デートに行ってみた
アレクシスさんは定刻ぴったりに迎えに来てくれた。
わたしが最初に思ったことは「良かった、来てくれて」だった。
いつもより時間をかけて食事を終えてお店を出ようとしたときにメモを渡した。
「忘れないでくださいね?」
と言ったら大きい目を更に見開いてメモと私を往復させていたから。
「パパ。行ってくるね」
パパは黙って頷いた。
お店は人の多くなってくる時間帯だったから裏から出る。
「さて、とりあえずランチに行きますか?」
「ん」
「どこに行くか決めてました?」
「あ、うん。気に入るかわからないけど美味しいんだけど奥まった所にあるから、いつもそんなに混まないとこ」
「いいですね!隠れた名店みたい」
「...そんないいとこじゃないけど良かった」
アレクシスさんと並んで歩くけど、いつもより注目度が高い。
なんで?
アレクシスさん、そんなに有名人なの?
大通りから外れて、人通りは、そんなにないけど、やっぱりすれ違う人にいちいち見られてるようだ。
「ここ」
「ここ?」
わからなければ通り過ぎてしまうような地味なドア。
はっきりわかる看板もない。
ドアに店の名前が書かれていたけれど薄くなって読めない。
混まないのもわかる。
中に入ると外からのイメージとは全然違ってシックな心地いい空間だった。
「ここ、でいい?」
「はい」
少し奥まった所にあるテーブルにつく。
カウンターの中にいた男性と目が合う。
男性は、はっとしたように出てくると小声で言った。
「助けが必要なのでは?」
どゆこと?
「アレク。嘘とか騙すとかはダメだ。脅迫は、もっとダメだ」
アレクシスさんは一瞬キョトンとして深いため息をついた。
「...そーゆーことか。違うよ。えっと、髪飾りを届けたお礼に何かプレゼントしたいって彼女が言ってくれたんだ」
「これがプレゼント?」
「違います。どうせならデートしよう、と思って、わたしがランチに誘ったんです」
「え?デートだって?」
「はい」
「デートって男女のデート?」
「...わたし、男に見えます?」
「いやいや、とんでもない。可愛い女の子に見えてるよ。じゃなくてデート?脅されて一緒にいるんじゃないの?それなら正直に言うんだ。あなたを逃がすくらいなら何とかできると思う」
「...失礼ですよ。アレクシスさんにも。わたしにも」
わたしは男性を睨みつける。
「アレク...?」
「大丈夫。犯罪じゃないから。もう戻って」
男性はカウンター内に戻ったが、ちらちらとこちらを見ている。
「今日は、やたらと見られてると思ったんだ。可愛い人を連れているからだと思ったけど、あまりに不釣り合いなせいだったんだな」
可愛いって!可愛いって言ってくれたよ。と手放しで喜べない。
俯いたアレクシスさんの頭を見つめる。
金の髪がさらさらと流れている。
この国では珍しいわけでもない金髪だがイケメンの力だろうか。
特別に見えるから不思議だ。
「アレクシスさん。何か言われても、わたしが言い返します。今日は、わたしがお願いしてデートしてもらってるんだもの。嫌な思いさせてごめんなさい。だから帰るとか言わないでほしいんだけど...」
アレクシスさんは、ゆっくり顔を上げた。
「なんでも好きなの頼んでいいよ」
良かった。
「はい」
食事を終えてお店を出る頃にはお店の男性の誤解もとけたようで出るときにアレクシスさんに謝っていた。
食事代は、どうしても、というアレクシスさんがご馳走してくれた。
わたしがランチに誘ったのに申し訳ないが、この世界では女性が払うなんてあり得ないことだった。
食事しながら、どこでプレゼントを買うか話して、とりあえず武器屋へ行くことにした。
初めて武器屋に入ったが、店内は広くて冒険者らしき人たちが品物をみたり店員と話したりしている。
珍しいのでキョロキョロしていたら声をかけられた。
「クロエちゃん。今日はどうしたの?こんなとこに珍しいね」
パパのお店の常連さんで、自分のことをイケメンだと思っているのか「夫候補に俺なんかどう?」とよく言っている、ちょっとめんどくさい人だ。
「...ちょっとね」
説明するのも面倒で、それだけ言うとアレクシスさんの傍に行く。
「え?誰と来てるの?そいつじゃないよな?」
「彼と来てます。彼にプレゼントしたいの」
「彼!?彼って...」
「デートなの。邪魔しないでね?」
固まっているふうの自称イケメンを放置してアレクシスさんに聞く。
「何かいいのありました?」
アレクシスさんの前にあるものを見ると小さなナイフの先みたいなものが並んでいる。
「これ、なんですか?」
「クナイっていう飛び道具」
「へぇ、これが?」
よく見ると少しずつ形や大きさが違う。
値段が書いてあってセットにするとお得、とある。
これなら、わたしのお小遣いでも買える。
「そう言えばアレクシスさん、飛び道具も得意って聞きました。これにしますか?」
「...本当に買うつもり?」
「はい!欲しいものが見つかるまで付き合いますよ?」
「じゃぁ...、コレにする」
「わかりました。どうせならセットにしましょ?お得みたいだし」
「ん」
店員さんにお金を払って店を出る。
だが、出たところで後ろから肩を掴まれた。
「きゃ」
思わず後ろに仰け反るようになってしまうわたしの背をアレクシスさんが支えてくれる。
誰よ!と、むっと振り返ると、さっきの自称イケメンだった。
「女性に乱暴なことはよせ」
アレクシスさんが守るようにして言ってくれるが自称イケメンは怒ったように言い返してきた。
「それは、こっちのセリフだ。どうしてお前みたいなヤツと一緒なんだ。なんで武器なんて買ってもらってる。どうやった?」
「あなたに関係ないでしょう?今、デート中なの。邪魔しないでね」
「...は?」
「その細い目で良く見て」
わたしはアレクシスさんに軽く抱き込まれるようにしている。
支えてくれた背を引き寄せれば、そうなるよね。
ちょっと嬉しい。
イケメンと、こんな至近距離は生まれて初めてです。
「あ!?」
アレクシスさんは、わたしを離そうとしたが、わたしはアレクシスさんの腕を掴む。
「わかりましたよね?じゃ、もういいですか?行きましょ?」
わたしはアレクシスさんの腕に掴まったまま先へ促す。
早く、コイツから離れたい。