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クロエの場合  作者: Akira
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本気出して探してみた side アレク



あれはクロエちゃん。


クロエちゃんは俺が気に入っている食堂の娘さんで、父親の手伝いをしている、かなりレアなタイプの女の子だった。

俺にもビビることなく話しかけ料理を運んでくれる。

どんなヤツにも笑顔で対応するため食堂は大繁盛していた。

俺は、それでも客の少ない時間帯をねらって通っていた。

もちろんクロエちゃん目当てで。

と言っても何を狙うでもない。ただ会いに行っていただけだ。


そんなクロエちゃんが護衛らしき男たちと一緒に焦ったように1軒の店に入っていく。

何かあったのか?

護衛がいるんだから大丈夫なはずだけど、気になって出てくるのを待っているとクロエちゃんたちは、すぐ出てきた。

男たちが「もう少し探してみよう」とか「周りのヤツらにも声をかけてみよう」とか話しているのが聞こえてきた。

クロエちゃんは明らかに肩を落として俯いてトボトボ歩いているように見えるが目は忙しなく動いている。

何か探しているようだけど...。

思い切って声をかけてみた。


「...あの、どうしたの?」


クロエちゃんは、やっぱり俺にも普通に接してくれるレアな女の子だった。

母親にもらった髪飾りをなくしてしまったらしい。

特徴を聞いて俺も探す、と言ったが、ほとんど諦めてるようだった。

寂しそうに「ありがとう」と言うクロエちゃんを見て俄然やる気が出た。

俺は風属性を持ってる。

魔力量は多いわけでもないが探し物は得意だ。

風を使ってクロエちゃんの気配を追う。

強い気配はクロエちゃん本人になってしまうから弱い気配を追う。

途中で魔力が尽きてしまったが持ち歩いていた魔力回復薬を飲んで続行した。

魔力回復薬はアニス皇女のお陰で、ここ数年で、かなり出回ることになり、俺のような冒険者に重宝されている。

少し高いがクロエちゃんの寂しそうな顔を思い出して、回復薬をぐいっと煽る。

持っていた3本を空にしたときに1軒のボロい家の前に辿りついた。

ココだ。

だが、夜も遅くなり、魔力も少なく体にだるさを感じている状態ではマズい。

こんな時間に売りに出されることもないと踏んで明日の朝早くに出直すことにした。

そこには年のいった男と、その息子が住んでいた。

始めは髪飾りなんて知らない、と言っていたが気配を辿り隠し場所を見つけると観念したのか、爺さんが息子をクロエちゃんの夫の1人に加えてもらおうとしていたことを白状した。

はぁぁ?お前、いくつだよ。

クロエちゃんは、まだ成人してるか、してないかってところだ。

第1、第2なんて贅沢は言わない、なんて言ってるがクロエちゃんの倍、いや3倍くらいの年じゃないのか?

俺が蔑みの目で見ていると「お前みたいな醜さの若いヤツよりマシだと思う」などと言う。

強く否定もできず家を出て、持ってきたハンカチで髪飾りを包む。

なるほど。コレで結婚を迫る、いや、迫らなくてもお近づきになれる、てこともできるのか、と思ったが、そんな汚いことはしたくない。

俺みたいなのは、なりふり構ってられないところなんだが、とうに諦めてる。

クロエちゃんの笑顔だけでいいさ、と思い直し食堂に向かった。

良かった、クロエちゃん本人もいる。

まだ店は開いたばかりの時間だったが既に客でいっぱいだ。

朝食をとるためなんだろうが、多くの視線がクロエちゃんに向かっている。

俺はクロエちゃんに髪飾りを包んだハンカチを差し出した。

思った通り、いい笑顔を見せてくれた。

お礼をしたい、と言ってくれたが「君の笑顔だけでいい」と.....言えなかったヘタレな俺は、そそくさと店を出た。



それで終わりだと思っていたのに昼をだいぶ過ぎた時間に行くとクロエちゃんが自分の食事を持って俺の隣に座る。

「ここで一緒に食べてもいいですか?」

驚いて食べていたイモが喉に詰まりそうになる。

クロエちゃんが水を差しだしてくれたので一気に飲んだ。

水も詰まりそうになったが、クロエちゃんの手前、これ以上みっともないところはナシだ。

根性で飲み込む。

ごきゅっと音がする。

「アレクシスさん、お礼、思いつきました?」

髪飾りのことだろう。いいって言ったのに。

「お、お礼なんて、やっぱりいいよ」

「わたしからお礼なんて迷惑?」

ええっ。そんなわけないだろ。

女性からのお礼を迷惑なんていうヤツ、しかもクロエちゃん相手にいるか?

いねーな。

「迷惑なんてっ。そうじゃなくて俺なんかに、そんな気を使わなくていいっていう意味で...」

「じゃぁ、わたしが勝手に決めちゃいますね。てなわけでデートしてください」

「...は?」

耳を疑った。

が、店内がざわざわして親父さんの視線を感じる。

「何か欲しいものとかないですか?プレゼントしますよ」

「プレゼント?...女性のあなたが、男の俺に?」

「そうです。パパからお給料もらってるから、その範囲内でお願いしたいですけど」

「そんな、女性に何か買わせるなんて...」

「いつがいいですか?わたしはいつでも大丈夫です」

「俺は特に予定なんて、ないようなものだから」

「じゃぁ明日でもいいんですか?」

「あああ、明日!?」

「わたしは明日でもいいけど、ちょっと急すぎますよねぇ。じゃ明後日。明後日はどうでしょう?何か予定ありますか?」

「ないけど。でも俺は、こんな」

「決まりっ!明後日、ランチも一緒にしましょ?どこかで待ち合わせますか?」

「いや、待ち合わせなんて、そんな!」

「待ち合わせじゃなければ迎えに来てくれるんですか?」

なんだか、どんどん話が進んでいく。

結局、明後日、俺がクロエちゃんを迎えに来てランチを一緒にとり俺の買い物をすることになった。

その間、ずーっと親父さんの視線が離れなかった。


更に店を出るときにクロエちゃんに日時を書いたメモを渡された。

本気なのか?

いいの?こんなことして。俺が本気になったらどうするんだ?

俺が本気になったら怖いと思うんだけど。




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