ー第一章(4/7)ー
分かったなー、と間延びした口調で言うサゾノフだが、生徒達は今だ緊張の糸が解けない顔で返事をした。
サゾノフは、いい感じに空気引き締まったな、と自身の授業進行を評価して、離れたところで見ていたクリムに声をかける。
「それじゃクリム。あと十分程度で授業終わっちまうから、魔法のメカニズムだけ簡単に説明してくれ」
「はい。分かりました」
サゾノフから授業進行のバトンを受け取ったクリムは、抱えていた学園から配布された教科書『初等部の魔法学』を開いて授業を始めた。
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「魔法とは、各魔法ごとに定められた〝陣の構築〟を正しく行い、その陣に生物の〝魔臓器〟に蓄えられた魔力を込めることで発動する力の総称です」
サゾノフと児童達の掛け合いを見て、すっかり緊張が解けたクリムは、児童一人一人の目を見つめながら、透き通った声で淀みなく魔法の説明を始めた。
魔法の知識に初めて触れる児童達を前に、私がオロオロしていては駄目ですね、と自身を鼓舞して授業を進行させるクリムだが、児童達はどこかやりづらそうな反応をする。
それは、クリムと目のあった児童、特に男子がすぐに目線を外し、顔を赤くするのだ。クリムはその様子を全く気にしないが、椅子に深く腰掛けて座っていたサゾノフは、にやけた顔で児童達の反応を楽しそうに見ていた。
「魔力の実、属性魔法についてはサゾノフ先生が説明してくださったので、今からは陣の構築について学んでいきましょう」
クリムはそう言うと、黒板に書かれた自習の文字を消し、新たに文字を板書する。
黙々と文字を書き起こしていたクリムの右手が不意に止まると、持っていた白色のチョークを置いた。
黒板には、
☆陣の構築の種類は2種類!
呪文詠唱……魔法を発動する体の部位に魔力を集中させて呪文を唱えると
小さな精霊が魔法陣を展開して魔法が発動する。
魔力の消費が少ない。
術式展開……すでに呪文と魔法陣が書かれた媒体に魔力を流すことで、
その魔法をすぐに発動できる。
魔力の消費が激しい。
と綺麗な字で書かれていた。
書き終えたクリムは、児童達がノートに写す時間を見計らっていると、一人の男子児童が手を上げて発言する。
「クリム先生。魔法って何種類くらいあるんですか?」
「はい。属性魔法を入れて十種類の魔法が確認されています。ですが、あと少しの時間で覚えるのは大変ですから、また明日にしましょう」
クリムは、生徒の質問に笑みを浮かべて優しく回答した。笑みを向けられた男子児童は、途端に目を見開いてどこか上の空な返事を返した。