貴族にケンカ売ってみた
きらきらしたエントランスにアレクのお父様らしき人と使用人の人たちが待っていてくれた。
うー、緊張する。
「ようこそ。あなたがクロエさんだね。アレクシスの父だ」
「はじめまして。クロエと申します」
挨拶だけは伯爵様にも合格をもらっているので、きっと大丈夫。
アレクのお父様は、のっぺりした顔の優しそうな人だった。
わたしのタイプでは全然ないけど、きっとおモテになるんだろうな。
その後、お父様に案内されて、これまた広くてきらきらした部屋に案内されてソファに座った。
隣にアレクが座ってくれて、ほっとした。
お父様は、わたしの普段の仕事やパパ、ママ、ママのもう1人の夫の伯爵様のことを聞いてきた。
素行調査?本人に?と思いながらも嘘をつく必要もないので、ありのままを話した。
「ところで、アレクシスから聞いたんだがクロエさんは夫が1人、というのが望ましいとお考えかな?」
「.....理想、ですが、そうです」
「クロエさんは可愛らしい。それに、その性格なら、もっと上を望んでもいい。わたしが1人でもあなたを守りきれるような男を紹介しよう。貴族がいいかな?それとも手広く商売をしている者がいいかな?他国とも繫がりがあってね。外国の男も紹介できるよ?わたしと養子縁組すれば皇族だって範疇に入ってくる。わたしは娘がいないし...」
「待ってください。お話を遮って申し訳ありません。でも...それは、わたしとアレク、シスさんとの仲を認められない、という意味でしょうか...?」
「...そういうわけではない。アレクシスは、わたしの息子だが、こんな容姿だからね。とっくに諦めているんだ。あなたには、もっと相応しい男がいるだろう、夫を1人にするなら自他ともに一番いいと思えるような男がいいだろう?いいんだ。構わない。わたしはクロエさんを気に入ったからアレクシスを振っても怒りはしない。正直に言っていい」
最初は、こんなことを言われてアレクと離されると思ってショックだったし悲しかったが、この言葉で怒りがこみ上げてきた。
お前、父親だろうが!
息子に恋人ができたことを素直に祝えっつーの!
わたしはアレクのお父様を睨まないように、怒鳴らないように必死に自分を抑えながら言った。
「...結構です。元々わたしには夢物語だと思ってましたから。アレクシスさんと離れるくらいなら夫を2人でも3人でも迎えます。相手も自分で見つけますから、どうぞお構いなくっ」
睨まないようにしていたつもりだけど少し睨んじゃっていたかもしれない。
乱暴な言い方にならないように注意していたけれど最後、言い放つようになっちゃった。
でも、まぁいいや。
わたしは貴族じゃないから作法なんて知らないもんね。
あなたの子供になるつもりもないもんね。
「ふっ...。なるほど。お前の話は本当だな」
アレクのお父様は笑顔でアレクを見る。
わたしもアレクを見た。
「...試してるんだろう、とは思いましたが、ひやひやしました。クロエがその気になったらどうしようかと...」
「悪かったね。アレクシスがいい、だなんてどういう思惑かと思ってね?」
試された?
じゃぁ、今の話は本気じゃない?
わたしは、ゆるゆるとこみ上げてくるものを感じて、ゆっくり顔を覆った。
「クロエ?」
「.....アレク、と離されるのかと、思って、こ、怖かった...」
「クロエ...!」
アレクが、わたしを引き寄せて抱きしめてくれる。
「わ、わたし、自分が思ってた以上にアレクが好きみたい。怖かった。びっくりした。どうしようかと思った...」
「...父上!クロエに謝ってください!」
その後、泣いたわたしに平謝りのアレクのお父様だったけれど泣いてしまった恥ずかしさから素っ気ない態度になってしまったことは許してほしい。
そっちだって、結構酷いことしたんだし、いいよね?
