二人とも着物姿似合いますね。凄く綺麗ですよ
「いやー、堪能したなぁ」
美術館を出たアースとカタリナは近くのカフェで休憩をしていた。
「アース様は魔導具について本当に深い知識を持っているのですね。流石は……あっ!」
そこまで言ってカタリナは自分の口を右手で押さえる。
「ん、もしかしてカタリナは僕の正体を知ってるの?」
アースは表情を改めるとカタリナに質問をした。
「はい、アース様が街を去ってからまもなく、あの国から兵士が派遣されて来ましたので。その時はただ追われていることしかわからなかったのですが、聖女としての地位を得てから色々調べましたので……その、すみません」
勝手に身辺を調べられたことで気分を害したと判断した。それどころか黙っていたことで敵意があると判断されればすぐにこの場から立ち去ってしまうかもしれない。
そんな最悪を想定していたカタリナだったが……。
「そっか、知られてたか。悪いけど内緒にしてくれる?」
アースは笑顔を見せると驚く程あっさりとそう言った。
「えっ? それでいいんですか?」
「何が?」
戸惑うカタリナにアースは聞き返す。
「私がその……聖国やあの国、他の人にアース様のことを売るとは考えないのですか?」
「カタリナは僕を売るつもりなの?」
そんなこと考えてもいなかったと言うようにきょとんとすると、アースは質問した。
「い、言いませんよっ!」
カタリナは慌てて否定して立ち上がる。
「なら、いいじゃん」
カタリナをまったく疑っていないのか、アースは気楽に答える。
自分が信頼されているのだと感じたカタリナは、笑いがこみあげてくるのを堪えていたのだが、ふと目の前に知っている人物が立っているのに気付いた。
「ひさしぶりね、カタリナ」
「ラケシスさん?」
「リーンちゃんもいるよ!」
「えっ?」
アースが驚き振り返る。
「二人とも、どうしてここに……って、ふわぁ」
二人の着物姿にアースは見惚れてしまう。
「も、ももももも、もしかして!? アースさんと一緒に旅行に?!」
昨晩あった時はそのような話を聞いていないカタリナは取り乱した。
アースからは「男三人気ままな旅行」と言われていたからだ。
この時期に男女でブレスを訪れるということの意味は、カタリナも理解している。自身の良くない想像に顔を青くした。
「ち、違うわ! 偶然よっ!」
「だって……そんな偶然って……」
あるわけがないと追求しようとすると、
「私たちは、元々ライラと一緒に聖地巡礼をする予定を立ててたんだから」
二人に腕を掴まれたライラが前に出される。友人同士が仲良く腕を組むというよりは、絶対に逃がすまいと腕を掴んでいるあたりがおかしいのだが……。
「あ、あはははアースさん、奇遇ですね。私もそろそろ聖地巡礼をしたくて、この二人に護衛を頼んでいたんですよー」
決められたセリフを言わされているかのように、ぎこちない笑みを浮かべたライラがいた。
カフェの一角に何とも言えない妙な雰囲気が漂っている。
まず、一番目立つのは華やかな着物に身を包んだラケシスとリーン。元々の美しさと合わさり、ブレスの伝統衣装である着物を着ている姿は目を惹き、通りかかる人間は全員彼女たちを見ては心を奪われ溜息をもらしていた。
「それで、アース。あんた、魔導具の展示会目当てでブレスに来たんじゃなかったの?」
ラケシスは周囲から見られているのを気にすることなく、眉根を歪めるとアースに問いかけた。
「へ? 勿論そうですけど、何でその確認を?」
アースは、久しぶりに会うラケシスが何故自分に険しい視線を向けてくるのかわからなかった。
「だって、カタリナ様とデ、デートしてるじゃん!」
自分たちを騙しておいてブレスでカタリナと落ち合ってデートをしている。リーンたちにはそう映った。
「いや、偶然、カタリナが泊まっている旅館と僕たちが泊まっている旅館が同じで、再会したんですよ」
アースの言葉に嘘はないのだが……。
「そんな偶然ってあるぅ?」
まるで奇跡のような偶然なので、そう簡単に信じてはもらえない。
「偶然というのなら、たまたま女性三人で聖地巡礼にくるのもおかしいのでは?」
いかにもとってつけたかのような理由だし、ライラの表情を見る限り怪しく感じる。カタリナはそのことを指摘した……。
「うぐっ……それは……」
やましい点があるからか、即座に否定できないリーンは押し黙る。
「まあいいじゃないですか、それにしてもせっかくこうして再会したんだから楽しくやりましょうよ」
「アースさんって、相変わらずですよね」
全方位に笑顔を振りまくアースに、ライラはぼそりと呟く。
一体誰のせいで、険悪な空気になっているのか、知らぬは当人ばかり。
先程から、リーンとラケシスが掴むライラの腕がそろそろ痛くなってきているので、恨めしさを覚えずにはいられない。
どうにかして、この二人の機嫌を取って苦痛から逃れなければいけないと考えているライラだったが……。
「それにしても、二人とも着物姿似合いますね。凄く綺麗ですよ」
「えっ? そ、そうかしら?」
「もうっ、アースきゅんったら。もっと見てくれてもいいんだよ」
瞬間、二人の手が放れライラは解放される。
両側を見ると、照れているのかリーンもラケシスも顔を背けていた。
「むむむぅ……」
それとは対照的に、カタリナは頬を膨らませると妬まし気な視線を二人に送る。
(あー、聖女様もやっぱりアースさんのこと……)
道を歩いている最中の表情からして、好意を寄せているのは察せられた。
「それで、展示会はもう見終わったんでしょう?」
「ええ、先程カタリナと堪能してきましたとも」
ラケシスの問いにパンフレットを見せながら満足げな笑みを浮かべるアース。
「なら、この後は私に付き合いなさい」
「わかりました!」
ラケシスが当然とばかりにする命令に、アースは首を縦に振ると頷くのだった。




