私、頼られるの好きですから
心臓がどくりと唸った。
私の願いがちゃんと届いたのだ。
「む? 沙良ちゃんではないか。あれ、というか僕はなぜここに……」
サタケさんは不思議そうな表情で辺りをきょろきょろと見回す。屋根がぶっとんでいる私の家。怪我をしているお父さんや、坂下くんの姿。その二人を必死で手当てしているお母さんに、心配そうな表情で手伝いをしている未帆。
そして、今にも泣き崩れてしまいそうな私の顔を見て、サタケさんは言った。
「君が、僕を呼んだのか?」
「……っ」
言葉は出なかった。嗚咽が漏れないよう口元を押さえながら、こくりと頷く。
「そうか……で、今はどういう状況なのだ?」
尋ねられ、私は静かにサタケさんの背後、いやほとんど真上を指差していた。
サタケさんは振り返る。
そこには、もはや怪獣映画に出てくるような巨体と化した黒蛇の姿があった。
「……なるほどな」
サタケさんは、存外驚いた様子もなく、すぐにやるべきことを察したのか、私の肩の上に飛び乗ってきて、こう言った。
「この期に及んで僕はまだ沙良ちゃんに迷惑をかけていたわけか。もはやどうやってこの体たらくに報いればよいのか考えの及びもつかないが、まずはこいつを無に帰すことで、改めての謝罪の機会をいただくということでよいか?」
「うん」
「すまんな。と、迷惑ついでにもう一つ頼みがあるのだが、これから奴を倒すのに、沙良ちゃんも協力してくれないか? 昨日の一件で、僕はもう向こう半年分の魔力を使い果たしてしまった。奴を倒すには、君の魔力を借りる必要がある」
「え、いやそんなこと言われても、私そんなもの持ってないし」
正真正銘、私は普通の人間だ。そして人間なんてものは、魔力など持っていない。牧野先輩辺りは何となく持っていても不思議はない気はするが……いや、さすがにそれもないか。
先輩はともかく、私は魔力なんて微塵も……
「いや、持っておるぞ」
「え」
「沙良ちゃんに僕の姿が見えているのが、何よりの証拠だ。そもそも持っていなければ、『遊楽』は扱えていないはずなのだ」
確かに、私以外の人たちにはサタケさんの姿を見ることもできなかった。
しかし私には見えた。
坂下くんにもだ。
それが私たちにも魔力が宿っている証拠なのだと彼は言う。
だとすれば、私にはまだあの黒蛇を倒すチャンスが残っているというわけか。
「沙良ちゃん、頼めるか」
サタケさんが尋ねてくる。
私は黒蛇の方を見たまま、首を縦に振った。
「もちろんですよ。私、頼られるの好きですから」
その瞬間だった。佐々野宅の二階を越える高さにまで成長した黒蛇が、首をのそっと動かした。
その闇のように黒い全身から、すらっと伸びる眩いばかりの白い牙が凶暴に光っている。ちろちろと出し入れされる長い舌は、私たちを挑発しているかのようだ。




