とりあえず作っておこうかな?
隣町の事件に巻き込まれてから早くも2週間が過ぎた。
「さて、皆を送り出したし今日は何をしようかな…………」
アースが杖を渡して以来ラケシスの魔力が暴走することがなくなった。
そのお蔭もあり、アースはこれまでのようにラケシスが壊したものを修理して回る必要が無くなり余裕が出来たのだ。
「とりあえず、ラケシスさんの杖に色々材料使っちゃったからお金がないんだよな」
ミスリルのブレスレットを杖の材料に使い、そこにアダマンタイトを散りばめた。
更に、ラケシスを納得させるために【所有者固定】やら【魔力自動制御】、【充魔】などの能力を付与したのだ。
確かな目利きが見れば目玉が飛び出すほどの高性能な杖をアースはラケシスの為に用意した。
「手元に残ったのはダンジョンコアだけか、これはこれで使い道があるからいいんだけどさ」
ラケシスには杖の入手元は秘密にすることをお願いしているアース。流石に準アーティファクト級のアイテムなので出所を探られたくない。
ラケシスは「あんたがそう言うなら誰にも言わないわ」と約束をしてくれていた。
「とりあえず育ってきたハーブを摘んでポーションでも作って売りに行くとするかな……」
必要な物がまだまだあるアースは当面の資金調達を優先することにした。
「さて、まずは水でも撒こうかな」
アースは汚れても良い恰好に着替えると庭に出る。
手には水の魔導具とホースがある。
通常、魔導具というのは魔源が設置してある場所でしか使えない。
それというのも魔石から魔力を吸い出して利用するようにできていて、魔石との経路が繋がっていないと魔力が供給されないからだ。
「さて、水を撒くとするか」
だが、アースは魔法陣を弄ることで魔導具に【充魔】の能力をこっそりと付与していた。
これのお蔭で魔導具本体が魔力を溜めることができるようになる。
これによってアースは魔源が無い場所でも魔導具を扱うことができるようになっているのだが、そのことを人に漏らすわけにはいかない。
気軽に【充魔】の能力を付与できるということは、火の魔導具であれば戦争の際に一般兵士に魔道士と同じ役割を与える事もできる。
そうすれば魔道士をもっと他の場所に回せたりするし、戦略の幅が広がるのだ。
他にも魔道士がいない冒険者の水や火の確保に使えたり色々便利だ。
だが、この手の付与ができるのは世界中でも数えるほどしかおらず、その少数の人間も気楽に大量生産とはいかないのだ。
なので、もしアースの仕業とばれてしまうと大勢の人間が押しかけてきて、ひたすら【充魔】を付与させられることになるのだ。
「おお、やっぱり水を運ばなくて済むから楽だな」
アースは気楽な声で水を撒いていく。アパートから水を運んでくるのは面倒なので、魔導具に付与をした甲斐があったというものだ。
「まあ一見すると魔法具みたいに見えるけどね……」
アースの【充魔】の能力ではないが、ダンジョンから時々ドロップされるレアアイテムにはそれぞれの属性魔法を使うことができる魔法具が存在する。
大気中の魔力を取り込むことで動作するのだが、そちらは高級品なので市場であまり見かけることはない。
もし誰かに見られた場合、アースは魔法具だと言い張るつもりだった。
やがて、水を撒き終えたアースは魔導具をしまってくると。
「さて、収穫収穫っと」
熟している野菜やハーブを収穫していく。そして……。
「そろそろいい感じに育ってきたな」
以前、ラケシスに吹き飛ばされてしまい改めて作り直した虹薔薇を見た。
「これがあれば【リバイブポーション】を作れるんだよな」
リバイブポーションとは身体の部位欠損や古傷などを消し去る再生薬のことだ。
世界に存在しない訳ではないが、高難易度ダンジョンのレアドロップなので市場に殆ど出回ることがない。
「んー、どうしようかな?」
アースは一瞬悩む素振りをみせる。こんな物を売ろうものなら確実に目立つからだ。
「うん。やっぱり作っておこう」
別に売り払う必要はない。大量のアイテムを保管できる『袋』にしまっておけばよいのだ。
既にアースの『袋』には世に出したら不味いアーティファクト級のアイテムがいくつも保管されている。
「この前みたいなことが起きてその時に肝心のポーションが無かったら絶対後悔するだろうし」
もしケイやリーンにベーア。ラケシスが大怪我をしたとして、その時に間に合わない方が怖い。
アースはそう考えると【リバイブポーション】を作ることにした。




