わ、私にも……そういう経験があるから
「へっへっへ姉ちゃんちょっと俺と……ひいぃーーーっ!」
「何よまったく……」
大慌てで逃げ去っていくゴロツキをラケシスは冷たい目で見送った。
「本当にラケシスさんって顔が売れているんですね。これで今日5度目ですよ」
カタリナは感心しながら近くに積まれている木箱を開けては中身を確認している。
そして特に目当てが見つからないと思うと蓋を閉めた。
「はぁ、見つかりませんね」
「そもそも、どうしてあんたこんなに人気のない場所ばかり探しているのよ?」
先程からゴロツキが寄ってくるのはカタリナが治安の悪い場所にばかり行きたがるからだ。
ゴロツキどもはカタリナの無垢な顔つきと、それとは正反対の身体に反応して寄ってくる。そしてすぐそばにいるラケシスの姿を見ては慌てて逃げだしていくのだ。
先日撃退した件で見事に情報の共有がなされているようで、無理に襲い掛かってくるゴロツキがいないのがラケシスにとって幸いだった。
「えっと、いるとしたら人気のない場所じゃないかなと思ったんです」
「だからって荷物箱に入ってるわけ無いでしょう」
もしそんな場所で見つかるとしたらお尋ね者か後ろめたい者ということになる。
ラケシスは無意味な探索に付き合いたくなかった。とっとと探し人を見つけてお役御免になりたいぐらいである。
「それもそうですね。もしかしたらと考えてましたけど、大通りに戻りましょう」
カタリナは唇に手をあてて考え込むと裏路地での探索を切り上げるのだった。
大通りに戻ってくると昼時ということもあって周囲からは美味しそうな匂いが漂ってくる。
肉を焼く匂いであったり、煮込まれたスープからにじみ出る野菜の匂いだ。
どの匂いも食欲を刺激するので、カタリナは空腹だと気付いた。
「そろそろ良い時間なので一旦休憩にしましょう。それでランチなんですけど良かったらお勧めの店を……」
「生憎だけど、弁当があるのよ」
ラケシスは勝ち誇った様子で弁当を取り出した。
「へぇ、もしかして自分で作ったんですか?」
興味深く弁当をみるカタリナ。ラケシスはバスケットの蓋を開けると……。
「私が住んでいるアパートの管理人が作ったのよ。あいつ……。ちょっと量が多すぎるわよ」
明らかに1人で食べられる分量ではない。
「それは素敵な管理人さんですね。これだけ作るの大変そうです」
まるでピクニックの弁当のようにバラエティーに富んだ弁当だ。サンドイッチに揚げ物にサラダと果物までが一通りはいっていて、ラケシスを満足させようと気合が入っているのがわかった。
「あんたも食べる?」
「いいんですか?」
遠慮気味に聞き返してくるカタリナ。弁当をみて美味しそうだと思っていたところにこの提案である。素直に受けるのがはしたないと感じたので確認をした。
「構わないわ」
1人で食べきれないし、食べたとしても晩飯が入らなくなってしまう。
「それじゃあ、御一緒させていただきますね」
カタリナは嬉しそうな顔をするとそう答えるのだった。
「それで、あんたどうしてそうまでして誰かを探しているの?」
サンドイッチを食べながらラケシスは気になっていた疑問をぶつけることにした。午前中も付き合ったが、カタリナはどうやら軽い気持ちで探していないようだった。一体何が彼女を突き動かすのか聞きたくなったのだ。
「これ、美味しいですね。表面はカリッとしていて中からは肉汁がでてきて。スパイスをふんだんに使ってますよ」
2人はベンチに座っていて間には弁当が入ったバスケットを置いている。カタリナは弁当の中から揚げ物を食べると幸せそうな顔をした。
ラケシスの冷たい視線がカタリナを直撃する。
「……と、探している人の話でしたね。えーとですね、あまり詳しくお話は出来ないんですけど」
弁当に舌鼓をうっていたカタリナは切り替えると話し始めた。
「私はその人に人生を変えてもらったんです」
「それはまた大げさな話ね」
「私はその人に出会うまで周囲の人間すべてから避けられていたんです」
サンドイッチを握りしめ俯くとカタリナは呟いた。
「同い年の男の子から石を投げられたり女の子からはあざ笑われたり。両親も腫れ物を扱う様に私から距離を置いていたんです」
当時を思い出しているのだろう。カタリナの声はとても悲しそうだった。
「だけどある日、私はその人に出会ったんです。そしてその人は私に奇跡を与えてくれました。あの人が手を差し伸べてくれなければ私は今こうして治癒士をやっていないに違いありません」
具体的に何をどうしたのか話をしない。恐らくその部分は語るとまずいのだろう。
「それから私の人生は変わったんです。奇異な目で見ていた周囲の評価は一変し、私は多くの人から好意を寄せられるようになりました。私自身努力を重ね、今では一角の治癒士として認められています。だから私を救ってくれたあの人にお会いして一言お礼を言いたい。そう考えているんです」
憧れというよりも恋する乙女の瞳をカタリナはみせた。
「や、やっぱり変ですよね? たった一度しか会ったことない、それも居場所もわからない人を探しているなんて」
頬を掻きながら笑って見せるカタリナに。
「いいえ、変じゃないわよ」
「へっ?」
ラケシスにはカタリナの想いが理解できた。
「わ、私にも……そういう経験があるから」
ここにきてラケシスも顔を赤くする。自分の内心を吐露するのに気恥ずかしさを覚えたのだ。
「え、えっと……あはは。の、喉乾いちゃいましたね。私ちょっと飲み物を買ってきますね」
そんなラケシスを気遣ったのか、カタリナは立ち上がると近くの売店へと向かっていく。流石に人が多いから護衛は必要ないだろう。
そう考えて人影に消えていくカタリナを見送ると……。
「ったく。私としたことが柄にもない……。これもあれもアースのせいだわ」
ベンチに寄っかかり悪態をつく。弁当を作った彼は今頃何をしているのか?
そんなことを考えていると…………。
「あれ、ラケシスさんここでお昼食べていたんですか?」
「あ、アースっ!?」
後ろから当人が話し掛けてきた。




