好きよ。でもこんなのおかしいから
言われるまでもないのだ。
神がかり的な解決力を持っていたあの牧野先輩も、その手腕を振るう場面は限られていた。誰にでも解決できそうな事案には一切手を貸そうとしなかったし、『よろず部』をただの便利屋扱いしているような依頼人には、最初から耳を貸そうともしなかった。
「うん。それはわかってるの」
――でも。仕方ないんだよ。
「私と牧野先輩は、違うから」
私は顔を伏せつつ、ぽしょりと言う。
「牧野先輩と違って、私にしてあげられることは本当に限られてるから。それでも『よろず部』は守らなきゃいけないし、そのためには誰かに必要とされなくちゃいけない。だから――」
「悪いけど」
三春が私の言葉をまたも遮る。
「私ももう、『よろず部』は無くなった方がいいと思う」
私は耳を疑った。まさか三春がそんなことを言うとは思わなかった。
「ど、どうしてそんなこというの! みはるんは『よろず部』が好きじゃないの?」
「好きよ。でもこんなのおかしいから。『よろず部部長』っていう役職が、沙良にとって重みになってるとしか思えない」
「そ、そんなことは――」
そこでチャイムが鳴った。五時限目の開始だ。三春はすっと前に向き直る。
「まあ。どちらにせよ廃部は免れないでしょ。そんなに雑用がしたかったら、今のうちに次の入部先探しとけば? そういう便利な子は、どこの部でも必要とされてるだろうし」
「そ、そんな言い方――」
「おおし授業始めっぞ! やっぞ! おらやっぞ!」
のっけからハイテンション真っ盛りの数学教師田淵の言葉に、私の言葉はかき消されてしまう。
その授業中はしかし勉強どころではなく、三春に言われたさきほどの言葉がぐるぐると周り続け、その意味を考えているうちにその日の全ての授業が終わってしまった。