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初演・中の拾幕ー回想⇒歯車ー

・理解できないことが、戦いの現場で起こっている。

名も知れぬ、つい先日どこぞからやって来たばかりのよそ者が、よりにもよって“あの”二人の戦いに割り込んだ。


それも、絶対的なキネマリングの定め。舞次元(テアトラル)の理を破り、事もあろうに舞次元を強制的に解除し、引き戻すなど……。


そんなことが演劇戦士に、いや、人間に出来ることなのだろうか。

一番驚いたのは、おそらく西村だろう。


伊織は稽古場にもどってからもずっと、彼の喉元に光り輝く剣を向けていた。


「よく、わかんないけど……これ以上やったらどっちも死ぬでしょ!!?もうやめて!!」


眼光は勇敢そのもので、数々の場数を踏んだ西村でさえ、硬直を禁じ得ないほどの破棄を纏っていた。

最も、彼が伊織を警戒した理由は恐怖ではなく、状態を今に持ってきた原理が全く分からない、という、“未知”から来るものではあろうが。


「ハァ……ハァ……女。お前、何者だ?」


「加藤伊織。好物は米粉パン。最強の舞台女優になる女よ」


こんな奴が、舞次元の理を越えたというのか?

些か納得のいかない西村と、想定外の状況に泡を食うヨゼフ。両者とも無理やり舞次元から引き戻された衝撃で、疲労はピークに達していた。

とても反撃する気は起きず、同時にある種の興味も生じていたらしい。


「……見ない顔だが、ヨゼフさん、この女アンタの差し金か」


「つい最近の新人だよ」


「これまたとんでもねえのを……!!」


「生憎だが、今のは俺の仕込みじゃァねェ。どうやったのかさっぱりだ」


「……え?」


不思議そうな顔で、ヨゼフの顔を見る伊織。


「アニキ!!」


西村の腰巾着、コバンたちが彼を助け起こし、周りの団員たちは主宰のリベンジに挑もうとするも、彼はそれを制止した。


「やめろ、お前らにどうこう出来る相手じゃない」


「しかしアニキ!!」


「この俺が“やめろ”といったんだが……聞こえなかったか?」


衰弱した状態にも拘わらず、圧倒的な威圧感を伴う西村の制止。

たまらずコバンは退いた。


「今回の舞次元(テアトラル)は誤作動であり、意図した戦闘に非ず。従って違法性はなく、この一戦は無効。全員今日のことは他言無用だ。今をもって退却する」


「押忍!!!」


威勢のいい敬礼と共に、退却していくビーストファングの団員達。

本来、王族の許可がない演劇戦士同士の決闘は、法律で禁じられている。西村はそれに対する建前も、自らの都合よく繕って去るつもりらしい。


「アンタもそれでいいな。ヨゼフさん……」


「ケッ、随分と都合のいい話じゃァねェか。テメー、勝ったらどうするつもりだった」


「いつも通り、とだけ言っておこうか」


「ロクな死に方しねえぞクソガキ」


部下に肩を担がれ、その場を去ろうとした西村。


その胸倉を、突如伊織がつかんだ。


「な!?」


「テメエ何のつもりだ!!!!!」


いきり立つ団員達だが、伊織は彼らを無視して西村を突き刺す。


「迷惑料」


「は!?」


「迷惑料出しなさいよ。稽古の邪魔したんだから」


「テメェ……つけあがってんじゃ」


「いくらだ?」


コバンが抵抗しようとするのを押し退け、事もあろうに交渉に乗り出す。


「……元の世界なら三桁は吹っ掛けたけど、こっちの物価わかんないしなぁ……」


頭を掻きながら、少しの間思案した伊織は、やがて視線をソードオラクルの面々に移す。

曲がりなりにも、彼らはこの世界に来てからできた新しい“仲間”だ。憂き目にあっているなら、少しでも何とかしてやりたい。


「アンタらが取り上げたっていうソードオラクル(ウチ)の稽古場、返して」


「フザッケンナ!!テメェどんだけ舐めて……」


「よせコバン!!この女は妥当な取引をしてる」


「アニキ!!どうしちまったんです!!?」


この西村の決定には、その場にいたビーストファングの大多数のメンバーが不服の色を見せた。しかし、ある意味これは彼の英断だった。

舞次元(テアトラル)から還った衝撃で消耗している自分に対し、伊織はほぼ全くと言って良い程消耗していない。


ただでさえ得体の知れない能力を、まして本人も制御しきれていないように見える。

そんな状態でもし実力行使でもされようものなら、ソードオラクル諸共に殲滅され兼ねない。


舞次元の存在に干渉するということは、それだけ異質な力なのだ。


「次は宴で逢おう。精々鍛錬を積めよ加藤伊織……」


静寂を取り戻した稽古場。何とも形容し難い重い沈黙。雨は上がり、外では烏が哭いている。そんな空模様とは裏腹に、伊織は言い知れぬ不安に覆われている。


「伊織、まぁ、あれだ……」


沈黙を破り、煙草に火をつけたのはヨゼフだった。


「ありがとよ。俺たちの稽古場を」


音速で回る世界の速さ。理不尽な事象に取り残されそうになる不安。

それら全てを押し殺して、今は身を投じていくと決めた。


それからの伊織の成長は目覚ましいものがあり、いまやソードオラクルの四天王たる支柱。

一人で幹部クラスと互角に渡り合うまでに強化した。


そう、あの事件が起こるまでは……。




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