久しぶりのアレクを堪能してみた
そこから、なんと2週間と少し、アレクと会えなかった。
アレクからのメッセージのお陰で、お父様に用があって話したいけれど領地に行ってしまっているので急遽、領地に行くことにしたこと(遠いから1週間くらい会えない、行って帰ってくるだけで6日はかかるそうだ)、お父様と会って話をすることはできたけれど仕事を手伝わなければならなくなったこと(更に1週間くらい会えないかも、と書いてあった)がわかっていたので、そんなに不安にならずに済んだけれど。
しかも、アレクが領地へ行った数日後、ラグランジュ伯爵家の騎士と名乗る男の人が2人、わたしを警護する命を受けた、と言ってお店に来た。
はて?ラグランジュ伯爵?誰?と思ったけれどパパに言われて思い出した。
アレクの実家だ。
伯爵というのは覚えてたんだけどね?
2人は明らかに騎士とわかる恰好ではなく冒険者っぽい恰好をしていて客に紛れて警護する、と言う。
騎士が目を光らせているような所で、ご飯食べたくないだろうから営業妨害にならなくて助かるが...。
パパはラグランジュ伯爵家の印が押してある手紙を見ながら唸っていた。
「まぁ護衛が増えるのはいいことだから、ありがたく受け取っておきなさい」
パパが、お礼として食事をお店で提供することにした。
アレクがお父様にお願いしてくれたのかな。
そんなことはメッセージには書いてなかったけど。
でも、そのお陰でわたしは安心して過ごすことができたので帰ってきたらお礼しなきゃね。
アレクに会いたいなー、まだ帰れないのかなー、いつ帰ってくるのかなー、と毎日考えていた。
アレクからも毎日メッセージは届いていたけれど、いつ会えるかは書いてなかった。
そんなある日「明日、迎えに行く 父に会って欲しい」というメッセージが届いた。
なんですとー!?
ママの夫じゃない伯爵様なんて1人も会ったことないよ。
ママから伯爵様の御邸に行ってもおかしくない服はもらっているからいいけれど、ちゃんとした作法とか知らないよ?
ママから適当に教えてもらった程度だよ?
そんなんで大丈夫!?
でも、こちらからメッセージを送ることはできないしパパと相談して恰好だけは何とかなった。と、思いたい。
久々に会ったアレクは貴族の恰好をしていた。
なんか、めっちゃカッコいいんですけど?
いつも、さらっと流していた、悪く言えばボサッとしていた金髪は少し短くなってサイドも前髪も後ろに流している。
正に貴公子。王子様と言っても過言でない。
やだー、惚れ直すー。わたしをどうしたいわけー?
アレクは少し恥ずかしそうにしていた。
「こんな格好も久しぶりだけど今は仕方ないんだ、我慢して?」
「我慢?惚れ直すのを我慢? じゃないね。抱きつきたくなるのを我慢かな?」
「だ、抱きつきたいの?」
「うん、すごく。だって凄い格好いい。ぎゅーってしてほしい」
「...クロエも、すごく可愛いよ。いつも可愛いけど、そんな恰好をするとどこかの令嬢みたい。遠い存在になりそうで怖いから、あまり綺麗にならないで」
う、胸が苦しい。
本当にどうしたいんだ。
遠くになんか行きませんとも。ずっと傍で見ていたい。ずっと傍にいたい。
「あー、また桃色の空気に...。」
はっと周りに目をやると護衛と言っていた騎士2人は目を丸くしているしパパは哀しい目をしていた。
「コホン、ではクロエさんをお預かりします」
パパが頷くのを見てアレクは、わたしに手を差し出した。
そういうことをされるのは、この世界では普通のことだし、わたしも慣れていたはずなのに、こんな格好のアレクにされるとお姫様にでもなった気分だ。
アレクに手をひかれてラグランジュ伯爵家の立派な馬車に乗り込んだ。
小さめなのにママの夫の伯爵家のものより立派な気がする。
馬車が走り出すと向かいに座っていたアレクがにっこり微笑んで言った。
「久しぶりだね。毎日すごく会いたかった」
まだ会ったばかりなのに何回目の、わたしをどうしたいんだ発生です。
胸がきゅう、てなる。
「わたしもだよ。会いたいなー、いつ帰ってくるのかなー、て毎日思ってた」
「あの...、まだ抱きつきたい、とか、ぎゅうってしてほしいとか、言ってたの...、有効...?」
アレクは少し頬を赤くして首を傾げている。
くっ。可愛いか。
「...うん。ぎゅうってしてくれる?」
アレクは、ぱあっと顔を明るくさせると、わたしを抱き上げて座り、膝の上にわたしを乗せると、ぎゅ、と抱きしめてくれる。
いつもはしないコロンの匂いに妙に男の人を意識してしまう。
ふぅ。しばらく振りのアレクを堪能していたが気になっていたことを聞いてみた。
アレクのお父様のことだ。
「ところでね?アレクのお父様に会うことになったのは、どういう経緯?」
「あぁ、それは...うーん。まぁ会えばわかるよ。クロエはそのままで大丈夫だから、いつものクロエでね?」
「どゆこと?」
「クロエは可愛いってこと」
微笑むアレクに「そんなので話を逸らしたつもり?」と言ったが、おそらく赤くなっているであろうわたしでは相手にならない気がする。
ところがアレクは、じわじわと赤くなっていくではないか。
わたしを見つめたまま親指で、わたしの唇をなぞってくる。
アレクの目に今まで見たことがない熱を感じて思わず息をのむ。
アレクはわたしの頭を自身の胸に押し付けると「ちょっとこのままで頼む」と言う。
アレクの間隔の早い心音を聞きながら、早くなっている自分の心音も落ちつけるように目を瞑った。
ラグランジュ伯爵の皇都の御邸は、そう遠くなかったようで、それからすぐに着いた。
馬車の外から声をかけられ、ドアを開けた使用人らしき人はアレクとわたしを見て驚いていたが、すぐに真顔になると礼をした。
そうだった。ずっとアレクの膝の上だった...。
シリアスにはならせません。




