彼の色を纏ってみた
話は、怖いくらいどんどん進んでいった。
平民にはない婚約式というものをした。
パパだけでなくママも、伯爵様も同席してくれた。
パパもママも伯爵様も夫をアレク1人にすることにいい顔をしなかった。
まぁ仕方ない。普通じゃないことをしようとしているのだから。
でもパパと伯爵様は、すぐに同意してくれた。
伯爵様は自分も力になる、と言ってくれた。心強い。
ただ、ママだけは最後まで不安がっていた。ママも伯爵様と結婚した後、かなり求婚されたらしい。
でもママも元平民だから貴族の暮らしが華やかなだけではないことを知り、ゴタゴタに巻き込まれることを懸念して全て断ったようだ。
ママの意見は名前だけでもいいから夫を持て、ということだった。
夫が多いことにすれば求婚者を防ぐ手立てになる、というのだ。
でも、それってかえって面倒を呼び込みそうじゃない?
最終手段にする、ということでママを黙らせた。
明日は、わたしの誕生日。
晴れて成人の仲間入りだよ。
パパのお店でお祝いしてもらった後、ラグランジュ伯爵家でもお祝いしてくれるとのこと。
もちろん、アレクはずーっと一緒にいてくれるって。
「当たり前だろ。俺の大事な婚約者、なんだから。常に傍にいて守るよ」
くっ。貴族の生活に戻ったアレクが、今まで以上にいちいち格好良くて困る。
「パパもずっと傍にいるぞ。もちろんクロエを守るためだ」
「ありがとう、パパ」
「主にアレクシスくんからな」
「.....」
◇◇◇◇◇◇◇◇
パパのお店は招待された人だけのはずなのに呼ばれていない人も集まってきてお店の周りがパーティ状態になってしまった。
どこかからテーブルを持ってきて勝手に騒いでいる。
見回りの城の騎士の人たちが来たが問題を起こさない限りは多めに見ることにしてくれた。
平民の女の子の場合は、こういうことがよくある。
「それにしても集まりすぎじゃないか?あ、あいつら中を覗いていやがる。クロエ、こっちに来て」
「なんだ、あいつ。いつも護衛してたからって距離近すぎねぇ?」
「プレゼントはこっちな。くっそ、何個目だよ」
「どいつもこいつも紫をつけやがって、むしり取りてぇ」
アレクは、ちょこちょことやきもちを妬いていたが、それが嬉しいんだから困ったね。
ちなみに紫は、わたしの目の色だ。
婚約者とか夫じゃなければ、なんてことはない。
パパだって今日は紫のタイなんてつけている。
ちなみに髪色は、ありふれた金髪。
アレクも一緒だからお互いの色、となると目の色になる。
わたしは薄い青色のドレスを身に纏っているが、アレクからの贈り物だ。
イヤリングもネックレスも髪飾りもすべて青い石を基調にしたデザインになっている。
これ、すっごい高いんじゃない?怖いんだけど。
アレクは薄い紫に濃い紫の縁取りの丈の長いジャケットを着ている。
白に、やはり濃い紫の糸で刺繍が入っているタイをしていて...恰好良すぎる。
パパのお店でのお祝いと称したパーティ(騒ぎとも言う)は、まだ続いていたが、わたしとアレクとパパはラグランジュ伯爵家に向かった。
向こうではママと伯爵様も待っていてくれている。
わたしが派手なのは嫌だと言ったので成人のパーティにしては規模の小さなものになった。
なった?なったんだよね?コレが!?
知らない人がいっぱいいるんですけど。
ラグランジュ伯爵が教えてくれるけど覚えきれません。
「どうしようアレク、覚えきれないよ」
小声で訴えるが「女性は、それで大丈夫。覚えておいてほしいのは、もう挨拶終わってるから」と耳元で囁かれる。
うぅ、ぞくっとする。耳元はやめてほしい。
アレクは、口角を上げてわたしを覗き込む。
「耳、弱いんだ?いいこと知っちゃったな」
...なんですと?
なんかヤバい気がする。
それからアレクに誘われてダンスを踊った。平民に広まっているものとは少し違うステップに戸惑ったけれどアレクと踊りたくて1週間頑張った。
アレクも練習に付き合ってくれたし簡単なものなら何とか踊れるレベルになったのだが、目の前のアレクが美麗過ぎて、練習通りにいかない。
アレクのお陰で何とかなってるけど、これはマズい。
マズい、落ち着かなきゃ、と思えば思う程空回りしているようだ。
「大丈夫。俺だけ見てて」
だからマズいんですけど?アレクは何も悪くないけれど下から睨んでみる。
「...まさか俺に緊張してないよね?」
「...してますけど?」
アレクは綺麗な青い目を見開いたが、それはそれは素晴らしい笑顔を見せると、あろうことか耳元で囁いた。
「嬉しいよ」
もう!足がもつれるの!
また、睨んでやろうと思ったけどアレクがあんまり嬉しそうで、わたしも笑顔になっていた。
今日は、このままラグランジュ伯爵家に泊まる。
自分にあてがわれた部屋までアレクが送ってくれた。
「俺は隣の部屋だから、何かあれば呼んで?」
「うん」
「何もなくとも呼んでもいいし、来てくれてもいいんだけど...」
「ふふふ。わかった」
アレクは目元を赤く染めて「改めて成人の誕生日おめでとう」と言ったが、そのまま黙って見つめてくる。
「?」
「...キ、キス、しても、いい?」
わたしも顔が熱くなるが黙って頷いた。
アレクの腕が、わたしの腰に周り、わたしを引き寄せる。
アレクの顔が近づいてきて、わたしはそっと目を閉じた。
触れるだけのキスをして顔を離す。
また、すぐにも触れられる距離で「好きだよ、クロエ」と囁くように言われてアレクの顔が滲む。
「わたしも大好き。最高の誕生日になった。ありがとう、アレク。大好き」
もう一度、目を閉じたときに「クロエ!離れなさい!」と大きな声がした。
アレクの向こうを見るとパパがいる。
ドア開けっ放し!
そうだよね。アレクは送ってくれて、すぐに戻るつもりだったんだから。
パパは、わたしからアレクを引き離し「おやすみクロエ」と言うとドアをやや乱暴に閉めた。
おやすみも何も言えなかったよ...。




