空、飛んでみた side アレク
クロエに見送られて店を出た。
クロエは、どこまで俺を調子づかせる、いや、幸せにするんだろう。
今なら本でしか読んだことがない『風で体を浮かせる』とかできそうだ。
振り向くと、まだクロエは店先に立っていて振り向いた俺に手を振ってくれた。
俺も手を振り返す。
クロエに話しかけてるヤツがいるけど無視されてる。
こんな女の子いる!?
大きい声で叫びたい。この子、俺の恋人なんです!
ん?
俺、浮いてる?
え?足が地面に着く感じが伝わってきた。
今、浮いてなかったか?
もう一度やってみようとするがうまくいかない。
気のせいか?
まぁいい。それよりも今は父上に話をする方が先だ。
俺はB級に昇格して以来、行ってなかった皇都の邸に向かった。
だが、父上は領地に行っていて不在だった。
仕方ない。邸から馬を借りて領地に行くことにした。
馬だと3日あれば行ける。
その前に、と、クロエにメッセージを送った。
領地に行くと父上には、すぐに会えた。
「皇都の邸には顔を出さんくせに領地には来るのか?」などと皮肉を言われたが無視する。
単刀直入に言う。
「父上。今更で申し訳ありません。子爵位を俺に譲ってくださいませんか?守りたい女性ができました。勉強も再開させてください」
父上は細い目を大きくしている。
滅多に見れない目の大きなイケメン顔を眺める。
「...女性?」
「はい。皇都の親父さんが経営する食堂で親父さんを手伝うような優しい女性です。親父さんにも認めてもらって、こ、恋人、に、なりました」
「恋人?お前が?」
「俄かに信じられないのも仕方ありません。こんな俺でも恋人になれたから、という理由だと思いますが、彼女に求婚が殺到しているようです。急ぎ、何とかしたいのですが皇都にいる伯爵家の騎士を派遣してもらえませんか?」
「それは、構わんが...」
「あ。その騎士は既婚者にしてください。クロエに変な気を起こされても困るので」
「.....わかった」
「ありがとうございます」
「お前が望むなら子爵位をアレクシスに継がせるのは構わん。守りたいという女性云々を抜きにしてもな」
良かった。これでクロエの夢を叶えられる。
「うむ。その女性はクロエというのだな。父親が食堂を経営していると言ったな。ということは平民女性か」
「はい。直に成人しますが、まだ14歳の可愛い女の子です」
「しかし、何故、子爵なんだ。冒険者でも結婚はできるだろう」
「結婚はできますがS級になるくらいでないと1人で彼女を守り切れません。クロエは夫を俺1人にすることを希望していますから」
「はぁ?夫を...1人しか迎えたくない、と?」
永続的に彼女の周りを護衛で固めるには金がかかる。
俺が四六時中、傍にいられるわけではないし。いや、そうしたいのは山々だが。
S級になれば国から一時金と年金が貰える。
仮にケガをしても何とかなるが、A級は厳しい。B級以下は、まず無理だ。
「それで子爵か...。確かに、うちの子爵領なら可能だな」
「それでは...」
「こら待て。もう帰るつもりか?食事くらい取っていかんか」
「いえ、クロエが心配なので」
「安心しろ。腕の立つ騎士をすぐに出してやる」
父上は俺の目の前で小さな紙を取り出し、さらさらと書くと風で飛ばした。
おそらく皇都にいる兄上に届くのだろう。
「せっかく来たんだ。手伝っていけ」
「いや、俺は...」
「治水工事が必要になりそうでな。わたしは視察に行ってきたがお前も見てこい。そして案を出せ。そうしたら帰っていい。勉強を再開させてくれ、と言っただろう」
「...はい、言いました」
少しでも早く帰りたくて夕食前に視察だけでも済ませられないかと邸を出た。
おっと、その前にクロエにメッセージを送っとこう。
やっと視察の結果から俺なりの案をまとめあげ、父上に提出する。
「うん、基本はわたしと同じ方法だな。だが、わたしとは違う視点から見ていて参考になる部分もある。いいだろう、帰っていいぞ。ただし、俺も一緒にな。皇都に戻ったらクロエさんというお嬢さんに合わせろ。ちゃんとしたお嬢さんなら逃げられないように早く婚約してしまわねばな」
え!?
いきなりかよ。
てか、ちゃんとした、てクロエよりちゃんとしたお嬢さんなんて、どこにいるんだよ。
それにクロエにも準備とかいるだろうし、俺の父親とは言え、会ったことのない貴族なんてハードル高いって。
「いきなりはクロエも困るだろうし戻った後、一度俺が会いに行って説明するから、それからに...」
「善は急げ、と言うだろう。お前も、もう少しラグランジュ伯爵家に相応しい恰好をしてもらうぞ」
「だから俺なくて着飾っても...」
「好きな女の前では少しでも格好良くありたいと思わないのか?まだまだだな」
父上は、ふふん、と挑発するような、もしくはガキを相手にするような顔をする。
俺、もう20歳なんだけど。
帰りにも急すぎる、と説得しようとしたけど無駄だった。
もたもたしてクロエを奪われてもいいのか、と言われると、良くない。
良くないよ。
ごめん、クロエ。
こんなことになるなら、もっと早く教えれば良かった。
そんなわけで、クロエには「明日、迎えに行く 父に会って欲しい」というメッセージを送ることになってしまった。
怒ってないかな...。