お茶が出されていて少しは飲んでいたのだけれど、すっかり冷めてしまっていたので執事さんぽい人が替えてくれて仕切り直しとなった。
「本当にすまなかった。そんなに本気でアレクシスを好いてくれているとはびっくりだ。どうか、これからもコレが見放すようなことをしない限り、よろしく頼む」
「あの、はい。もういいですから」
「お前は相当な運の持ち主だったようだ。お前と結婚してくれるお嬢さんが現れるとは。それも、なかなかいない素敵なお嬢さんだ。見た目も可愛らしいし、アニス皇女様がいらっしゃらない今なら国で一番と言ってもいい」
...なんてことを言うのだ。
さすがに言い過ぎだ。
わたしが目を丸くしているというのにアレクは隣で「そうでしょう」と頷いている。
こ、こらこら。
そんなこと言って大丈夫なのか。
わたしは周りにいた使用人さんたちを見るが誰も驚いたような顔をしていない。
教育?教育の賜物なの?
いや待て。うんうん頷いているそこの人。怒られるぞ。
「クロエさん、あなたは自分が魅力的であることをもっと自覚するべきだ。そちらに遣わせたものから報告を受けているが、そのままでは危険だ。これから貴族の仲間入りをすることになるし、夫がアレクシス1人となると必ず結婚の申し込みがある。爵位が上のもの、強引な手を使おうとするものから、どうやって守っていくか、わたしたちは必ず守るつもりでいるが気持ちの上での自衛も必要だ。これから、あなたに必要な教育をしていくつもりだ。覚悟を決めてほしい」
「...貴族?」
「うちは2代前の伯爵が功績を上げたときに子爵位を賜っているんだ。父は伯爵位を兄に、子爵位を俺に譲ると言ってくれた。領地もある」
「アレクシスには悪いが、こいつは結婚はできないものと思っていたし本人も自分は要らないスペアだから冒険者になって家を出る、と言って本当に出ていってしまった。メッセージを送っても、ほとんど返してこないしね」
お父様は、そう言って、ちらっとアレクを見る。
アレクは涼しい顔をしてお茶を飲んだ。
わたしには毎日メッセージ送ってくれたよね?
思わずにこにこしてアレクを見ていると目元が赤くなっている。
照れてるー、可愛い。
「ふふふ。あてられる、というのは、こういうことをいうんだな。まさか息子に、それもアレクシスにあてられるとは思いもしなかった」
「...まぁ爵位を継ぐなんて考えてなかったから家庭教師から領地経営の勉強が本格的になってきた頃に、もういい、と断ったんだ。でもクロエの正直な気持ちを聞いて欲が出た。それで父上にお願いに行ったんだ。ガキの頃に言っていた子爵位を俺に、ていうのを本気で考えてほしい、て」
「もちろんOKだ。だが、その理由に戸惑った。騙されているんじゃないかとね」
なるほど。
そんなに信じられないものなのか。
女性が少ないと言っても国に数える程度、なんてわけではないし、いっぱいいれば、その中の1人や2人、ゲテモノ好、ゲフンゲフン、好みが変わったのがいてもおかしくないと思うけど。
現に皇女様の結婚相手は2人いるけど、どちらもかなりのブサイクと聞いている。
皇女様の肖像画とか似顔絵はたくさん出回っているけど夫2人はほとんどない。
だから見たことないんだけど、きっとわたしから見たらイケメンなんじゃないかな。
「と、いうわけで冒険者は廃業しようかと。勉強を再開して父上と兄上と手分けして領地へ行くこともあるだろうし忙しくなると思う。でもクロエと会う時間は確保したいし。クロエは冒険者続けてほしい?」
「わたしはアレクがやりたいようにすればいいと思う。でも領地は遠いんでしょ?わたしもついていってもいい?」
「ク...」
「はい、そこまで」
「.....」
「とりあえず、わたしもこんな大きなチャンス逃したくないんでね。クロエさんの父君も交えて話をして、さっさと婚約を結んでしまいたい。貴族には順番も大事だから。ね?アレクシス」
「...ハイ、モチロンデス」




