笑顔のお陰で勇気だしてみた side アレク
デート当日だ。デート...。
はっ。いかん、にやにやすると更にブサイクに拍車がかかる。
俺は約束の1時間前にはクロエちゃんの家の近くまで来ていた。
昨夜は寝付くのにも時間がかかり、何度も目が覚めた。
朝方、もう寝るのは諦めて起きることにした。遅刻はできない。
落ちつかないので鍛錬をして時間を潰す。
シャワーを浴びて準備をするが、まだ時間には早い。
でも、やっぱり落ち着かないので出かけることにした。
クロエちゃんは、店にいるときよりお洒落しているのがわかった。
俺のためにお洒落...。
またニヤけそうになるが必死で顔を整える。
クロエちゃんの隣でニヤニヤしていたら完全に不審、いや犯罪者だ。
今日は、やけに視線を感じる。
やっぱり隣に、こんな可愛い女の子がいると違うな。
女の子連れを見ると思わず目で追ってしまう自分を思い出すが、今日は追われる側だ。
俺は人の少なさと落ち着く雰囲気が好きだった店にクロエちゃんを連れて行く。
だが、ここでクロエちゃんが俺に付き合わされていると勘違いした店員に気付かされることになる。
可愛い女の子を連れている、だから注目されていた。それは間違ってない。
でも羨望ではなかった。不審な目で見られていたんだ。
クロエちゃんのお陰で誤解はとけたが胸に鉛が落ちたように重くなる。
店を出て武器屋へ向かう。
武器屋に入るとクロエちゃんはキョロキョロと辺りを見回している。初めて入るのかな。可愛い。
クロエちゃんが誰かに話しかけられてる。
だが、すぐに俺の傍にきて「これ、なんですか?」と聞いてきた。
飛び道具はなくすこともあるから、買う頻度としては高い方だ。
まぁ大体は風を使って探すんだけど。
クロエちゃんは欲しいものが見つかるまで付き合う、などとにこにこしている。
それなら、ずーっと見つからなくてもいい、と思いながらも、そんなわけにはいかないのでクナイを1セット買ってもらうことにした。
これ、使う日あるかな...。お守りにしよ。
買うことができて満足なのか笑顔のクロエちゃんと店を出たときだ。
「きゃ」という小さい悲鳴をあげクロエちゃんが仰け反った。
慌てて背中を支える。
さっきクロエちゃんに話しかけていた男だ。
何故か怒っている。
だが俺が言い返すより早くクロエちゃんが言い返す。
「あなたに関係ないでしょう?今、デート中なの。邪魔しないでね」
「...は?」
「その細い目で良く見て」
あ。
俺はクロエちゃんを抱きしめるようにしていたことに気付く。
その瞬間、いい匂いだとか温かいこととか柔らかいこととか、いろいろとわかってしまって離そうとしたがクロエちゃんが腕を掴んで離れない。
な、なんで?
しかも、そのまま歩き出す。
腕に全神経が集中するのがわかる。
落ちつけ、落ち着け、俺。
クロエちゃんが話しかけてくれているのに腕が気になって仕方ない。
ときどき、ふに、と、より柔らかいものが腕に触れる。
どうしても、ちらちらと目がいってしまう。
ダメだ、ダメだぞ、俺。
ここで手を出したら絶っっっ対、捕まる。
そんなふうに葛藤していた俺だったが、気づくと土手に来ていた。
腕も解放されて深呼吸する。
あぁ、天国のような地獄のような天に召された気分だった。
しばらくクロエちゃんも俺も無言でぼーっと辺りを眺めていた。
こんな穏やかな気持ちになるのは、いつ振りだろうか。(さっきまでは嵐の中にいた気分だが)
隣に座るクロエちゃんを眺める。
俺の隣に躊躇なく座るんだな。
俺の隣にいながら、警戒するふうでもなくびくびくするでもなく軽く笑みを浮かべているんだな。
望めるなら望んでもいいのだろうか。
クロエちゃんが受け入れてくれるなら俺はクロエちゃんの手を取っても許される?
