめられた。
「ありがとう。絶対幸せにする。大事にする」
わたしはアレクの肩口に埋まりながら幸せな気持ちで「うん。わたしもアレクを幸せにしたい」と言った。
もう短編は諦めた_( _´ω`)_ペショ