で、アースはどこにいるのかしら?
「いやー、やっと落ち着いて行動できますよ」
ライラは満面の笑みを浮かべながらブレスの街並みを歩いていた。
道中、リーンやラケシスのせいで様々なトラブルに巻き込まれてしまった。
馬車の中は寒いし、悪路を走るせいか尻が痛くなり、途中何度も自信に治癒魔法を掛ける羽目になった。
リーンもラケシスも料理ができるわけでもなく、用意していた食糧を炭にしてしまい、ひもじい思いもした。
まさに、修験者と呼ぶにふさわしい苦行の数々を、ライラは体験させられていた。
極めつけは、女三人旅ということで大勢の男たちからナンパされ、ブチ切れたラケシスが暴れ回った末、警備の厄介になってしまったこと。
ブレスに入るまででこうなのだから、この後一緒に行動したらどのようなトラブルに巻き込まれるかわかったものではない。
そんな訳で、二人が行動を起こさない早朝の内に旅館を抜け出すと、一人観光を楽しむことにした。
「あの寺院の建造物も素敵だったなぁ」
ライラはうっとりとすると、これまで見回った建造物を思い出しにへりと笑みを浮かべた。
降臨した時の姿を元に再現されたロザリー像はこれまでみた何よりも美しかったし、聖気溢れる寺院の神々しさとくれば、その場に立つだけで自信の力が増していき、普段よりも高度な治癒魔法を扱える気がした。
「それにしても、リーンやラケシスさんに強引に連れてこられたけど、古都ブレス、いいよね」
茶店に入り、店の前に腰掛けダンゴとリョクチャというブレス名物を楽しみながら街並みを見る。
年の瀬ということで、夫婦やら恋人やら、あるいは家族。様々な人が行き交い笑顔を見せている。
「もうすぐ今年も終わりかぁ……」
今年一年、一流と呼ばれる冒険者パーティーに所属し、安定した成果を上げたライラは、実入りも良く、比較的裕福な生活を送ることができていた。
「来年こそは、リーンやラケシスさんに巻き込まれない平穏な生活を送りたい……」
リーン一人でも厄介だったというのに、最近になってラケシスまで加わり自分を引きずり回すようになった。
この分だと、来年も碌な目にあわされないに違いない。
「それには、あの二人の恋路が成就するのが一番なんだけど……」
現状、それが可能かどうか考えると、ライラには判断がつかない。
リーンとラケシスの想い人は天然な部分が多く、何を考えているのか読めないからだ。
普通、あの二人と暮らしていて、あれだけアピールされているのに何もないなんてあるのだろうか?
もしあるのだとすると、何か途轍もない理由が隠されているような気がする。
「まっ、私には関係ないけどね」
ライラはそう言うとダンゴを食べ、リョクチャを飲む。こうしてここまで付き合っている時点で、十分二人に貢献していると考えたから……。
「次はどこの寺院を見ようかなー……って? えっ?」
そんなことを考えていると、目の前をよく知る人物が通り過ぎた。
丁度今の今まで思い浮かべていたアース。
「これは、ちょっと予想外かも?」
ライラは背筋が冷たくなるのを感じる。
何故なら、アースの横に女性がいたからだ。
「魔導具展に行くと言ってブレスを目指したアースさんの隣を、超絶美白美人が歩いている。つまり……リーンたちに言った理由は嘘で、目的は逢引?」
推理の末そう結論付けたライラは、親友の思わぬ失恋に心の中で合掌する。
「まさかね……、いやアースさんも男の子だったってことだね、うん。それにしてもこんな報告ラケシスさんにしたら……」
ブレスが灰燼と化すかもしれない。そんな物騒なことをライラが考えていると……。
「今、アースがどうとか言ったかしら?」
「ひょえええええええええっ!?」
「何よ、ライラ。煩いわね」
「ラケシスさん、いつの間に?」
気配すら感じさせず背後をとられたライラは驚き、大声を上げた。
「リーンちゃんもいるよ」
振り返るとリーンもいた。
「二人とも、それ凄い。いいなー」
「にゃははは、そこの店で着付けてもらったんだよ」
二人は着物を着ており、一際華やかな装いをしている。
周囲の人間も、リーンとラケシスの着物姿に心を奪われ意識も散漫になっていた。
思わぬ美しさに息を呑むライラだったが、目の前の女神の皮を被った魔王は、先程の発言を見逃すことはなく……。
「で、アースはどこにいるのかしら?」
凄みを見せると、ライラに問いかけた。




