エピローグ
「それにしても、釈然としないなぁ……」
リーンは肘をつくと、ぼやき声をあげた。
「仕方ないですよ、今回の事件は明るみに出ると、ロザリア聖国が批難を受けてしまうんですから」
アースはリーンにそう告げる。
ヘドロの暴走と、レミリアの暗躍は秘密裏に処理されることになった。
ロザリア聖国が、関係者に多額の口止め料を支払ったこともあるのだが、被害者のカタリナがそれで手打ちにしたからだ。
「事実が明るみにでて困るのは信者だから、大ごとにはしない。カタリナも人が良すぎますからね」
自身の溜飲を下げることよりも、信者を想って口を噤んだのだ。
そんな彼女も、現在は聖女の地位を返上してどこかへと姿を消している。
「ところで、ラケシスさんはどうしたんですかね?」
ここ最近、ラケシスがアパートにいる時間が少ないとアースは感じていた。
「さあね、それよりもアースきゅん。カタリナとキスしたことあるんだって?」
「なっ! なんでそのことをリーンさんが知ってるんですかっ!」
「だって、カタリナから聞いたもん」
リーンはそう言うと悪戯な笑みを浮かべる。
「子供のころにおでこにチューとか、可愛い時代もあったものだね」
「なーんだ、そっちですか……」
「んんっ? まるで他にもキスをしたことがあるような反応?」
アースがしまったと言う顔を浮かべていると、
「戻ったわよ」
ラケシスが帰ってきた。
「お帰りなさい、ラケシスさん。言われた通り空き部屋の掃除しておきましたけど、何に使うんですか?」
先日、アースはラケシスからアパートの二階にある空き部屋を、念入りに掃除するように告げられていた。
「今日から新しい冒険者が入居するのよ。言わなかったかしら?」
「ええ、聞いてませんね……」
いつもながらの情報の伝達不足にアースは眉間を指で挟む。
「それで、今度入ってくるのはどんな人なんですか?」
「知りたい? 入ってきて良いわよ」
アースの質問に、ラケシスは不敵に笑って見せる。
「ま、まさか……ラケちん」
リーンの期待が膨らみ、ドアを凝視する。
「あれ? どうして、皆こっちを見てるの?」
すると、姿を現したのはライラだった。
「なーんだ、ライラか。がっかり……」
「本当に、……紛らわしいですよね」
溜息を吐くリーンとアース。ラケシスが思わせぶりな態度をとるので誤解してしまった。
「どうして私、いきなりそんなこと言われなきゃいけないの⁉」
あまりの扱いに、ライラは涙目になった。
「ライラはただの付き添いよ、本当に住むのは……」
カタンと音を立て、もう一人がドアの前に立っていた。
「カタリナ様?」
リーンがその人物の名を呼ぶ。
「一体どうして、カタリナが?」
聖女を辞職していなくなったと聞いている。てっきり実家の村に戻ったのだと思っていたのだが……。
「アース様。私、冒険者になったんです」
「本当に⁉」
聖女を辞めて冒険者になっているとは思わなかった。
驚くアースに代わってリーンが話し掛ける。
「いいの? 聖職者と違って、冒険者は大変なんだよ?」
過酷な環境に身を置くことになる。カタリナは望むなら聖国に留まるとだってできたはず。リーンはそのことについて触れてみた。
「いいんです、人を癒すのは別に冒険者をしていてもできますし、何よりアース様の傍にいたいので」
「うっ……そうなの?」
流石に、カタリナの言葉の意味を察したアースは顔を赤くする。カタリナはいつの間にかアースに身を寄せると抱き着いてみせた。
そんなアースの反応を見て、心穏やかでない人物が二人いた。
「ふーん、言うね」
「その勝負受けてやるわよ」
リーンとラケシスは鋭い目つきをするとカタリナを見る。
「ちょ、ちょっと、カタリナ? もう少し離れた方が……」
二人から立ち上るオーラにビビり、カタリナに忠告するアース。
「そうね、アースの言う通り。あまり私を刺激しないで頂戴」
「そうだよぉ、その身体でその距離は頂けない。アースきゅんが困っているからね」
リーンは目を血走らせると、自分にはない武器をアースに押し付けるカタリナに忠告する。
「なるほど、御二人はアース様が困っていらっしゃるから離れろと言うのですね? アース様どうですか?」
「いや、まぁ、少し……かな?」
胸の感触でドキドキしているアースは言葉を濁すしかなかった。
「わかりました、離れることにします。でもその前に……」
「「ああっ!?」」
突然、顔を近付けたカタリナは、アースにキスをした。
唇に柔らかい感触を覚えるアース、強引に剥がそうにもカタリナとアースではそれほど力に差がないためそれも難しい。
「なななななな、なんてことをするんだよっ!」
「カタリナ……あんたって娘は……」
二人が怒りのオーラを漂わせる間も、カタリナはアースから離れることなく口づけを継続する。
ひとしきりキスをして満足したカタリナは、唇を放すと恍惚とした表情を浮かべた。
「か、カタリナ?」
心臓が高鳴り、アースが彼女を見ると。
「これは私からアース様への宣戦布告です」
そう言うと、
「いつか、私の方に振り向かせてみせますからね」
これまでで、一番の笑顔を見せると共に、この問題児だらけのアパートに特大の爆弾を投下するのだった。
これにて完結となります。
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