ー第一章(7/7)ー
サゾノフは、身体を震わせて自分を乏しめる少女の背中を見て、重く息を吐き、頭に手をやって激しく撫でまわす。
「えっ、あ、のっ! サゾノフ、先生!?」
突然の出来事に、されるがままのクリムは困惑した声でサゾノフを呼ぶ。
しかし、サゾノフはお構いなしに頭を撫でまわすことを止めない。
「お前が自分を認めない罰じゃ阿呆」
「罰って……!」
「いいか。今回、学園長にクリムを推薦したのは俺だ。今の高等部生の中で一番優秀な奴連れて来いって言われてな」
「でも私、魔法は使えません」
「それを踏まえたって、お前が一番優秀だと俺は買ってんだよ」
だから自信持て、と頭から手を放しながらサゾノフは言った。
クリムは、乱された紙を整えながら、ありがとうございます、と力なく笑った。
「まーとりあえず、次の授業まで時間あるからよー、もう一度考えてみてくれー」
「……分かりました。次は二日後でよかったですか?」
「ああー。それまではどうすんだ?」
「高等部の課題で、今は〝開拓ギルド〟の依頼をやらせてもらているので、そちらに」
「そうか……っとここまでだな」
気付けば二人は、校門に行き着いていた。
「わざわざ見送っていただいてありがとうございました」
クリムは、サゾノフに丁寧にお辞儀をする。
「いいんだよ、気を付けてな。慣れてないことして疲れてるだろうから、休むことも忘れんなよー」
「はい。それでは失礼します」
そう言って校門を出て坂を下っていくクリムの背中を見送りながら、サゾノフは何度目かのため息を吐く。
その顔は、苦虫を噛み潰したような苦渋の表情をしている。
「本当に……何でアイツなんだろうな」
やり場のない感情をぶつけるように呟いた言葉は、誰に聞こえるでもなく消えていく。
そして、サゾノフは踵を返し、職員室に戻る前に、嗜好品である〝魔煙〟を白衣の内ポケットから取り出し、喫煙場所へと足を向けた。