悩み解決しましょうか?
「ベーア師範それはっ!」
ケイがテーブルを叩くと立ち上がった。そのさい食器が揺れ「カチャリ」と音を立てる。
「あああああああああ、アースきゅん。おおおおおおお、落ち着くんだよ」
リーンは取り乱すとアースを落ち着かせようとしている。
そんな2人の様子をみながらアースは納得したようにうなずいた。
「なるほど。やはりゲイなんですね?」
「「はっ?」」
予想外の態度に口をぽかんと開けるケイとリーン。
「ふむ、驚いたり嫌な顔をせぬのだな?」
アースの態度にベーアはアゴを撫でると感心してみせた。これまで打ち明けてきた相手はすべてこの時点でベーアを見る目が変わっていたからだ。
「人の趣味嗜好はそれぞれですからね。相手が嫌がるような行動をしない限り、僕は必要以上にその人を忌避するつもりはありません」
アースの真っすぐな言葉にベーアは口角を緩めると…………。
「はっはっは。まさかここまでの御仁とはな、このベーア、久々に素晴らしき男に出会えたわ」
「いいのか、アース? 実はこれまでに何人も管理人がいたけど、ベーア師範がゲイだと知ったら辞めていったんだぞ?」
「それって、ベーアさんがその人たちに何かしたんですか?」
「してないけどさ…………」
それでも他人と違うというのは周りから避けられる要因になるのだ。
「僕はそういうの好きじゃないですね。他人と違うからといってもそれは個性です。犯罪を犯さない限りは本人の好きにするべきでしょう」
その言葉にケイとリーンは顔を背けた。アースの言葉に後ろめたいものを感じたからだ。
「アース殿、ワシは気にしておらぬからあまり2人を責めないでくれ」
そんなケイとリーンのフォローをベーアはした。当人のベーアが気にしていないのならこれ以上は不要とばかりにアースは元の表情に戻る。
「ワシとて昔から男が好きだったわけではないのだ。最初は冒険者として毎日槍を振る日々だったのだが、ある日急にパーティーメンバーの男が気になりだしたのだ」
ベーアはこうなるに至った過程を語っている。
「それまでは互いの背中を預けていた仲間だったのだが、日に日に想いが募り、とうとうワシはそいつに想いを打ち明けてしまったのだ」
その瞳に悲しさが宿る。
「だが、答えは当然のように『ノー』だった。結局ワシはそのパーティーに居辛くなり抜けることになったのだ」
それから、ベーアの噂が冒険者ギルドに流れるようになると誰も彼とパーティーを組むものはいなくなった。Aランク冒険者になり、腕力で負け知らず。そんな相手に狙われたらと皆が及び腰になったからだ。
「今では1人で毎日槍を振るう日々というわけだ……」
それからはソロでギルドの仕事を受けながら人との接触を避けてきた。
「ベーア師範……」
リーンが瞳を潤ませている。彼女は自分が持っていた偏見に後悔していた。
沈黙が場を支配する。誰もがベーアの境遇を聞きどう接してよいかわからないでいる中…………。
「ベーアさんは今の自分を捨てたいのですか?」
アースが問いかけた。
「どうして男を好きになるようになったのかは分からぬ。だが、ワシとて人間だからな。報われぬ相手に恋慕するぐらいなら真っ当な相手に惚れたいと何度も悩んだぞ」
自分の心はコントロールできないのだ。もし簡単に押し殺せるのならこんなに悩んだりしない。ベーアの苦悩が伝わると…………。
「その悩みなら僕が解決してあげますよ」
「「「はっ?」」」
3人の声が重なった。
「今なんといった……?」
目を大きく開いたベーアはアースを凝視する。
「も、もしかしてアースきゅんがベーア師範の恋人になってあげるってこと?」
「リーンそんなわけないだろう……」
3人の視線が集中しているところでアースは言う。
「ベーアさんのあの槍なんですけど、いつごろから持っている物なんですか?」
だが、アースはまったく関係ない質問をした。
「あれはだな、確かAランク冒険者になった時にお祝いとして仲間たちから贈られたものだ。鋭い攻撃力があり、これまでの冒険で散々助けられてきたよ」
「なるほど」
その言葉にアースはうんうんと頷く。
「アース。それが何だってんだよ?」
そんなアースにケイは疑問をぶつけると。
「ではベーアさん。あなたがパーティーメンバーを意識し始めたのはいつからですか?」
「最初の方は良き仲間という感情しかなかったはずなのだが……いつからかのう? すまないが思い出せぬ。だが、Aランク冒険者になったころには想いを寄せていたはずだ」
「なるほどなるほど」
1人納得しているアースに。
「アースきゅん。1人で納得していないで説明してくれない?」
リーンがそう問いかけると、
「ああ、やはり原因はベーアさんの持つ槍だったんだなと思いましてね」
「なんだと?」
先程、ベーアの槍を見た時から半ば確信をしていた。アースは3人を見渡すと言った。
「ベーアさんの持っている武器は所有者をゲイにする代わりに武器の威力を上げる槍【ゲイホルクン】なんですよ」




