皆さん何しているんですか?
「グオオオオオオッ!!!」
二メートル半ほどの大きさのグリズリーは両手をあげると威嚇行動をとっている。
「ふむ、中々力強そうではあるな……」
山の中で修業をしていたところ遭遇したモンスターとベーアは対峙していた。
「だが…………」
――ヒュヒュヒュッ――
風を切る音が3度鳴り響くと……。
「グオオオッ……オ……オ?」
眉間と両肩を貫かれたグリズリーは身体を傾けると地面へと倒れた。
「ふむ、まだまだであるな」
槍の極意は速く刺して速く抜く。基本はこの繰り返しだ。
ベーアは巨大なグリズリーに対し瞬く間に3度の攻撃を繰り出した。
グリズリーはその攻撃に全く反応が出来ず絶命した。だが、ベーアにとって満足できる成果ではなかったようだ。自分はもっと速く突ける。そう考えていた。
「山に籠って1週間。段々と神経が研ぎ澄まされてきたな」
パンツのみの姿での滝行や自然の中での瞑想。神経を研ぎ澄ませた1000本突きなどなど。
ベーアはこの1週間ずっと山籠もりをして修行を重ねてきた。
「そういえば、アース殿からの呼び出しはなかったのう?」
アースには危険が迫ったら呼ぶように言ってあった。
たとえどんな場所でも聞き逃すことなく救助に駆け付けるつもりだったのだが、この1週間アースの声をベーアは聞いていない。
「さすがに籠りきりじゃったからな。先に下山したのかもしれぬな」
アースにしても収集が終わればこの場に用はない。自分の修行を妨げないように黙って下山した可能性をベーアは考えた。
「いずれにせよ、一度ログハウスへと戻ってみるのが良かろう」
大物を仕留めたので解体作業もある。ベーアはグリズリーを背負うと拠点へと歩き始めた。
「なん……だこれは……?」
「あっ、ベーアさん久しぶりです」
拠点へと戻ってきたベーアにアースは笑顔で答えた。
「ふむ、山籠もりのせいか結構汚れていますね。とりあえず風呂にでも入ってきてはいかがでしょうか?」
そんな風に提案してくるアース。
ベーアはグリズリーを背中から下ろすと……。
「そ、その前にアース殿。これは何かな?」
ベーアはいつの間にかアースが作ったものを指差した。
「これは窯ですね」
レンガが積まれており中では何かが焼成されているようだ。
「いったい……どうやって?」
どうやって作ったのか疑問が浮かぶベーアにアースは、
「街であらかじめレンガを買っておいたんですよ。僕の『袋』にいれて運べば問題ありませんからね」
「なるほど、どうして窯が必要なのかのう?」
「そんなの決まってます。美味しいパンやピザを焼くのに欠かせないからです。あと色々作るのに高温の窯があった方が便利ですからね」
「それはアパートでもできたのではないか?」
「いえいえ、室内では耐え切れない高温が必要になりますし、庭に設置しようにも畑が近いのでスペースがありません。その点ここなら気兼ねなく使えますから」
「そ、そうであるか……」
ベーアは質問することをあきらめた。
アースから連絡がないと思ったが、まさかこんな想定外な設備を作っているとは思わなかった。
よく見るとログハウスに加えて色々と増えている。
「しかし、アース殿はここに住みかねない勢いだな」
必要な設備を整えていったに過ぎないのだろうが、1週間前と比べると随分と山が切り開かれている。
燃料の木材や、物置きなど。軽く収集にきたなんて絶対にありえない設備ができあがっていた。
「いやだな、流石に住み着くつもりはないですよ。でも、できるだけ快適に過ごしたいじゃないですか」
その充実っぷりは元のアパートの比ではない。むしろ人目が無いから自重していないので快適度はこちらが上だ。
「これは……山籠もりの修行ではなく堕落させられるかもしれぬな……」
ベーアは自分が何のためにこの場へと来たのか強く意識すると共に、決して染まらぬ覚悟を決める。
「そうだ、ログハウスの裏手に岩を使って岩風呂を作ったんです。ベーアさんが風呂からあがるころにはピザを焼くつもりなので、ゆっくり身体を休めて下さいね」
「う、うむ……そ、そうか」
だが、アースはそんなベーアの覚悟を容赦なく刈り取って行く。
結局ベーアは露天風呂を堪能するとさっぱりして出てくる。
「あっ、お帰りなさい。持って帰ってきたグリズリーを解体しておきましたよ。折角なので少し焼いておきました」
野外にテーブルを並べ、周りに松明を使って作った照明を並べる。
さながらキャンプのようで楽しそうな雰囲気だ。
「おおおおおお、これは何とも良い匂いだな。食欲がそそるわい」
「山で採れたスパイスをまぶして焼いたんですよ。ピザの具もこの山で採れたものばかりです」
何とも美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
「このような匂いを漂わせていてはモンスターが引き寄せられるやもしれぬな」
暴力的なまでの匂いに抗う事は出来ないだろう。
「その時はベーアさんが倒してくれれば食糧が増えますね」
「はっはっは、違いない。ワシの食事に手を出すモンスターは成敗してやらねばな」
そう言うとピザと肉にかぶりつく。
「う、美味いっ! グリズリー肉の柔らかさとスパイスによる味付けがたまらん。これはいくらでも食べられるぞ」
ここまでで山籠もりにきたことをベーアは完全に忘れる。
そして、こんなに美味しいものを食べられる贅沢に感謝をするのだが……。
――ガサガサガサガサッ――
「むっ!」
ベーアは槍を取ると立ち上がる。
「どうしましたか?」
ベーアの変化にアースはピザを皿に戻して様子を伺うと……。
「生き物の気配がする。急速に接近してくるぞっ!」
進行方向に槍を構えたベーアは視線を鋭くすると…………。
「こっちから美味しそうな匂いがするよっ!」
「ったく、食糧を落とすなんて間抜けがっ!」
「いい加減どこかで汚れを落としたいわ」
飛び出してくる3つの影。
「えっ……皆さん何してるんですか?」
アースとベーアが目を丸くしていると……。
「「「いつまでも降りてこないから様子を見に来たんだよっ!」」」
ケイとリーンとラケシスは恨みがましく言うのだった。




