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クロエの場合  作者: Akira
8/17

ピクニックデートしてみた



パパへの挨拶も済んで、わたしとアレクは親公認の恋人となった。

そして、今日はデートです。

「次のデートは馬に乗るからズボンでね  おやすみ 愛してる」とメッセージが届いた。

なんと風属性持ちは、こんなこともできるのだ。

わたしはできないから一方通行だけど。

アレクは、付き合うことになったときに一度だけ「好きです」(きゃー)と言ってくれたけど、それっきり言葉にはしてくれない。

でも、メッセージだと風で送られてくる小さな紙に『愛してる』とか『好きだよ』とか書いてある。

くーっ。なんか、なんかムズムズするってゆーか、バタバタしたくなっちゃう。

どんな顔して書いてるんだろ。

もちろん、小さなメモは全て取っておいてある。



そして馬上。

わたしはアレクの前に乗せてもらっている。

最初は高さに怖くなったけれど後ろからアレクがわたしの手をトントンとしながら「大丈夫、支えてるから。怖がると馬に伝わるから落ち着いて」と言ってくれた。

これはクる。

固いくらいたくましい胸板。大きな手。落ち着いた低い声。

イケメンは微に入り細に入りイケメンでした。

わたしは乗ってるだけだったのだけれど結構疲れた。

お店を手伝っているから体力はある方だと思っていたけど甘かった。

街を出て丘の上に来た。

街は、そう遠いわけでもなく眼下に人が行き交う様子も見える程度の場所だ。

アレクは足がダルくなってしまったわたしをさっと広げたシートに座らせてランチの準備をしてくれている。

手伝おうと思ったが、かえって邪魔になりそうなくらいテキパキとしている。

さすが冒険者。


「ありがとう」

とお礼を言うだけでアレクはにっこり微笑んでくれる。

ランチには温かいスープまでついている。

保温性の優れた容器のお陰だが、これって凄く高いものじゃなかったか。

そう思って聞くと彼のお父さんからランク昇格のお祝いでもらったとのこと。

さすが伯爵様。

あー、残念だ。

彼が嫡男でないことが。


それにしても眼下に広がる街並みを眺めながらのランチなんて贅沢だ。

ここからはパパのお店は見えないけれど知っている風景が見える。

魔物が出てもおかしくないような場所なので人もいない。

アレクが魔物除けの薬草を持っているし、この程度の場所は新人冒険者がソロでも来れるようなところなので来たのだが、それでも女の子が1人で来れるような場所ではないので開放感が凄い。

人の視線もないしパパ公認となったのでパパも今度はついてきていないはず。

現役のパパならわからないけれど、今のパパとアレクなら絶対アレクの方が強いよね。

そんな開放感から、わたしは「あーん」をしたくなったのだ。

フルーツを1切れフォークで刺すとアレクの口元に「あーん」と言いながら持っていった。

「え?」

「やってみたかったの。食べて?」

目を大きくしていたが、みるみる赤くなっていく。可愛い。

「...うん」

アレクは恥ずかしそうにしながらも食べてくれた。

わたしは、もう1コ、と別のフルーツを刺して再度、アレクの口元に持っていこうとしたが手を取られて逆に、わたしの口元へ持ってくる。

「ん。食べて?」

この世界では女性が男性に食べさせる、というのは、まず聞かない。

普通、食べさせる、ということから連想されるのは小さな子供に大人の男の人が食べさせる、または男性が女性に食べさせる、この2択だ。

けれど、わたしは押し寄せたおかしな情報のせいで食べさせられることに羞恥がありパパからも早々に止めてもらった。

パパは、とても残念そうで哀しそうにしていたけれど知らん。

哀しそうなパパに折れて、ときどき食べさせてもらうけれど数口で断ることにしている。

アレクは、わたしの手を持ったまま待っている。

わたしは自分の顔が赤くなるのを感じながらも、それを口にした。

アレクは非常に満足そう。

「あのね。わたし、あまり食べさせられるの好きじゃないの。なんか恥ずかしいのが先にたっちゃって...」

「そうなのか?それなのに食べてくれたんだ」

「だってアレクだし。初めてやってくれたから断れないよ」

アレクは後ろを向いてしまった。

そのうち、手を拳にして自分のおでこをゴンゴンやり始めた。

「な、何してるの?...アレク?大丈夫?」

アレクはゆっくり振り向いて少し赤くなった額をして言った。

「大丈夫。ちょっと我慢が必要だっただけ」

「我慢?」

「ん。こっちの話」

まぁケガにはなってないようだしいいか。わたしはフルーツに視線をやる。

まだ残っている。

わたしは、またフォークに刺すと差し出しながら「食べる?」と聞いてみた。

「.....クロエは俺を試してるの?」

「試す?何を? あぁ、わたし食べさせられるのは恥ずかしいけど食べさせるのは楽しいみたい」

アレクは赤くなった額を指で撫でながらフォークに刺さったフルーツを見ていたが結局食べてくれた。

恥ずかしそうにしているのが可愛い。

それを見ながら自分の口にもフルーツを運ぶ。

なるほど。パパがわたしに食べさせたがっていたのは、こういうことか、と思った。


でも、残っていたフルーツは全部わたしが食べさせて、そして食べた。

食べさせてもらうのは次回以降にしよう。




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