私もアースを愛している。カタリナに負けないくらいに
「助けていただき、ありがとうございました」
カタリナは、佇まいを正すと頭を下げ、リーンとラケシスに御礼を言った。
「最初に気配に気付いたのはライラだから。胸がないのに勘は鋭いんだよね」
「胸は関係ないでしょ! それにリーンにだけは言われたくないし!」
突然貶められたライラは、顔を真っ赤にするとリーンを睨みつけた。
「ライラさんありがとうございます。助けてもらわなければ、今頃私は……」
カタリナは眉根を歪め、腕を擦った。
身体を洗い、温泉に浸かったはずなのだが、先程ヘドロに押し倒された感触がいまだに残っているきがしたのだ。
「別に、私はリーンに忠告しただけですから。リーンは胸も勘もないから……」
「どっこいどっこいの癖にそう言うこと言う!?」
二人のふざけた態度に、カタリナの表情も緩む。こうした軽口の応酬をすることで、彼女の気を紛らわせるつもりだった。
「ラケシスさんも、何度も助けていただき申し訳ありません」
「あのヘドロには、私も実害……うん、まぁ結果的には良かったのだけど……復讐する動機があったから。だから、カタリナのためってだけじゃなかったのよ」
ラケシスは、アースとのハプニングシーンを思い出すと顔を赤くした。
「取り敢えず、ロマリア聖国にはヘドロの件も含めて抗議しておくから、カタリナは自分のことだけ考えるようにしなさい」
聖女の仕組みについては、ヘドロが言葉にしたことで皆が知っている。
両親や神殿の周りを固め、逃げ場をなくすといういやらしいやり方なのだが、今回はラケシスと言う魔王クラスの人物が目撃していたため、跳ね返すことができる。
「これで、明日からも楽しく観光ができるよね」
リーンが朗らかに笑った。
「まあ、あんたがいないとアースも寂しがるかもしれないし……」
ラケシスが気遣いを見せた。
これまでの言動で、二人がアースを、アースもまた二人を特別に見ていると感じたカタリナは、ここである事実を話しておかなければならないと考える。
「御二人に話しておかなければならないことがあります」
元々、自分とアースを引き合わせてくれたのは目の前の二人だ。
想い人が見つかる前も、親身になって相談を受けてくれた。
「ん、何かにゃ?」
「何よ改まって……」
そんな彼女たちにだからこそ、アースの事情を話しておくべきだろう。
「私は、アース様を愛しています」
その言葉にリーンとラケシスはきょとんとすると……。
「今更言わなくても知ってるよ?」
「そうね、それがどうしたと言うのかしら?」
カタリナの想いなんて、アパートで既に聞いて知っている。どうして今更とばかりに二人は首を傾げる。
「御二人にとってアース様はどのような存在なのですか?」
カタリナもまた二人に問いかける。
「うーん、リーンちゃんにとってアースきゅんは……よくわからないです。最初は可愛い男の子って感じでからかってたけど、意外と男らしいところもあって。こっちが何をしても笑って許してくれる包容力もある。傍にいると落ち着く存在かな……?」
頬を掻き、照れながら答えるリーン。二人はラケシスを見た。
ラケシスはしばらく真剣な顔をして悩むと……。
「アースは、私のすべてよ」
はっきりと言い切る。
「アースが現れるまで私の世界は灰色だったわ。毎日他人から侮蔑の視線を向けられ、魔力の暴走を抑えて人と関わることを避けていた。そんな私の世界を塗り替えてくれたのがあいつよ」
胸に手をやりアースがくれた暖かさを感じる。
「あいつは本当に変なやつで、私がどれだけ冷たくしても面倒を起こしても、痛い目に遭ったことなんてすぐ忘れて近付いてくるの。最初は戸惑ったけど、しばらくして、あいつがいつも傍で笑いかけてくれるのが当たり前になると不思議と受け入れられた」
ラケシスの他人に対する不信を、アースが時間を掛けて溶かしていったのだ。
「私の心が折れそうになった時、あいつが助けてくれた。どんな時でも、私を信じて寄り添ってくれたの」
ラケシスがどれだけ冷たく突き放そうとも、アースはいつも笑顔を浮かべて近くにいてくれた。
「アース様はそう言う方ですから……」
カタリナは微笑むと昔から変わらず、他人に優しさを振りまくアースのことを誇らしく思った。
「お蔭で私はこれまでできなかった魔力を制御することができるようになったのよ」
アースから贈られた杖を胸に抱くと、ラケシスは柔らかい笑みを浮かべる。
しばしの間、その表情に惹きこまれていた三人だが、ラケシスが表情を引き締め、カタリナに真剣な眼差しを向けると、途端に気配が変わる。
ラケシスはカタリナを真っすぐ見据えると、はっきりと自分の気持ちを告げる。
「私もアースを愛している。カタリナに負けないくらいに」
カタリナのアースに対する想いについては既に知っている。知り合った時間は短いかもしれないが、ラケシスの心はアースへと向いていた。
「なるほど、お二人の気持ちは良く解りました。ならばやはり話しておくべきでしょうね」
真剣にアースに向き合う彼女たちだからこそ、アースのことを知っておいて欲しい。
カタリナは自分だけが知っているアースの出自について触れることにした。
「実はアース様は――」




