葬送
「僕が思念で逐一、沙良ちゃんの頭に楽譜を送る。それに従って演奏をしてくれ」
「え」
「大丈夫。奴はもはやただデカいだけのポンコツだ。一分あればケリをつけられる」
サタケさんは自信満々だ。
しかし、私には一つに気になっていることがあった。
「あの、実は私、あの黒蛇に言われたんです。『遊楽』は戦闘には向かないものだって。奏でた曲で、次の手が簡単に読めるからって」
あんな奴のこと聞きいれたくはないが、理屈は通っている。これから攻撃する相手に、必殺技の名前を叫びながら攻撃するようなバカらしい行為だ。あんなのが許されるのは漫画の世界だけである。
私がそのことを話すと、しかしサタケさんは余裕の表情だ。あれ、もしかしてこの人はおバカなのかな。もう一回説明が必要なのかな。
「心配はいらない。これから僕が使うのは、全て『自作の魔曲』だ」
「……オリジナル?」
それは、古くからある童謡を用いるのでなく、サタケさん自身で作った曲を使って、この『遊楽』の力を引き出すということか。確かにそれならばうまく行くかもしれないが、そもそもとして、そんなこと、可能なのか?
「行くぞ」
始まりから劇的だった。サタケさんには何もしている様子がないのに、私の手に持っている『遊楽』は更なる強烈な光を纏い、その表面から私の中へじりじりと何かが送られてくるのがわかった。
指が勝手に動く。しかし奏でる音はしっちゃかめっちゃかもいいとこで、もはや音楽ではなかった。まるで、子供がピアノの鍵盤をめちゃくちゃに叩いて遊んでいるかのようだ。
本当にこれでいいのか。そう思った瞬間である。私の背中に再び翼が生えて、それが躍動し、私は空を飛んだ。
その私たちを、黒蛇は視線の先で追いかけている。
「これから連続でいくつかコマンドを叩き込む。辛いかもしれんが、ほんの十数秒だ。頑張って耐えてくれ。途中で気を抜いたら大変なことになる」
サタケさんが言う。私はこくりと頷いた。
「序曲、『k:iuew?hues』」
瞬間、『遊楽』から光が飛び出し、それが黒蛇の体へと殺到する。私の指の動き、ひいてはそれが生み出す音の連なりに合わせて、その光たちはまるで私の手足のように動いてくれる。
「行進曲、『wwdeu$d@』」
光によって、あの大きな黒蛇の体が持ち上げられていく。しかしそれは黒蛇自身の意思には反するものだ。それから逃れようともがいているが、何かに縛り付けられているかのようにうごめくのが限界だ。
「狂想曲、『po|\te&ew』」
次に『遊楽』が繰り出したのは、れっきとした攻撃だった。無数にも思える光の槍が、流星のごとく乱れ飛び、黒き蛇の体を闇夜に暴き立てるのもつかの間、そのことごとくが黒蛇の身を貫いて行く。
そんな中、しかし私もただでは済まなかった。演奏している間、まるで湯船の栓を抜いてしまったかのように、生命力がどんどん抜け落ちている感覚がある。視界はもう定まらないし、意識を保つのがやっとだ。
「ここまでが限界か……やむをえまい」
サタケさんがちらっと私の方を見て、何かを決意したように言った。
私は視線で、その意味を尋ねる。
「これから奴を、三門様のもとへ転送する。その先は何とかしてくださるだろう」
そして、
「葬送曲、『eid%ahei』」
またしても空間のただ中に次元の裂け目が現れる。黒蛇の体は光に包まれ、その裂け目の中へと消えて行った。
それを見届け、ホッとした矢先である。
私は意識を失ってしまった。




