相談してみた
結婚式は半年後となった。
結婚後に住む皇都の邸はラグランジュ伯爵が結婚祝いとしてプレゼントしたいと言ってくれて既に購入済みだ。
プレゼントの域、なんかいろいろと超えてね?
家財道具もラグランジュ伯爵家で使われていないものから何でも持っていっていい、と言われている。
いや、なんでもって...。
アレクが言うには「俺が結婚できることが嬉しくて何か外れてるみてぇ。外れてるうちに貰えるもんは貰っとこう。兄上と違って俺は家を出たから、あまりしてあげてない、みたいな負い目も感じているみたいだし。いーんだよ。それにクロエのことをかなり気に入ってるから俺がどうこうというよりクロエに良く思われたいっていうのもあるんだろ」だって。
うーん、わたし(平民)の感覚で口を出したりとかは失礼になるかと思っていたから、あまり言わないでいたけどいいのかな。
そして、今日はラグランジュ伯爵邸でお勉強の日だ。
週に3回、家庭教師の先生から教えを請うことになっている。
お勉強が済むとアレクとお茶をするのだけれど、これが楽しみ。
一応、授業の一環ということになっているけれど忙しくなってしまったアレクと会えるのは送迎の馬車の中と、お茶の時間だけ。
「今日は、どんなことを勉強したの?」
「国の歴史の続きと今の皇族についてだよ。現皇帝と、そのご家族は本当に素敵な方々ばかりだね。アニス皇女様にもう会えることはないのかな?残念だな」
「そうだね。難しいと思うよ。俺もお会いしてみたかったな」
「...すっごくお綺麗な方だもんね?今も皇女様の肖像画、大人気だもん」
「...もしかして妬いてくれたの?」
「妬いてないけど...。なんだろう?ちょっと面白くないような気がする。雲の上の人なのに」
「俺にはクロエが一番だけど?」
アレクはわたしの目元を親指でなぞる。
.....なんだか最近のアレク、色気が出てきてるように感じるんですけど。
余裕みたいなものもかましちゃって、わたしばかりわたわたしてる気がする。
アレクの手が心地よくて手に顔を寄せる。
...が、耳を指でこしょこしょされて離れる。
残念そうな顔をするんじゃない。
そんなことするからだよ。
「こんにちは。僕もお邪魔しても良かったかな?」
「兄上」
「ニコラ様。ごきげんよう」
ニコラ様はアレクのお兄様でフツメンさん。23歳、既婚。
お相手は侯爵家の御令嬢で2番目の夫だそうだ。
そして、4番目まで埋まっている。
わたしが夫をアレク1人にしたいと思っていることを伝えたときは驚きはしたものの反対はされなかった。
逆にアレクを羨ましい、と言っていた。
ニコラ様はフツメン。でも1番目はイケメン公爵家嫡男。3番目、4番目も結構なイケメンらしい。
ニコラ様が言うには、だから他の夫たちと差をつけられているとか。
自分1人だけを想ってくれるなんてアレクは贅沢だと言われた。
夫1人が贅沢とは思っていたけど、そっか、夫側にしてみても妻を独り占めしているわけで贅沢なことなんだ。
わたしは自分のことばかり考えていた。
「アレクシス、そう睨むな。そんなに長居するつもりはない」
ん?
睨んでた?にこにこしてるよ?
「なんて切り替えの早い...。まぁいい。アレクシス、急ぎコレに目を通してくれ」
ニコラ様は数枚の紙をアレクに手渡した。
が、アレク、受け取らない。
「...おい」
「今はクロエとの時間なんだ。後で見る」
「急ぎ、と言っただろう?クロエさんとの時間だから呼び出さずに持ってきてやったんだ。早く見ろ。終わるまでここに居座るからな」
既にニコラ様のために椅子が運ばれ、お茶の用意もしている。
「アレク、書類受け取って?待ってるから」
「...うん。わかった」
書類を見るアレクの横顔を眺める。カッコイイ。
ふと視線を感じるとニコラ様に見られていた。
「アレクシスとは順調なようだね」
お恥ずかしい...。
「しょっちゅうノロケられてるよ。アレクシスを見ていて微笑ましいと思えるようになったのは確実にクロエさんのお陰だね。愛されるっていうことが男にとって、どれだけ自信に繋がるか目の前で見せられた」
「女も一緒ですよ?愛されていると実感できるのは幸せだし自信に繋がるというのはわかります」
「そう、か。女性も同じか」
「自信がついたからなんですかねぇ。アレクに余裕を感じます」
少し小声で話す。
ニコラ様も顔を寄せてくれる。
「余裕?」
「はい。最近、アレクの色気が凄くて翻弄されてばかりに感じます」
「色気...?」
「わたしの心臓の負担が凄いです。いつもドキドキしてしまって...。それでも一緒にいたいんですけど。でも一緒にいると、もっとドキドキするようなことがあって」
「ドキドキ...。もっとドキドキ...?コイツは何を」
「でも、わたしばかりドキドキしているみたいで、ちょっと悔しいっていうか、ズルいっていうか、アレクの色気もいいけど可愛いところも見たいっていうか...。わかります?」
「...うん?」
「前は手を繋ぐだけで、可愛いアレクを見れたのに、最近は、そんなんじゃ反撃を食らって...なんというか、その、結局わたしが翻弄されて終わる、みたいな感じになるんですよね」
「反撃、ね...。まぁ、それなら、その上をいけばいいんじゃない?知らないけど」
「その、上?」
「そう。翻弄させるっていうのが、どんなふうにかわからないけど翻弄されるより前にクロエさんが翻弄されることをやってみたら?知らないけど」
「される前に...。なるほど」
「まぁ、その結果どうなるかは、やっぱり知らないけど」
書類を読み終えたアレクが顔を上げてニコラ様とお仕事の話を始めたので、この話はここまでとなった。




