Second Emulate Mankind
「僕は認めないよ、NOAを…墨染を処分するなんて!何考えてんだよその嫌NOA派って!会長も甘い事言ってないでソイツら調べ上げて除名させたらいいのに!」
高粱が椅子を後ろに跳ね飛ばすほど勢いよく立ち上がり声を荒げた。
「まあ落ち着きな若」
高粱の隣の山梨代表桔梗は飛ばされた椅子を戻しながら高粱を宥める。
「今は無用な衝突を起こすべきではない。狂餐種が減ってきているとはいえ今尚NOAもSEMも総員で事にあたらねばならん。戦力を減らす余裕もなく、故に諸君らの良心に頼りたいのだ」
会長は淡々と応える。目元が覆われている為に表情が伺い知れないが、その言葉からそれは打算的な理由であり、会長自身も決して嫌NOA派を甘んじて許容している訳ではないという意思が受け取れる。
「ま、仕方ねえよな。あっしらNOAは兵器だかんな。あんたらとは段違いの力を持ってる。博士の傑作たるNOAと、その二番煎じで作られたSEM…しかもSEMの血が薄まった子孫のあんたらじゃ比べもんになんねえだろ?なんならここの全員で束になったってあっしらが勝つよ」
実際には子孫ではなく“生き証人”と云われる初代SEMが2人居るが、それもNOAからすれば大差無く、考慮する意味もない事なのだろう。47人と12人、その数の差でも勝てるという自信にもなんら疑問はない。実際それだけの戦力差も墨染と共闘してきて痛いほど理解している。
「『力』が不要になったら、いつまでもそれを持ってる方が危険だと…そう思われてんだよ。あっしらは『意思』を持ってるからな。少しの気まぐれで今度はNOAがこの国を滅ぼす側にもなる」
「ならないよ!墨染は…」
「そうだな。若がそう信じてくれるだけでいいんだ」
すわ再び椅子を蹴り倒さんという勢いの高粱を制止するように、墨染は慈しむような表情で高粱の頭を撫ぜる。墨染にはこういう母のような挙動をみせる所があって、その結果か高粱などは特に墨染への愛情、執着が強い傾向にある。
「だけど…人とは違う力を持ってる兵器…それはNOAだってSEMだって同じでしょう?力の差があるだけで…」
次に疑問を挺したのは、愛媛代表の篠。しかしすかさず兵庫代表の梶が対抗する。
「はっ。力の差?それだけやあらへん。NOAに関するデータ知らんわけないやろ?異常な身体能力、再生能力、不老、獣化、無痛、生への執着、一部感情の欠如。人とは…僕らとも似ても似つかん、人の形してるだけのバケモンや」
怪訝な表情を浮かべる梶からつらつらと流れ出る生態の羅列。どれも過去の調査記録にて報告されていた事実ではあるが、そこはかとなく嫌悪の感情が含まれているように見える。
「お前!」
突如近畿地方担当のNOA、類嵐が梶へと刃を向けた。その鉄爪は今にも梶の首を掻き切らんとする位置にあり、ただならぬ憎悪を表情で顕にしている。しかし梶の方は微動だにせず平然と、笑みすら浮かべた。
「ああこわ。自制も効かんケモノはこれやから…」
「ええ加減にしいや梶。嵐も…ここで手出したら終いや」
なお類嵐を刺激しようとする梶を、京都代表―現在の首都“岡京広域連合”の首長の一角たる紫苑が制止する。
「…御大…」
類嵐は紫苑にしか懐いていないと評される通り、その言葉には素直に服従し身を退いた。
「すいません。うちのが騒いでしもて」
紫苑はざわめく一堂に対し深々と頭を下げた。
「アイツ確実に嫌NOA派だな。類嵐煽るのが目的だったろうな。紫苑が止めてなきゃここでドンパチおっ始めてたかも知れねえ」
万作の推測には概ね同感できる。梶の言葉は明らかに類嵐を扇動する為のものだった。紫苑が凶行を制止したとはいえ、類嵐の暴力的な行為を周囲に見せつけた事には変わりない。梶は嫌NOA派を正当化する口実を得たかのようなしたり顔をしている。
「どうしてそこまでNOAを…」
「皆がみんな、過去を受け入れられる訳じゃねえのさ。ここにいるSEMらは大体が家族を狂餐種に殺されてる。自らも身体を持っていかれてたりな。その仇に近いNOAを信じられなくても不思議じゃねえ」
万作の言葉通り、俺自身も東京代表の前任たる父を狂餐種の討伐中に亡くし、右足を引き裂かれ義足の身になっている。しかしそれによって狂餐種を憎むことはあれど、NOAまでその対象となった事はない。
「はあ、やだねえ。こんなにギスギスしちゃってさ。一世紀近くも人に…SEMに寄り添ってくれたNOAと敵対なんてしたくないよあたしゃ」
深くため息をついた桔梗は墨染を抱きしめた。