私みたいな凡人以下のゴミ虫、悩んで当然である。誰がゴミ虫?
私は取り出し、画面を見た。どうやらメールが来たようだった。
相手は牧野先輩からだ。またたく間に心がふわふわと浮く。
「あのなぁ、その覗きにも色々と深いわけが」
「あ、すいません、今忙しいんでちょっと黙ってて」
早々に黒猫の話を打ち切って、私は送られてきたメールの文面に見入った。
彼とメールするのは久しぶりだ。この私立夕静海高校を卒業し、県外の大学に進学してからは一度も会っていないし、メールもしていない。まあまだ四月の終わりごろだと言うことを考えれば、それほど時間は経っていないのだが。
そんななか牧野先輩からメールが来たのは、今日の昼ごろ私の方からメールを送ったからだろう。『審問会』を無事切り抜けたこと、家の屋根が吹き飛んでしまったことなどをユーモアを交えて彼に報告したのだ。
そして肝心の返信は、こんな感じである。
『まずはよろず部存続おめでとう。そうか、あまり考えてなかったけど、僕が卒業しちゃったから三人以下になっちゃったんだね。でも沙良ちゃんたちならきっと乗り越えてくれるだろうと思ってたよ。君に部長を任せて正解だった』
もうこの辺りで早速顔のによによが止まらない。誰もいないところで良かった。うん、サタケさんはまた別だから。空気、空気。
『それから家のこと、大変だったね。沙良ちゃんは無事って聞いて安心したけど、急に宇宙船が飛んできて屋根だけ持ってっちゃったなんて……とんでもない話だ。でも安心して、今度帰省したときに僕がその宇宙人捕まえてみせるよ。大丈夫、僕やろうと思ったことは大概できちゃうから。今回は本気出すし』
うん、これは今すぐにでも嘘だと謝っておいた方がいいな。本気にしてるし。でもなんとなくあの人なら本当に宇宙人を捕まえてしまいそうな気もするけど。
『三春ちゃんと佳香ちゃんも仲良くやってるみたいで安心したよ。最初はケンカばっかりしてたからね。まあそんな二人を見てるのも楽しかったけど。やっぱり沙良ちゃんの目に狂いはなかったよ。あの二人をよろず部に加えたのは正解だった』
牧野先輩のようなすごい人が、親友の二人を認めてくれるような発言をしてくれるのはすごく嬉しかった。
しかし、ケンカしてるのを見てるのも楽しかったって……。そういやあの人、二人がケンカしてても笑ってみてるだけで、全然止めようとしてなかったなぁ。あれは楽しんでたのか。
『それから、こっちの近況だっけ? 思ってたよりは、特に何もないかなぁ。授業も教養ばかりでつまんないし、騒ぐの苦手だから、飲み会なんかもほとんどパスだし。友達も今のところゼロかな。まあそれは高校のときも同じだけどね。慣れたものだよ』
なんだか心配になる内容である。まあ、確かに牧野先輩が特定の誰かとつるんでいるのは見たことないが。頼りにもされてるし、人気もあるが、言われてみれば彼に友達というものはいなかったのかもしれない。彼こそ孤高に一人で生きる人間の典型だ。
『だからまあ寂しいってことはないけど、たまによろず部にいた頃が恋しくなるよ。これがいなくなって気づくありがたみってやつかな? 沙良ちゃんたちもそんな風に僕を思ってくれてたりするのかな。なんちゃって笑』
――すいません、今から抱きしめに行ってもいいですか?
まったくもって私の琴線に触れるのが上手い人だ。普段強い人がこういう風に弱みを見せてくるのは、万事来るものがある。
『とまあ報告はこんなもんかな。ごめんね、長々と書いちゃって。沙良ちゃんからの久しぶりのメールだったからさ。メールくれて、嬉しかったよ。またいつでもください、待ってますので。それでは』
私は携帯を胸に抱いてたまらず身悶えした。ほんとに牧野先輩って人は、もう!
これはもしかしたら脈があるのではないか? そう勘違いしても仕方あるまい。慣れない大学生活の不安を吐露し、私との思い出を恋しく思い、私からの久しぶりのメールに嬉々として長文書き散らして、
――待ってますので。
「やばいやばい! これはやばいって! もう私どうしたらいいの~っ!」
「何がだ」
不満そうに私を見上げるサタケさんを、私は抱き上げぶんぶん回す。この喜びを誰かと分かち合いたい。
「何気に最近モテ期来てるし。これはもしかしたらもしかするかもしれないんだよ~!」
「だから何がだ」
彼はてっきり天空の城の住人だと思っていた。遥か高みから私を見下ろして、時折私を助けてくれる。でもその逆はない。私は永遠に彼のところにはいけない、そう思っていた。
でも、誰も土から離れては生きられないのだ。
「そっか、牧野先輩みたいな凄い人も、誰だって悩んでるんだ……」
なら、私みたいな凡人以下のゴミ虫、悩んで当然である。誰がゴミ虫?
「ん?」
と、再び携帯が震えだした。確認すると、またも牧野先輩からだ。




