デートに誘ってみた
「アレクシスさん、お礼、思いつきました?」
食べる手を止めて彼を見る。
髪飾りを探して持ってきてくれたときに初めて名前を知った。
そしてお礼をする、と言ったのだがお礼は不要だ、などと言うので考えておいてくれ、と言ってあったのだ。
逃がさないよ?
「お、お礼なんて、やっぱりいいよ」
「わたしからお礼なんて迷惑?」
ずるい言い方だが引き下がる予定はない。
「迷惑なんてっ。そうじゃなくて俺なんかに、そんな気を使わなくていいっていう意味で...」
「じゃぁ、わたしが勝手に決めちゃいますね。てなわけでデートしてください」
「...は?」
店内にいた少ないお客さんの方からガタガタいう音が聞こえた。
振り向くと、みんな、こっちを見ている。
お客の少ない時間帯だから、わたしの声は筒抜けのようだ。
別に構わない。
「何か欲しいものとかないですか?プレゼントしますよ」
「プレゼント?...女性のあなたが、男の俺に?」
「そうです。パパからお給料もらってるから、その範囲内でお願いしたいですけど」
「そんな、女性に何か買わせるなんて...」
「いつがいいですか?わたしはいつでも大丈夫です」
どんどん話を進めちゃう。
「俺は特に予定なんて、ないようなものだから」
「じゃぁ明日でもいいんですか?」
「あああ、明日!?」
「わたしは明日でもいいけど、ちょっと急すぎますよねぇ。じゃ明後日。明後日はどうでしょう?何か予定ありますか?」
「ないけど。でも俺は、こんな」
「決まりっ!明後日、ランチも一緒にしましょ?どこかで待ち合わせますか?」
「いや、待ち合わせなんて、そんな!」
「待ち合わせじゃなければ迎えに来てくれるんですか?」
「む、迎えに?俺が?」
「アレクシスさんが来なかったら誰が来るんです?アレクシスさんとデートなのに」
「デデデデ、デート。本当に、お、お、俺と、その、するつもり、なの?」
「楽しみです。プレゼントも考えておいてくださいね」
ヨシ。約束を取り付けた。
わたしは満足してパパの美味しいご飯を食べ始めた。
横を見るとアレクシスさんの手は止まったまま。
大丈夫かな。帰るときにメモに日時を書いて渡しておこう。
冗談だと思った、とか言われてすっぽかされたら泣く。
その夜、パパのお友達の冒険者さんが2人きて、彼、アレクシスさんのことを教えてくれた。
本人のことは本人の口から聞きたいな、と思うがパパにも頼まれたらしい。
ま、仕方ないね。
娘LOVEなパパだし、ヤバい男にひっかかったりしたら大変だと心配になるのもわかるもの。
でも第一段階はパスしたことを知っている。
そうでなければ、わたしがデートに誘うのをスルーなんてしないもの。
彼は5年くらい前から冒険者として頑張っているらしい。
始めの頃はパーティを組んでいたけど慣れてきたころからソロでやるようになってきたという。
剣の腕がたち、飛び道具も得意、その辺の石でも彼には十分武器になるようだ。
凄い、けど怖い。
彼は本当に強くてソロでA級手前まできてるらしい。B級でも十分凄いのに。
そして、なんと彼は貴族だった。
伯爵家の次男。
残念。長男なら次期当主でしょ。そしたら夫を彼1人にできたかもしれないのに。
やっぱ運ないのかな。
「でもさ?本当にいいの?あの人、この辺ではちょっと有名だよ?貴族で強くてブサイクって」
「お礼って言ってたけど前に荷物運んでもらった、ていうことのお礼は普通にジーンの店でタダ食いさせただけだったよね」
「あの人のことを本気で夫にしてもいいと思ってる?」
「そうだよ。風の力を使って髪飾りを見つけたって何でもないように言ってたけど、そんなに魔力もたないもんでしょ?よくわかんないけど」
「まぁね。無理したと思うよ」
「すごくいい人じゃない。わたしだって、ほとんど諦めてたのに。わたしなら一応探してみるけど見つからなかった、ゴメン、てなる程度だよ」
「うーん。下心が全くない、とは言えないと思うけど...」
「下心ねぇ。でもお礼のデートだって強引に約束取り付けたような感じだったよ。下心あったら、ほいほいのるもんじゃないの? ね?やっぱりいい人だよ」
「まぁいい人なのは認めるよ。でも男に簡単にスキ見せちゃダメだからね?」
「はーい」
「あぁ、心配だ。やっぱり俺がついて...」
「ついてきちゃダメ。デートなんだから。アレクシスさん強いんでしょ。わたし1人くらいなら守れるでしょ。そんな危険な所に行くわけじゃないんだから」
「いや、本人が危険な場合は...」
「とにかく!嫌だったら逃げるしデートだって、もうしないよ。街中で女に悲鳴上げられたら相手の男は社会的におしまいよ。大丈夫だってば。いい?ついてこないでよ。パパにもよーく言っておかなきゃ」
あー、ホントに楽しみになってきた。
何、着て行こうかな。
おやぁ?短編になる予定が...。
すぐ甘くなる予定が...。
甘いの書くのが難しいよぅ。