思わず、クロエちゃんの手に触れようとしたとき背後から刺すような視線を感じた。
あー、これ、多分、親父さんだ。
最初は、いろんな視線があってわからなかったけど、ここに来てわかった。
俺、見張られてるわ。
当然だよな、娘がデートに行くなんて言ったらそうなるよ。
あの親父さんなら見張らないわけがない。
俺は手を引っ込めて話をすることにした。
するとクロエちゃんには夫どころか婚約者もいないことがわかる。
まぁ、成人してなければ結婚できないことになってるから成人してないというクロエちゃんに夫がいないのはわかる。
でも成人間近で婚約者もいないなんてマズくないか!?
こんなことしてる場合じゃない、と思ったから率直に言ったんだが...。
「アレクシスさん、 ...わたしとお付き合いしてみません?」
...なんて言った?
俺は息も止めていたようだ。
「何か言って...」と恥ずかしそうに小さな声で言われて息を吐きだす。
「あ、あぁ...。 なんて言った?」
「えーっ!もう1回言えと!?」
顔を赤くするクロエちゃん。可愛い。
可愛いクロエちゃんを堪能していたら「あのね? ...わたしと付き合ってみる気ないかなーって」と言う。
あ。もう一度言えってことになっちゃったのか。
悪い、と思いつつも言ってくれるクロエちゃん、可愛い。
でも...。
「.....なんで、...俺?」
聞いてしまう。
俺より、いいヤツなんていっぱいいる。
でもクロエちゃんは俺を初めて「いい」と思えた男だと言う。
「いいの?俺で。ガッカリするかもよ?」
「アレクシスさんこそ、わたしにガッカリするかもですよ?」
「俺はしないと思う」
即断だ。
「...なんで、そんなこと言えます?」
「あなたみたいな女の子、かなりレアだよ?全然我儘言わないしお父さんのお店を手伝ったり、お礼にって男にプレゼントなんてあげようと思ったり俺なんかに帰らないで、とか言っちゃうし、お、俺に、つき、付き合わないか、とか言っちゃうような子」
そうなんだ。
クロエちゃんは凄くいい子でレアなんだ。
「そんなに褒められると照れちゃいますね」
この程度で照れちゃう女の子なんだ。
2人して何とも言えない空気になっていたが、クロエちゃんが「あ。そーだ。お菓子買ったんだった」と言って揚げ菓子を渡してくれる。
いつ買ったっけ?
とりあえず、もう買ってしまっているしクロエちゃんに御馳走になることにする。
何で返すか考えながら揚げ菓子を2つに割ってクロエちゃんに渡す。
交換した揚げ菓子を再度2つに割って食べる。
「うん、美味い」
「こうやって食べるんですね」
「いや、俺も初めて食べるから正しいかわかんねぇ」
「え?」
「まぁ、いんじゃね?食えれば」
ふと見ると落ち着いてきたはずのクロエちゃんが、また赤くなっている。
指摘すると更に赤くなる。
「...なんか、よくわかんないけど、カッコいい」
「え?」
「口調も少し変わったような気がする...」
「あ...。ごめん。冒険者なんかやってると、どうしても、な...。なんか、ちょっと気が抜けて...」
どちらも本当だ。
冒険者なんて皆、上品とは言えない。
気が張っていたのが、すっと抜けたようなのも本当だ。
「ううん、それも、なんか、いい...」
「...そ?」
帰りは手を繋いで帰った。
もう視線も気にならなかった。
帰る寸前までの親父さんの視線以外は、だが。
親父さんの視線がなくなった辺りで言った。
「俺は、こんなだけどあなたを守れるくらいには強いと思う。これからも頑張るから、よろしく、お願いします」
クロエちゃんは、すごくいい笑顔で「はい」と返事をしてくれた。
だから勇気を出せた。
「好きです」
この後、俺が全力疾走で帰ったことは言うまでもないよな...。
甘い空気には、どうしたらなれますかねぇ?
ついでに短編て、どうやったら書けますかねぇ?