お姉ちゃんを辱めてやろうと思って
私は自宅のベッドの上に瞬間移動していた。
手にはほのかに光たたえている『遊楽』がある。
とりあえずは坂下たちから逃れられたが、このままではまずい。奴らがここに追ってくれば、今度は家族を巻き込んでしまう。
そう、例えば今私の目の前で、見知らぬえっちな本をいそいそと並べている妹とかを。
「てか未帆! 私の部屋でなにやっての⁉」
そう怒鳴りつけると、私の妹、佐々野未帆はびくりとその大きな体を震わせた。大きなと言っても、お父さんと違って太ってはいない。でも中学生で身長が175センチもある。
でも顔は幼い。申し訳程度に私に似ている顔を、たちまち驚きに染めて、
「うわ! お姉ちゃんいつからそこにいたの⁉」
「まず私の質問に答えなさい!」
人の部屋に勝手に入り込んで、えっちな本を並べているとは一体どういう了見か。是が非でも説明が欲しいところだ。恐らくどんな理由があっても納得などしないが。
「だって、お姉ちゃんのお友達が泊まりにくるって聞いたから」
「だから⁉」
「お姉ちゃんを辱めてやろうと思って」
こいつはもうダメなのかもしれない。
少なくとも早急に手をうつ必要がある。少しパンチの効いた強烈なお説教を施す必要がありそうだ。お父さんはあんなだし、お母さんも余程のことがないと怒らないので、ここは私が何とかしないといけない。未帆の将来は私にかかっている。
しかし、今はのんきに姉妹ゲンカしている場合ではないのだ。
「とりあえず、未帆はそれ全部持って自分の部屋に戻って! お説教はまた今度にしてあげるから」
「えー、今回は未遂だよー? これはお説教なしじゃない?」
「どこが未遂⁉ 現行犯逮捕だよこれは! ていうか全然反省してないね⁉ もうお姉ちゃん本気で怒ったから!」
そのときである。
何やら部屋全体から、ミシミシ、ミシミシというきしむような音が聞こえてきた。それはやがてピキピキビキビキバキバキズゴゴゴと破壊音に変じていく。
――まさか……。
そのまさかだった。
次の瞬間、私の部屋の屋根が冗談のように吹き飛んだ。
その先にはただただ夜空が広がっている。ぽつりぽつりと星が見え、少しきれいだった。傍に立つ未帆は「ほえー」とのんきそうにそれを見上げている。いやのんき過ぎるでしょ。
「未帆! 今すぐお父さんとお母さんをつれて逃げて!」
「え?」
「いいから! お願い! 今はお姉ちゃんのいうことを聞いて!」
こんなバカげたことができるのは、奴らしかいまい。まさかこんなにも早く追いついてくるとは思わなかったけれど。
「待ってよ、お姉ちゃんも逃げたほうが――」
「早くしてって言ってるでしょ!」
そう未帆を怒鳴りつけ、周囲を必死に見回す。今のところ姿は見えないが、必ずどこかにいるはずだ。
そこへ、大きな音を聞きつけたお父さんとお母さんがやはり駆けつけてくる。息切れ切れに階段を駆け上がってきたらしい。
「おい未帆! アタックの練習は家の中でやるなとあれほど――ってなんじゃこらあああ⁉」
屋根のぶっとんだ光景に、びっくり仰天していた。無理もないが、そんなのんきなことをしている場合じゃない。
「ここを戦場に選ぶとは、貴様は家族の命が惜しくはないのか」
背後。
半ばで折れた柱の上に、一人の少年が立っている。マント風に羽織っていた学ランは邪魔臭くなったのか、すでに脱ぎ捨てられていた。
しかし手元には、やはりあのギターがある。刃物や拳銃なんかよりずっと凶悪な武器が。




