そうかしら。私はそうは思わないわ
「かの者に癒しを与えたまえ」
部屋の中から光が漏れる。
その柔らかい光は、聖女や聖者が扱う治癒魔法の持つ輝きで、浴びた者の傷を癒すと言われている。
「おお、娘の火傷が……」
壮年の治癒士の声がする。カタリナの治癒魔法により娘の火傷がみるみるうちに消えていったからだ。やがて…………。
「ふぅ。これでおしまいです」
カタリナは汗を拭うと娘にそう言った。
彼女は先日のテロの際、身体に大きな傷を負った。
病室に取り残されている患者を助けようと飛び込んだせいで、自分が逃げることができず、胸に大火傷を負ったのだ。
ただの切り傷などであれば治癒魔法で塞ぐこともできるのだが、広範囲に焼けただれた皮膚は生半可な治癒魔法での治療は不可能だった。
皮膚そのものを再生させる――上位の治癒魔法でなければ治すことはできない。
「聖女様。ありがとうございます」
娘は涙を零すとカタリナの手を取り首を垂れる。
彼女自身、自分の火傷をみて嘆き悲しみ。一時は女としての幸せを諦めたほどなのだ。
カタリナは泣きじゃくる彼女を優しく見つめると……。
「乙女の肌は常に綺麗にしておきませんとね。また何かあったら呼んでくださいね」
そう言うとまだ全裸でいた娘にシーツを掛けてやるのだった。
「お疲れ様です。いつも通り見事な手並みでしたね」
部屋を出るとお付きの神官がそう言ってくる。
「彼女は神殿が期待している治癒士でしたからね、これまでの貢献に見合うだけの治療にはなったかと思います」
基本的に聖女や聖人が同じ治癒士を治療することはほぼない。
大したことのない怪我であれば自分で治してしまうし、少し重い怪我の場合でも他の治癒士の練習として治すからだ。
今回のような火傷自体を消すための治癒というのは命に係わるようなものでない限りは放置されるのだ。
「彼女はまだ若く美しいですからね。あの傷さえなければ多数の殿方が彼女を求めるでしょう」
治癒を終えてみた娘の肌は白く、胸も程よく膨らんでいる。治癒士特有の柔らかい雰囲気もあって彼女はもてるのだろうとカタリナは察した。
「それは聖女様もでしょう。生まれついての美貌に、恵まれた神力。幼少の頃よりたいそうおモテになったのでしょうね」
まるで皮肉を言うように神官はそういう。その目はお世辞にも柔らかいとはいえず、社交辞令が半分。もう半分は解りやすい嫉妬だろう。
カタリナはそんな神官の視線に気付いているのだが……。
「私がモテたですか? とんでもありませんね。むしろ嫌われていたぐらいですから」
カタリナは自分が体験した幼少期の経験を思い出す。
周囲や両親から疎まれ育った苦い思い出は、たとえ今が賞賛されていようと完全に忘れることはできないのだ。
「とにかくあの娘もこれで幸せな人生に戻れるでしょうね。なにせ火傷をしていたら碌な男に嫁げませんし」
何と答えて良いか分からなかった神官は話を火傷した治癒士へと戻すのだが……。
「そうかしら。私はそうは思わないわ」
神官の言葉を否定するようにカタリナは言った。
「それは……どういう意味でしょうか?」
ここにきて戸惑いを覚える神官に、カタリナはクスリと笑って見せると……。
「火傷や外見の醜さなんて気にせず、優しく接してくれる男性。それこそが運命の相手だと思うのだから」
何かを慈しむような表情を浮かべたカタリナはぽつりとそう呟くのだった。




