僕が人を助けるのは、いつだって僕自身のためさ
放課後、三春は部室に来なかった。
あれからなんとなく疎遠な感じで、いつもは一緒にやってくる部室に、私は一人でやってきていた。
教室のある東校舎の向かい側にある西校舎がいわゆる部室棟だ。その最上階である三階の、階段に一番近い部屋が『よろず部』の部室となっている。
広さは教室の半分程度。中央に依頼人を迎えるための応接スペースがあって、両の壁際には本棚がずらりと並ぶ。
大半は牧野先輩の置き土産だ。国内外を問わないミステリー小説がさらにその中の大半を占めており、依頼を待っている間、牧野先輩はよくこれらを読んで時間を潰していた。
一年ほど前だろうか。
私は『よろず部』に入ったばかりで、牧野先輩は三年生だった。一年中何かしらの依頼を受けて動き回っている牧野先輩が、珍しく部室のパイプ椅子に腰を下ろして、のんびり小説を読んでいた時、私はこんなことを聞いたのだ。
――先輩が『よろず部』を作ったのは、やっぱり人の役に立ちたいから、とかなんですか?
本棚の整理をしている私の顔を、牧野先輩は爽やかな笑顔で見上げる。
――そんなんじゃないよ。僕が人を助けるのは、いつだって僕自身のためさ。
――どういうことですか?
私が尋ねると、牧野先輩は窓の外に目を向けた。そのきれいな横顔に目を奪われそうになった。
――僕はね。ミステリー小説の主人公みたいになりたいんだ。色んな不思議なことに巻き込まれて、それを自身の知力と行動力で突破していく。そういうのに憧れた。それが、僕が『よろず部』を作った理由だよ。
先輩は私の方を振り返り、
――結果大成功だよ。こうして待っているだけで、みんなが面白いことを持ち込んできてくれるんだ。
それを聞いて、先輩らしいなと思った。依頼をこなすときはいつも楽しそうで、その結果ついてくる解決の先に、一切見返りを求めない。
依頼をこなすこと自体が、先輩にとっては依頼人からの贈り物なのである。こんな言い方はあれだが、彼にとってはどんな事案もゲーム感覚だったのかもしれない。
……そうだ。
そして、私は聞いたのだ。ずっと気になっていたことを。
――じゃあ先輩は、どうして私の入部を認めてくれたんですか?
そして先輩は答えた。
だって、*********には付き物じゃないか。
*****みたいな、***********が。
「……あれ?」
肝心の部分が思い出せなかった。まったく、なんてこった。これが廃部の危を脱する手掛かりになるかもしれないのに。
あの牧野先輩が私を買ってくれた部分は、いったいなんだったっけ?